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妖怪夜道怪

「なにぃぃぃ……の妖霊退治人だとぉ!?」


「そう、人を泣かせる悪行妖怪を、人知れず倒していくのが妖霊退治人なのさ!!」


 真っ赤な夕陽が山の稜線にかかり、妖僧と三人娘の影が身長よりも長くのびている。


 三人の娘が着物に隠した飾り糸を引っぱる。

 すると、女侍の羽織袴、巫女の羽織袴、黄八丈の着物がバラバラに分解した。

 その下からは紫色の忍者装束が現れた。

 彼女達の着物は糸一本で分解するカラクリ仕掛けの衣服なのである。

 三人娘は太刀、薙刀、円月輪をもって構えた。


 妖怪・夜道怪がなにごとかと括目かつもくして見やる。


「赤い炎の翼! 紅羽くれは参上よ!」


 背後に炎の中を飛ぶ赤い朱雀の幻像が浮かぶ。


「……同じく、氷原の龍の牙! 竜胆りんどう推参! ……じゃ」


 背後に氷原に渦巻く白龍のイメージが浮かんだ。


「花園に舞う風! 黄蝶きちょう参上ですぅ~~」


 背後に花園に舞い飛ぶ五色の蝶の幻像が映る。


「「「天魔忍群くノ一衆参上!」」」


 紅羽と黄蝶がドヤ顔で決めた。

 だが、竜胆は恥ずかしげに構えを解いた。


「なあ……この見得みえを切ること、やっぱりいらぬのではないか……」


「いいや、必要だよ、竜胆! あたしたちが何者なのか妖怪に知らしめないと!」


「私と紅羽ちゃんが一生懸命考えた、自信作の名乗りと見得台詞みえせりふなのです!」


 紅羽と黄蝶はノリノリだ。

 あっけにとられていた夜道怪が憤慨し、


「なんというふざけた妖霊退治人どもだ……わしの邪魔をするのはゆるさん!!」


「夜道怪、さらった人々をどこへやった!!」


「さらった人間か? やはははは……すべて、この袋の中よ……」


 妖怪坊主が背負った風呂敷包の袋をゆすって陰険な笑みを浮かべる。


「大きな背負い袋ですけど、あの中に宿場町の人々が全部入るとは思えないですよぉ!?」


 紅羽がふふんと、口の端をあげた。


「ふつうの袋だったらな……妖術で袋を媒介に、異界におくったんじゃないか」


「ははぁっ、なるほどなのです!」


「ほう……阿呆な娘どもかと思ったが、腐っても妖霊退治人のようだな……そう、察しの通り、この袋はわしが妖術でつくったもの……別の世界・かくれ里に二百人以上の人間を隠してあるわい!」


「ぴええええっ!! 二百人以上もですか!!」


「そうよ……お前たちも、袋の中の世界に閉じ込めてくれる!!」


 夜道怪が背負った袋の口を開いた。

 闇黒の空間から風音がして、近くに落ちている木の葉や小石が吸い取られていった。

 妖霊退治人を名のる娘たちを吸引すべく、ブラックホールのごとき闇黒の吸引風が紅羽たちを襲った。

 とっさに近くの岩陰に隠れた三人。


 巨大な樹木が地面から根っ子ごと吸い上げられ、水飴のようにのびて合切袋に吸い込まれていく。


「ぴええええっ!!!」


「くっ……このままでは吸い込まれる……」


「そうはさせぬのじゃ!!」


 竜胆の薙刀が蒼く光り、周囲の空気が急激に冷えはじめた。


「天摩流氷術・花冷!!」


 薙刀から吹雪が生じ、夜道怪のいる方向が銀世界に包まれた。

 妖怪坊主は視界を閉ざされ、おもわず袋を落した。

 忍法・花冷は夜道怪の袋をピンポイントで襲い、口周辺を氷漬けにしてしまった。

 これでは吸引妖術が使えない。


「なにぃぃ……しまったぁぁ!!」


「覚悟ぉぉぉ!!」


 紅羽が跳躍し、太刀を上段に構えて夜道怪を斬り下ろした。

 妖僧が真っ二つ……のはずが硬い手応えを感じてはねのけられた。


「なにぃぃ!!」


 剣客忍者の必殺剣を防いだのは夜道怪の両手であった。

 妖僧の両手はエビやカニのようなはさみに変化している。

 左手のハサミだけ、右手よりも三倍も大きい。


「妖術・甲殻鋏こうかくばさみ……刀剣や弓矢をも弾く強度を持つわしの武器よ……これで切り刻んでやるわい!!」


 夜道怪のハサミが紅羽の首を両断しようと迫る。

 右のハサミ、左の大ハサミが交互に撃ち出され、さしもの女忍者も防戦に回って下がりつづける。

 背後に逃れた紅羽の背中にけやきの木がぶつかった。


「しまったっ……」


「やはははは……死ねい!!」


 死の大鋏おおばさみが紅羽の首を両断……と、思いきや、紅羽はすばやく左に飛び退いていた。

 女忍の首の身代りに欅の幹が両断されて、木の葉を巻き散らして樹木が倒れていく。


「今じゃ!!」


 その隙に背後から迫った竜胆が、夜道怪の鳩尾みおおちを背中から貫いた。

 墨染すみぞめの衣から薙刀の刃が顔を出す。

 これは致命傷だ。


 が、妖僧は胸前に出た刃の螻蛄首けらくびを両手でつかんで体をくの字に折り曲げた。

 たまらず竜胆が空中に投げ出された。


「なんじゃとっ!?」


 驚愕する竜胆が空中で三回転して着地。


「やはははは……無駄よ、無駄……わしは不死身の妖怪よ」


 嘲笑する夜道怪が鳩尾から出た薙刀を引き抜き、竜胆へ投じた。

 あわや串刺し……とはならず、飛鳥のように身軽に飛んで避けた。


「不死身じゃと……莫迦な……」


 巫女忍者は地面に串刺しとなった愛刀を引き抜いて取り戻した。

 そこへ黄蝶と紅羽が駈け寄る。


「大丈夫ですか、竜胆ちゃん!!」


「ああ……抜かったわ……」


「竜胆、不死身の妖怪に弱点はないのか?」


「う~~む……そうじゃのう……頭と胴体が離れればさすがに……」


「それだっ!!」


「なにをゴチャゴチャいっている!!」


 れた夜道怪が宙を飛び、三人娘に甲殻鋏で襲いかかった。

 三女忍が三方に散ったあと、その中心地が左手の大鋏が激突し、土砂が飛散する。


「なんて奴だ……」


「ここは黄蝶にまかせるですぅ……天摩忍法・胡蝶群舞こちょうぐんぶ!」


 黄蝶が臍下丹田にためた神気を両手の円月輪のさきから放つ。すると、黄色い陽炎のごとき神気が五色の蝶々(ちょうちょう)の姿に変じた。

 ひらひらと舞う五色の蝶々は群れをなし、鮮やかなはねを閃かせて怪僧を包み込んでいく。

 神気の生んだ幻影の蝶群が夜道怪を惑乱させる。


「ぐわぁぁぁ……なんだこれは!?」


「いまだっ!!」


 すかさず走り出た紅羽が飛翔して夜道怪の首を横一閃。

 ザンバラ髪の頭部が両断されて宙に飛ぶ。


「ぴゃあぁっ、やったのです紅羽ちゃん!!」


「よくやったのじゃ紅羽!!」


「へへん、あたしが本気を出せばこんなものよ!!」


 鼻の頭をかく剣客忍者。

 地面にザンバラ髪の生首がゴロゴロと転がり、首無し体が横に傾いて……

 なんと、倒れ込まず、そのまま何事もなかったように歩いて己の首を拾い上げた。


「莫迦なっ!?」


「やははははは……無駄よ、無駄ぁ!!」


 生首が驚愕する少女忍者たちを嘲笑あざわらう。



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