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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第二話 妖刃!鎌鼬斬り
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大江戸妖怪騒動記

 巨体を揺らせ地響きをたてて紅羽にせまる大妖怪。巨大鎌が月下で不気味に閃く。そこを、紅羽の前に竜胆が薙刀をかまえて進み出る。


「今度は逃さぬぞ、大蟷螂! 天摩忍法・吹雪ふぶき!」


 竜胆の構えた薙刀から氷雪が吹き上げて、白い闇が鎌之助を包みこむ。


「……莫迦め……冷気は俺の好物だ……」


 竜胆は敵のエネルギーとなる吹雪を“あえて”浴びせた。それは、鎌鼬三兄弟の旋風に包まれてこちらへ移動する間に考えた策であった。時間を少し巻き戻して、鎌之助に逃げられた暗闇坂に戻る。




 歯噛はがみして悔しがる紅羽。


「くそぉぉぉ……追いかけるぞ……」


「待ってください、紅羽姐さん! いい手があります」


 紅羽が忍者走りで追いかけようとしたとき、カマイタチの又一郎が声をかけた。三人がポン! と、煙を上げて元のイタチ姿に変化。


「鎌鼬妖術・風神疾駆ふうじんしっく!」


 鎌鼬三兄弟が三人娘を、円陣をつくって囲み、つむじ風を巻き起こした。渦が大きくなると、又一郎は紅羽の肩に飛び乗る。又二郎は竜胆の肩へ、又三郎は黄蝶の肩に乗る。すると、風に包まれて全員が宙に浮かびあがる。


「うわわわわッ!! 飛んだぞぉぉぉ!」


「ぬうう……これは凄い妖術じゃのう……」


「又三郎さん、凄いですぅ!!!」


 かくて一行は月夜に飛翔する巨大肉食昆虫を追いかける。その間、作戦会議の打ち合わせをすることにした。


「……私の氷遁と黄蝶の風遁は鎌之助に力を与えると言ったな……」


「確かに鎌之助は草木を枯らせる秋の気・『粛殺しゅくさつ』の化身だっちゃ……氷雪や風の忍法、妖術はかえって奴の餌になるっちゃよ……」


「鎌之助はカマキリの姿だが、雪国越後の鎌切坂の下で、長年にわたる陰の気の吹きだまりが妖怪となったもの……だから暗闇坂みたいに陰の気が集まる坂を好んで棲み処といたしやす……」


「だから俺たちも捕まえるのに苦労したんでさ……」


 又三郎、又一郎が説明し、又二郎が愚痴をこぼした。


「でもでも、あたしの炎竜破は効いたようだったよ……」


「どうやら、紅羽ちゃんの火遁術は苦手みたいですぅ……」


「鎌之助は陰の気で生まれた妖怪……陽の気の火術は苦手なようだっちゃ……」

「ならば、紅羽を主軸にして、我等はそれを手助けする策を考えねば……」


 又三郎の推測に、竜胆が思案顔になって策を考える。さらに他の者のアイディアを取り入れブレインストーミングは白熱した。




 かくして、妖怪退治人と風妖怪の連合隊は大妖怪撃滅作戦をひっさげ麻布十番町へ到着したのだ。

 空腹の鎌之助は喉の渇きをいやすように大顎を開いて、吹雪を掃除機のように体内に吸引して取り込んでいく。巨大カマキリの背後に黄蝶がそっと顔を出す。女の子を避難させて駆けつけたのだ。


「悪いカマキリさんは許せないですぅ……天摩忍法・鎌鼬!」


 黄蝶が印を結び臍下丹田に〈神気〉を集め、両手に円月輪をつかみ、羽ばたくように風を巻き起こす。一心不乱に冷気を吸い込む鎌之助は気がつかない。その風は回転するつむじ風となってのカマキリの背中にあるはねを襲う。


 ――キィィィィィィン! 


 低圧の旋風から真空が発生し、真空のやいばが巨大カマキリの翅をズタズタに斬り裂いた!


「又三郎、又二郎、俺たちの出番だ!」


「いいとこ見せるだわや~~」


 さらに鎌鼬三兄弟も旋風と変化して第二陣となって肉迫。前脚の爪を鎌状に変化させて翅を斬り落とす。


「キシャアァァァァ! ……なにぃぃぃぃぃぃ!!」


 これでは飛んで移動も、退散もできない……策にハマったと鎌之助は気がつく。


「見たか鎌鼬兄弟の『妖術・切り刻み』を!」


「いひひひひ……これでただの地を這う虫なんさ~~」


 又三郎が黄蝶に嬉しげに話した。


「私達と同じ名前の忍法とは嬉しいっちゃ!」


「えへへへへ……ですぅぅぅ!」


 鎌鼬兄弟が囃し立てるなか、黄蝶が照れる。


「……おのれぇぇぇ! 貴様らから食ってやる!」


 ズシンッズシンッと地響きをたてて黄蝶にせまる。大鎌が閃き、黄蝶はさきほど鎌之助に捕食されかけた恐怖を思い出して足がすくむ。


「そうはいかないっちゃ!」


 鎌鼬三兄弟が黄蝶を囲み、妖術・風神疾駆で宙に逃げ去る。巻き起こした砂埃や木片がカマキリ妖怪の視界を封じた。だが勘を頼りに追いかける。行く手に遮る建物を大鎌で真っ二つに破壊した。


「鬼さんこちら♪」


 又二郎の声に導かれ追いかける大妖怪。やがて、砂埃が消えゆくと広い空き地に出た。いや、空き地ではない、麻布十番町の地名の元になった十番馬場だ。馬術稽古ばじゅつけいこのために広い敷地だ。そこに入り込んだ大蟷螂は急に体躯が傾いていく。


 ――ズシィィィィィィィィン!!


 地面を揺らして大妖怪が転倒した。見れば地面がアイスリンクのように氷面となっていた。


「見たか、私の忍法・『花冷』の威力を……」


 竜胆が軍師よろしく近くの武家屋敷の瓦屋根の上で腕を組んでいた。黄蝶と鎌鼬三兄弟がここへ誘導したのだ。同じ屋根には紅羽もいた。


 紅羽は屋根から飛鳥のごとく跳躍した。その間に臍下丹田に蓄積した〈神気〉を解放し、全身に赤い闘気が陽炎のように螺旋にうずまく。本能から危険を察知した鎌之助が石より硬い大鎌でガードしようとしたが、氷面ですべって迎撃態勢にもちこめない。


 大蟷螂の頭上に飛翔した彼女はくれないの斬撃破をたたきこむ。


「これで最期よ……天摩忍法・朱雀すざく落としぃぃぃぃ!」


 翼をひろげた朱色に燃える鳳凰の幻像がうかび、大妖怪の全身を唐竹割りに一刀両断していく。


「うがぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 巨大肉食昆虫妖怪が両断され、妖気が漏れ出て縮小していく……無数の白い光が溢れ出た。犠牲者たちの霊魂だ――神気を使い尽くしてヘロヘロになった紅羽がその場にへたりこむ。


「……あんなに多くの霊魂を……」


 摩利支天の信仰者である紅羽、竜胆、黄蝶が瞑目して経を唱えた。

 消えゆくカマキリ妖怪と紅羽に近づいた一同は小さな昆虫となった鎌之助を見た。このままでは妖気とともに宙に霧散してしまう。神道の巫女である竜胆が五角形の木の板――絵馬を取り出して呪文を口にする。


六根清浄ろっこんしょじょう……絵馬封印えまふういん!」


 消えゆく妖気が無地の絵馬に吸い込まれていく……それが終わると絵馬には、カマキリの墨絵が描かれていた。


「絵馬封印術ですか……初めて見たっちゃ……」


「鳳空院の摩利支天神社で奉納するべきだが……越後に持っていくか?」


「……いいんですかい? 竜胆姐さん……」

 絵馬を差し出す竜胆に鎌鼬三兄弟は恐縮した。


「……悪い妖怪さんでしたけど、故郷で眠ったほうがいいですよ……」


 黄蝶が竜胆から絵馬を受けとり、又三郎に渡す。


「……ありがとうございます……」


 三兄弟は三人娘に深々と頭を下げた。


「おぉぉぉ! 堅物の竜胆がどうした? 姐さんとか言われて情が移ったのか?」


「からかうでない、紅羽!」


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