表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第十一話 神秘!猫町温泉奇譚
304/429

忍び寄る魔の手

 黄蝶たちと次第高の競争は、抜きつ抜かれつ、追いつけ追い越せと、攻防がつづき、絵双六の競争は最終局面にはいった。


 次第高はあと六マスであがり、黄蝶たちはあと十マスであがりだ。


 次第高は『提灯お岩』の升目世界で正解したが、進めるのは二マスで、あと六マスだ。


「次は黄蝶の番ですぅぅ……」


 黄蝶がサイコロを持ち上げて転がした。

 紅羽が必死に祈る。


「六出ろ、六出ろ、ロクロク出ろ……」


「ろくろっ首みたいじゃが、六が出て欲しいところじゃ……」


「やったぁぁ……六なのですぅぅ!!」


「さすが双六達人の黄蝶……ここぞという場所で強運だな!」


 三女忍は『土佐とさ蛸入道たこにゅうどう』の升目世界に飛んだ。

 荒海の中に巨大なタコが鎮座し、近くの岩場に黄蝶たちが立っていた。


「なぞなぞを出すタコ……妖怪村では毎年、カッパ、テング、オニ、タヌキなど、十匹の妖怪たちが駆けっこをしています。さて、タコが駆けっこをすると、いつも何番に着くでしょう?」


「駆けっこって……その足で陸上を走れるのか?」


「う~む……確か『本朝食鑑』によると、たこは夜になると岸にあがり、八足を地につけ、飛ぶように走って畑に入り、芋を掘って食べるということがある、とあったのう……」


「えっ!? そうなのですか?」


「日ノ本のあちこちで信じられておる話のようじゃが……」


 元禄年間にでた『本朝食鑑』には、「八~九尺から一~二丈(約2・4m~約6m)にもなる大蛸がいて、長足で人を巻きとり、海中に引き入れて食べる」とある。


 また、『日本山海名産図会』には、「越中富士滑川の大蛸は牛馬を取って喰らい、漁舟を転覆させて人を取る。これを捕える術はない。

 この蛸の足を軒に吊るせば病気になる」などと、江戸時代のタコは妖怪視されていたのだ。


 実際のタコはあまり動かない生活で、水を体に吸い込んでサイフォン(漏斗)という器官から噴射して泳ぐ事ができるが、あまり泳ぎは上手ではない。


 最近の研究によると、タコは他の足を体にまきつけ、二本の足で海底を歩き回り、捕食者から逃れる姿が撮影されている、


「これもダジャレか、トンチなのじゃ……タコ……カケッコ……いんを踏んでおるのはわかるのじゃが……」


「一番……ではないよなあ……二番か、三番か……タコだから八番かな?」


「紅羽ちゃん、そんな単純なわけは……」


 黄蝶が否定しようとして、急にひらめくものがあった。


「おかげでわかったですよ!!」


「冴えているな黄蝶! 答えはなんだ!!」


「九番ですぅ!」


「そのココロは?」


「タコの足に吸盤きゅうばんがついているからですよ!」


「なるほど、うまいのじゃ!!」


「答えは……大せい……」


 蛸入道が大正解と言おうとした時、猫又大尽が「にゃんだー、にゃんだらー、にゃんじゃらほい!」と呪文を唱えて、妖力を升目世界の蛸入道におくった。


 すると、葛飾北斎の大蛸絵のごとく、触手が天摩くノ一三人衆にからみつき、その柔肌に食い込み、離さない。


「おい、なんだ急に!!」


「きゃあああっ!! 気持ち悪いのですぅぅ!!」


「お前たちはいかせないタコぉぉ……一回休みタコぉぉぉ!!」


「おい、それは規約違反だぞぉ!!」


「どうやら、猫又大尽が蛸入道を妖力で操っているようじゃ!!」


「そんな……龍女公主さまが黙っていないのですよ!!」


「あいにくだが、龍女公主さまはお休み中にゃ……お先に失礼するじゃらほい!」


 奥座敷では番頭猫と幇間猫がしてやったりと、ほくそ笑み、狸坂の長と狐坂の長も知らん顔……やはり同じ穴のムジナである。


「龍女公主さま、起きてくださいにゃ!」


「次第高がずるをしているのでありんす!!」


 黒蘭と千代松が酔潰れて眠りこけている龍女公主を揺り起こすが、ちっとも目覚めそうにない。

 盤面では次第高がサイコロを振り、五の目が出た。


「やったにゃ!! あと、一マスであがりじゃらほい!! 人間たちは一回休みだから、わしがまた振るにゃ!!」


 このままでは、次第高が絵双六試合で勝ってしまう……


 その頃、黄蝶たちのいる升目世界では、


「天魔流忍法・鎌鼬かまいたち!!」


 黄蝶が両手から真空の刃を送りだし、三女忍を絡め取る触手を切り裂いて、解放された。


「ぎゃあああ……こいつらスカンタコ!」


「蛸入道! 焼きダコにされたくなかったら、元の世界に戻しな!!」


 紅羽が右手から火焔を出して蛸入道を脅しつける。


「わ……わかったタコぉぉ!! 焼きダコは勘弁してほしいタコぉぉ!!!」


 かくて、天摩くノ一三人衆は升目世界から飛び出て、奥座敷の特大双六の盤面に戻った。


「やややのや! どうやって戻ったにゃ!!」


「もうズルはさせないぞ、次第高ぁ!!」


「くっ……先に上がりにいったほうが勝ちじゃらほい!」


 次第高がそういうと、江双六の盤面がニョキニョキと盛り上がり、夜中の猫又坂となった。

 日暮前に猫の母子おやこが日向ぼっこをしていた場所である。

 ゆるやかな坂の上には、上りの『古御所の妖猫』がある。


「勝手に双六の規則を変えるなよ!!」


「元々、こういう規則にゃ!!」


 取りつく島がなく、三女忍も追いかけた。贅沢ぜいたく暮らしで太った猫又大尽に、坂を駆け登るのは心臓に悪いようで、速度が落ちる。


「はぁ……はぁ……疲れたにゃ……」


「いまですよ、追い越すですぅ!!」


「そうはいかないにゃ!! にゃんだら~、にゃんぶら~、にゃんじゃんらほい!!」


 ゆるやかな猫又坂がどんどん登り坂になっていった。


「ややや……坂が急勾配きゅうこうばいになったぞ……」


「次第高の妖術攻撃じゃ!!」


「ぴええええっ!!」


 坂の地面はやがて直角となり、三人は坂の下に転がってしまいそうになる。

 が、苦無くないを出して地面にすがりつく。


「味をやるにゃ……だが、これで最後にゃ!!」


 直角の坂の地面がさらに曲がり、黄蝶たちにのしかかり、その姿をおおつくした。

 まるで大地から巨大な舌がのびて叩きつけたようである。


「にゃふふふふ……これぞ妖術『次第坂しだいざか』じゃらほい。奴らは生き埋め……勝つのはわしだにゃ!!」


 彼女たちは土の中に生き埋めになってしまったのだ!! 

 危し、天摩くノ一三人衆!!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ