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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第二話 妖刃!鎌鼬斬り
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連撃のくノ一

 身の丈3丈(9メートル)を上回るカマキリは首をキョロキョロと動き、ありえない角度まで左右に回し、回転させた。


 カマキリの頭部と前胸の間はやわらかくできていて、回転と伸縮の自由度が高い。多数のリングが連結した構造で、洗濯機の排水ホースのようだ。これはえさを狩るために進化したものであろう。


「……キリキリキリキリ……今宵は獲物が……六人もいる……」


「あっ、しゃべったのですぅぅぅ!」


「やはり、ただの虫ではなく妖怪じゃな……」


「図体がでかいくてビビッてちゃ、妖怪退治人はつとまんないよ! いくぞ、鎌之助とやら……」


 三人のくノ一娘が武器を構えて〈神気〉を練る。巨大カマキリは透明な膜のようなはねを羽ばたいて砂塵を巻き起こし、暗闇坂の木立ちの葉っぱを飛散させた。紅羽たちが思わず腕で目を覆った。


「きゃあああああああああああ!」


 その声に紅羽は愕然として見上げると、巨大カマキリが前肢の鎌を素早く動かして黄蝶を捕えていた。大顎おおあごが上下左右に開いて噛み砕こう開き、唾液を垂らして黄蝶に迫る。


「「黄蝶ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」


 紅羽が必死の形相で太刀を鎌に叩きつける。竜胆も薙刀を兄弟昆虫の鎌に突き刺し、撫で斬りにするが、石のように硬い。


「この虫けらめ! 大事な妹分を放せぇぇぇぇ……火遁・炎竜破えんりゅうは!」


 紅羽の凄まじい怒りがためていた〈神気〉を赤い陽炎に変えた。愛用の太刀から高熱火炎の竜巻を吹きだして昆虫妖怪の顔面に浴びせる!


 これにはさしもの大妖怪も顔をそむけて後退する。わずかにゆるんだ隙を逃さず、鎌鼬の又三郎が小獣姿から煙を上げて人間姿――富山の薬売り姿に変化し、下半身をつむじ風と化して宙に舞い、黄蝶を前肢から奪い取った。


「黄蝶ちゃん!」


「又三郎さん……ありがとうですぅぅぅ!」


「……おのれぇぇぇ……カマイタチか……江戸まで追ってきたか……」


くノ一達の前に小さな影が飛び出してきた。鎌鼬兄弟の又一郎と又二郎だ。「ポン!」と音がして渡世人姿の人間体に変身した。長兄の又一郎が口火をきる。


「鎌之助! もう、こんな事はやめて越後国に帰るのさ……」


 巨大カマキリは前かがみになって、複眼に妖気が漂う鎌鼬兄弟たちを補足した。


「……ぬうう……鎌鼬三兄弟か? キリキリキリ……ケシツブほどに小さくて……わからんかったぞぉぉぉ……」


「お前がそんなに大きくなったのは数えきれないほどの人間の血を吸ったからだろう……なんでこんな事を……」


「……しゃらくさい……人間の命など虫の命と同じよ……幾千の血を啜って妖力を高め……俺様は窮奇きゅうきのジジイに代わって……風神大王になるんだ……キリキリキリキリキリ……」


「お前が野望を持っていたことは知っていたが、だからって、罪のない人間達まで手にかけるとは……」


「人間は年々と数を増やし……風妖怪の縄張りやすみかを侵食した害虫だ……代わりに駆除してやったのだぞ……キリキリキリ……」

「俺だって人間は好きじゃねえが……あ、姉御たちは別ですぜ……だからってやりすぎだぜ……」


 次男坊の又二郎が黄蝶を地面に着地し、黄蝶を下して口をはさんだ。


「チイ兄者あんにゃのいう通りだ……鎌之助、私は里の人間と接したが、そう悪い人間ばかりではないよ……」


 三男の又三郎も諭すように口をそえた。


「……やかましい……人間なんぞに肩入れするなぞ……風妖怪の名折れ……いや、裏切り者だ……」

 大蟷螂は両前肢を交差させて一気に下段に振りおろす。


「妖術・鎌風かまかぜ!」


 鎌の斬撃から突風が巻き起こり、螺旋を描く竜巻となって鎌鼬三兄弟と紅羽、黄蝶と竜胆を襲う。さらに、キィィィィンと音がしたと思ったら、渡世人の笠が、合羽が、忍者装束の袖が、手甲が、脚絆が、斬られていた。


「これは……真空の刃だっ!」


 咄嗟の反射神経で致命傷はさけたが、あわや「真っ二つ……」という戦慄が背筋をかけぬける。紅羽が手の甲でアゴ下の汗をぬぐった。


「これが越後の鎌鼬の正体といわれる真空の刃か……ちょっち、ヤバいわね」


「泣き言なんてらしくないぞ、紅羽!」


「誰が泣くもんですか……妖怪退治人の真価をみせてやろうじゃない!」


「そうじゃな……我らの波状攻撃をみせてくれん」


「今度は捕まらないですぅぅぅ!」


 紅羽が臍下丹田で練った〈神気〉を太刀から火炎弾として打ち出す。


「火遁・火鼠連撃!」


 暗闇に急に明かりが生じて驚いた巨大カマキリは体をのけぞらせ、たじろいだ様子だ。が、前肢の鎌を交差して火炎弾をガード。


「風遁・風塵!」


 黄蝶が両手の円月輪を華麗に舞って、黄色い〈神気〉で起こしたつむじ風が砂埃や落ち葉を巻き上げ、大妖怪の視界を封じた。


「氷遁・花冷はなびえ!」


 竜胆が〈神気〉を氷の結晶と化して薙刀をふるう。青い凍結波が巨大カマキリが大地を踏む四本の足を氷らせて釘付けにする。


「ダメ押しよっ!」


 紅羽の合図で三人の女忍びが鉤縄かぎなわを頭上で回転させ、遠心力で速度をつけて怪昆虫の巨体と肢にからませた。鉤縄とは縄の先に鉄鉤がついた忍者の七つ道具で、これで高い壁や石垣、崖や谷を渡ったという。くノ一達は早駆けで縄を妖怪に次々と巻きつけ、暗闇坂に繁茂する木々の枝をつかって動けないように緊縛した。


「……キリキリキリキリキリ……」

 鎌之助が縄を斬ろうとするが動かない……


「おぉぉぉぉっ! あの巨体が動かない……さすがは姐御!」


「人間の妖怪退治人もやるもんだがね……さすがは姐さんたちだ!」


 動きを封じられた大蟷螂にカマイタチ兄弟も称賛した。


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