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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十二話 岩魔!外宇宙から来た妖怪
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妖霊退治人対二大怪物

 二大宇宙妖怪獣に囲まれ、絶体絶命の天摩くノ一衆と半九郎……


 このまま外宇宙から来た妖怪エイリアンの餌食になってしまうのか!? 


 屋根の破壊孔から大きな顔を覗かせる宇宙暴君竜ダイランクス。 


「ぴえええええっ!!」


「グルルルル……ぐふふふ……星鼠ネズミどもを見つけたぞ!!」


「ネズミじゃないよ、この大口トカゲ!!」


「待て、紅羽……それよりも皆の衆……さっき打ち合わせた通りに……」


 三人はコクリとうなずいた。


 竜胆は屋根が破壊される前に手短に策をねり、三人に打ちあわせていたのだ。


 円月輪をもった小柄な少女忍者が暴君竜の前に出た。


 少年ダビデと巨人ゴリアテ以上の体格差である。


「なんだぁ……ちびすけ、早く逃げないと、踏みつぶしてやるぞ……がははははは!!」


 肉食恐竜が大きな右足をあげた。


「失礼ですね……天摩流幻術・胡蝶群舞こちょうぐんぶなのです!!」


 黄蝶が臍下丹田にためた神気を解放し、両手の円月輪のさきから神気が五色の蝶々(ちょうちょう)と化して乱れ飛ぶ。


 それが数百もの群れをなして肉食恐竜と岩石猿を視界にまといつく。


 仲間の位置もわからなくなる。


「ぐわあぁぁ……なにも見えないぞ!?」


「なぜ虫が急に発生した!?」


 視界を塞がれた肉食恐竜は首を回して避けるがどうにもならない。


 暴君竜は腹立ちがてらに足で黄蝶のいた辺りを踏みつぶしたが、もちろん空をきる。


 怪物猿は両手で蝶をはねのけるが、小さな蝶々をよけきれるものではない。


「天摩流氷術・氷獄ひょうごく!」


 その間に竜胆が両手を大地につけ、青き神気を送る。


 すると、岩猿と恐竜の足元の地中から材木ほどの大きさの霜柱しもばしらが次々と伸び、戒めの鎖となって岩魔たちを拘束し、たちまち氷像となって固まる。


 幻の蝶は霞のように消え去った。


「グルルルゥ……なんだこの氷の戒めは!!」


「またしても……こんなものは効かんというのがわからんか!!」


 怪力巨大猿がまたも両腕で氷を割り、肉食恐竜は巨体を回して氷獄を破った。 


 そのとき、背後に凄まじい熱気を感じた。


「天摩流火術・炎竜破えんりゅうは!!」 


 蝶の群れで気を引いた隙に、背後に廻っていたのだ。


 紅羽の双太刀から赤い闘気が炎となって渦巻き、火炎の竜巻が恐竜と岩猿を火だるまにした。


「あちちちっ!!」


「やりやがったな!!」


 怒った暴君竜がグルリと半回転し、紅羽に巨大な尻尾を打ちつけた。


 周囲の長屋の壁が巻き添えで半壊するが、剣客忍者には当たらない。


 粉塵が濛々と立ち込める。


「おのれぇ……どこへ行ったぁ!!」


 暴君竜が耳を澄ますと、背後でドボンと水音がした。


「そっちにいるのか!?」


 思わずそちらを振り向く暴君竜がドスドスと大地を揺るがして音のした方角へ向かう。


 水音は粉塵にまぎれて黄蝶が井戸に瓦礫を落してたてた陽動であり、分断策でもある。


 これぞ巧妙陽中陰の術のひとつ逃走の術であり、水遁の術の一種だ。


「おい、待て、岩魔七号!」


 岩石猿が仲間を呼ぶが、背中に手裏剣がかつ、戞、戞と当たる音がした。


 小さな影……黄蝶が瓦礫をヒョイヒョイとカモシカのように跳ねて去っていくのが見えた。


「そっちにもいたか!!」


 鼻息荒く、前脚をついて四つん這いで黄蝶を駆け寄る岩石猿。


 だが、これは二大怪獣を分断する竜胆の策略であり、まんまと上手くいった。




「この辺りで音がしたはずだが……」


 宇宙恐竜の眼前にひらひらと桃色の花弁が舞い、躑躅つつじの鮮やかな花が鼻面に落ちた。


「なんだ……この花……」


 岩魔七号は右手で鼻面の花を払おうとしたが、暴君竜の腕は短くて届かない事にきがついて苦笑した。


 そのとき、急に右頬の辺りで冬のように冷たい気配を感じた。


「まさか……そこか!」


 紅羽が忍法火炎つつじで気を引いて生じた一瞬の隙を狙い、気配を消していた竜胆が暴君竜の顔のそばに跳躍していたのである。


 怜悧とした美貌の巫女忍者は、すでに臍下丹田に神気を蓄積していた。


 青い神気をこめた薙刀を、右八相から振り下ろした。


「天摩流氷術・青竜斬せいりゅうぎり!!」


 天空に昇る青鱗の龍の幻像が浮かび、凍てつく冷気の斬撃破が暴君竜ダイランクスの猪首いくびを真横から切り裂いた。


 竜胆の策はこうだ……黄蝶が幻術で岩猿の眩戯めくらましをして気を引き、その間に岩石猿の硬い皮膚を火術で熱し、氷術で急激に冷やす。


 急激な加熱と冷却により物体内に急激な温度変化が発生。


 それに伴う衝撃的な熱応力によって岩肌が破壊されたのだ。


「ぐぎゃあぁぁぁっ!!!」


 恐竜王ダイランクスの首が地面に落下し、バラバラに破砕し、首無しの胴体もドウと倒れ、ヒビが入って崩壊していった。


「やったな、竜胆!!」


 屋根に着地した竜胆を、火炎つつじで気を引いた紅羽が称える。


 しかし、竜胆はいぶかしげに岩塊を見つめる。


「いや、まだ早いのじゃ……」


 恐竜の残骸の中にあった赤い石が輝き、時間が巻き戻ったかのように飛散した岩塊が元に戻って行った。


 岩魔の再生力である。 


「やはり、こやつも不死身か!?」


「ぐるるるる……無駄なことよぉぉ」


 口だけ先に再生した暴君竜が不気味に嘲笑った。


 だが、長屋の屋根の上で、薙刀を構えた竜胆は、岩魔七号を冷ややかに見ていた。


「そうかのう……あれだけの巨体を何度も再生するのは、力と気力がいる……一度が限界なのではないか?」


「ぎくぅぅぅ……貴様、なぜそれを知っている!?」


「……やはりのう……かまをかけてみただけじゃ!」


「しまったぁぁぁ……この牝餓鬼めすがきぃぃぃぃ!!!」


 巨大な顎を開き、屋根上の竜胆を噛み殺さんと襲いかかった。


 が、竜胆は素早く向こう側の地面に飛び退き、紅羽が残った。


「おっと……今度はあたしの出番だ!!」


「誰でもいい……まずは貴様からだぁぁ!!」


 屋根の上で紅羽がふたたび比翼剣二刀の柄をくっつけて、両刃大薙刀を作ろうとしたとき、肉食恐竜が飛び出てきた。


 ナイフにように尖った牙が生えた口が紅羽に迫る。


 バキバキバキ……バキャッ!!


 なんということであろう……


 暴君竜は巨大な顎で瓦や屋根板ごと紅羽を呑みこんだのだ。


「グルルルゥ……」


 ニヤリと笑う恐竜王ダイランクス。


 が、閉じられた口が開いた。


 紅羽が口の中で比翼剣の両刃大薙刀を完成させ、上顎と下顎を上下で串刺しにしたのだ。


 声なき悲鳴がとどろく。


「天摩忍剣法・鳳凰大車輪ほうおうだいしゃりん!!!」


 両刃比翼剣はそのまま灼熱し、熱したナイフがパンを切るがごとく、巨大肉食恐竜の正中線にそって、頭部、頸部、胴体、尻尾まで切り裂いていった。


 ブオオオオオオオオオオンッ!!! 


 風圧が唸り、紅羽の手許に戻ってきた。


 それを捕まえたと同時に、恐竜王ダイランクスは真っ二つになり、バラバラの岩塊となって崩れ散った。


「これでしまいだ、大口トカゲ!!」


「見事じゃ……紅羽……」




 一方、巨猿に変身した岩魔六号は背中に手裏剣を撃った忍者が消えた当たりの気配を探っている。


 壊れた長屋の瓦礫が周囲に散らばり、小さな人間がどこに隠れているか、わかりにくい。


「おのれ、あのチビ助、どこへいった!!」


「チビ助じゃないです! 黄蝶なのですよ!!」


「どうでもいいわい……チビ助め、ひねり殺してやる!!」


 巨猿が腕を伸ばして少女忍者を捕まえようと身を乗り出す。


 が、黄蝶は慌てず両手で印を結んだ。


「天摩流忍法・地縛じしばり!!」


 結印をした少女忍者の髪にタンポポに似た黄色い花がポンポンと次々と咲き、紫紺色の忍者装束にも次々と黄花は咲き乱れ、岩石猿の全身が黄色い花と化した。


「なんだぁ!? 原始人の子供が花まみれに……」


 黄花はそれだけにとどまらず、足をつたって地面、長屋の壁や屋根瓦、井戸、結晶化した長屋の残骸などにも黄花が咲き続け、宇宙ゴリラの足元から、足、胴体へと花が咲いていく。


「なんだこりゃあ……気味が悪い!!」


 岩石猿が毛を逆立て、黄色い花を両手でむしりとる。が、花の繁茂はんもは広がった。


 この黄色い花は『地縛』といい、春期に黄色い花を咲かせ、茎は地面下に伸びて長く這うことから、『地面を縛る』ことから『地縛り』と名づけられたと云われる。


 岩魔六号の顔面にも花が蔓延まんえんしていく。


 両手の皮膚にも黄花が咲き、口腔や鼻孔にまで咲きだし、息が苦しくなる。


「ぐふぉぉ……くりゅひい……ひきが……れきなひ……」


 それが急に呼吸が楽になった。


「花が消えた……もしかして、幻影術か!?」


 そう気が付いたとき、正面に殺気を感じた。


 視線の元をたどると、長屋の屋根瓦に黒羽織の男が立っていた。


 両手を高くあげ、上段の構えをとり、岩石猿の頭頂へ飛んだ。


霊剣れいけん袈裟斬けさぎり!」


「莫迦め……岩石猿ガーロックの肌は鋼鉄の刃では切れん、刃が折れるだけよ……がはははははは……」


 避けもせず嘲笑する巨大猿獣の右肩口から霊刀が斬りつけられた。


 岩石を刀で切ることはできない、折れてしまう。


 が、岩状の皮膚に亀裂が入り、ヒビがひろがる。


「なにぃぃ……ヒビが……」


 驚く岩魔六号。


 長屋の甍に黄蝶の影があった。


 冬の冷たい茶碗に熱い熱湯をそそぐと割れてしまうことがある……急激な温度差が硬い岩の肌を割ったのだ。


「これは只の刀ではない。秋芳尼さまに愛刀を一時的に霊剣にしてもらっているのだ!!」


「なんだとぉぉぉ!?」


 半九郎の霊剣による斬撃が、岩石怪物の右肩口から斜めにそって、胸板、水月みぞおち腹腔神経叢ふくこうしんけいそう、左腰まで斬り下げていく。


「ぐわあああああああっ!!」


 岩石猿が斜め二つに割れ、ヒビが全身に広がり、バラバラの岩塊となって散らばった。




 岩石怪獣の残骸の中から、よろよろとグロッキー状態の岩石人間たちが瓦礫をかきわけ這い出し、六号と七号が合流した。


「くそぉぉぉ……なんて奴らだ……」


「もう……巨大獣に変身するエネルギーも……戦う力もない……」


 そこへ、妖霊退治人たちが取り囲み、刃先を突きつける。


「ひいいいいっ!?」


「もう、再生をする余力もないようじゃな……」


「吟味をさせてもらうぞ……お前たちは、他の星から来た妖怪だと言ったな……いったい、何を企んで日ノ本までやってきた!!」


 岩魔七号は懐から星型正多面体の通信機を取り出し、何か叫んだ。


「……舟よ……ここまで来てくれ」


「なに……舟を呼んだのか? だが、ここは陸地だぞ」


「ふふふふふ……遊星ボートともいう……地球の原始人どもには理解できないだろうが……」


 その頃、才槌長屋から北、細川長門守屋敷より向こう、神田川の和泉橋と新橋の間にある河水の底が七色に輝く。


 ボコボコと泡を吹きあげ、水底から飛沫しぶきをあげて何かが浮上してきた。


 未知の飛行物体は南の方角へ飛び、竜胆たちの頭上に現れた。


 キィィィィ――――――ン!!


「なんですかっ……あれ!!」


「なんだっ、あの光る物体は!?」 


 それは銀色に輝く円盤状の怪物体ザ・シングであった。


 小船より大きい、直径10メートルほどの小型円盤は奇妙な音をあげて夜空に浮遊していた。



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