あとがき
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
今回は気楽なコメディ編で、黄蝶の主役回です。
「神秘!猫町温泉奇譚」は、詩人の萩原朔太郎が描いた小説『猫町』がモチーフです。
『猫町』は萩原朔太郎自身がひどい方向音痴だったことを利用して、散歩で道に迷ったことで、異世界感覚を楽しんでいたことを元にして書いた幻想短編小説であります。
北越の温泉にでかけた「私」が豪華な美しい町に訪れると、ふとしたきっかけで、人間の姿をした猫の世界にはいってしまうというものです。
実は萩原朔太郎は離婚して落ち込んだ時期に書いていたようですね。
萩原朔太郎は探偵小説好きで、江戸川乱歩とも交流があり、「人間椅子」や「パノラマ島奇譚」を絶賛しています。
乱歩の評論集「幻影城」には、乱歩好みのユートピア幻想物語であるからか、『猫町』も紹介されていました。
この話は漫画家の水木しげる氏も好きなようで、「ゲゲゲの鬼太郎」、「河童の三平」でも猫町をモチーフにした話を書いています。
つげ義春氏も朔太郎の猫町に感銘をうけて『猫町紀行』という随筆を書いています。
猫町ならぬ犬目宿にまぎれこむ話です。(あいにく未読)
まあ、高尚な幻想譚も、私がアレンジしちゃうとこういう風に、俗なコメディ話になってしまうのですが……
それに、子供の頃みた「まんが日本昔ばなし」の怖くてトラウマになった回もモチーフですね。
旅人がある立派な御屋敷に泊って、お風呂につかろうとする。だが、その宿の女中が突然、自分は昔、お隣にいた三毛猫だといい、ここで湯につかり、飯を食べると、猫になってしまうという。
それを知って逃げ出した旅人に、猫妖怪たちが温泉のお湯を柄杓でもって追いかけてくる……という怪談話です。
今回その話を調べてみたら、「猫岳の猫」という、熊本県阿蘇山の根子岳に伝わる昔話でした。
ちなみに、これと似た話は九州から中国地方にもあるようで、山口県の昔話で「猫山の話」という話もあって、「まんが日本昔ばなし」でアニメ化されていました。
作中に登場する『猫又街道妖物双六』にはモデルがありまして、幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師・歌川芳員が安政五(1858)年に描いた『百種怪談妖怪双六』です。
振り出しは広い家の中で、怪談噺をはじめ、一話が終わるごとに蝋燭を消していく姿が描かれています。
日本各地の妖怪の駒があり、提灯お岩や海坊主、アカナメ、ヤマビコ、船幽霊などが描かれております。上りは古御所の妖猫となっております。
これは今でもアマゾンでも買えるので、お正月の双六ゲームか夏の怪談大会などにいかがでしょうか?
私は正月にチビッコたちと双六遊びをしましたが、特に小学三年の甥は遊ぶうちに、アガリから逆に進もうと言い出したり、サイコロを二つ使おうなどと言ったり、遊びにたいして創意工夫と熱心さがありました。
この熱意を勉強に向けてくれればねえ……(笑)
今回、双六の歴史を調べたら、昔はサイコロを二つ使って遊んでいたようで、甥っ子の偶然に驚かされます。
そういえば、時代劇の丁半賭博でもサイコロを二つ使うのは、双六からの流れだったのかもしれません。
あと、スゴロクのなかばで「振りだしに戻る」がでたら、たいがい、勝てないですなあ……
あと、子供向けのなぞなぞブックも、侮れないものがありますよ。
まあ、そんな遊びの経験も小説の役に立つものですなあ。
と、まあ、今回は短い話だし、コメディだし、気楽に書けると思っていたのですが、話に筋道をたてて小説にする、今までに書いたことのない展開を考え、執筆するのはエネルギーがいるようで、これを書いた一ヶ月半で、ぴったり1kg痩せました。
普段、ルーティンワークで仕事をしていると、体重の増減はないのですが、ここ数年で、小説を書くと体重が減ることに気がつきました。
小説を書くというのは、ダイエットにもなるようですねえ。
脳みそを働かせると、糖分が必要になるので、そのせいでしょうか。
それだけでは足りなくて、糖分を脂肪化してためこんだエネルギーを棚卸しして使うせいでしょうかねえ?
手塚治虫先生は、漫画を描くのに脳に糖分が必要だとケーキをホールごと食べたといいますし、歌手の北島三郎氏はステージで唄う前に弁当箱一個分のアンコを食べても太らず、糖尿病にもならなかったといますし。
創作には糖分が必要なんでしょうねえ。
だけど、横山光輝先生は後年、糖尿病になって、自分でインシュリン注射をしていたので、気をつけないといけないと思います。
手塚先生も糖尿病にならなかったのは、自身が医学者だったので、セーブ量を知っていたのかもしれません。
まあ、医学者に聞かないと正確なことはわかりませんが……
次回は「岩魔!遊星よりの怪物体Γ」(仮)の予定ですが、時代考証やらなんやらで時間がかかりそうです。
2021年5月26日 辻風一




