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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第二話 妖刃!鎌鼬斬り
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スケベ妖怪は金輪際ゆるさない!

「そうはいかないよ……さてはお前だな? 暗闇坂で辻斬りをやった妖怪は?」

 紅羽が太刀を構えて前にでる。


「とんだ言いがかりですぜ。あっしは通りすがりの渡世人でして……」


「それにしては、剣呑な妖気をまとっておるなあ……」


「ふふふ……妖怪退治人さんにはお見通しですか? 確かにあっしは妖怪でして……」


 三度笠に右手をそえる妖怪渡世人に竜胆は薙刀、黄蝶は円月輪を構えた。


「妖怪だけど、あっしが辻斬りの下手人ではございやせん……ワケありでしてね。ここは大人しく手を引いてはくれねえでしょうか?」


「ふん、どうだか……自分が下手人でござい、という下手人はおらぬでのう……」


「それじゃあ、ちょいと怖い目を見てもらいやしょうかな?」


「怖い目を見せるとは、完全にあたし達を見くびっているみたいね……」


 謎の渡世人の手を引けという交渉に、紅羽と竜胆もケンカ腰だ。しかし、黄蝶は相手の顔をマジマジとみて、脳裏に引っかかるものがあった。


(あれ? この妖怪渡世人さんの顔……どこかで見た気がするですぅ……)


 黄蝶が眉をよせて思い出そうとする。

 笹原から、ザザザッと、もう一つの人影が生じた。こちらも三度笠をかぶった渡世人姿だ。


「なにっ! もう一人いたか!」


「いひひひひひひひ……兄者。談判はこじれたようだな……この娘ども、切り刻んじまってもいいかい?」


「ああ……命は取るなよ。ちょいと怖い目にあわすだけだ……」


 長ドスを抜いて構える弟は下卑た笑いもらした。


「兄弟妖怪のようじゃのお……しかも危ない性格のようじゃ」


「弟のほうが辻斬りの下手人かもですぅ……」


「よぉ~~し、妖怪退治屋の出番よっ!!!」


 三人の女忍者が着物に隠した飾り糸を引っぱる。すると、女侍の羽織袴、巫女の羽織袴、黄八丈の着物がバラバラに分解した。その下からは紫色の忍者装束が現れた。一同は太刀、薙刀、円月輪をもってポーズをとる。

 妖怪兄弟がなにごとかと括目かつもくする。


「赤い炎の翼! 紅羽くれは参上よ!」


 背後に炎の中を飛ぶ赤い朱雀の幻像が浮かぶ。


「……同じく、氷原の龍の牙! 竜胆りんどう推参! ……じゃ」


 背後に氷原に渦巻く白龍のイメージが浮かんだ。


「花園に舞う風! 黄蝶きちょう参上ですぅ~~」


  背後に花園に舞い飛ぶ五色の蝶の幻像が映る。


「「「天魔忍群くノ一衆参上!」」」


 紅羽と黄蝶が眉毛を2時50分にしてドヤ顔で決めポーズ。だが、竜胆は恥ずかしげにポーズを解いた。


「なあ……この見得みえを切ること、やっぱりいらないんじゃ……しかも、名乗りまで……」


「必要だよ、竜胆! あたしたちの団結力を敵に見せつけるんだよ!」


「私と紅羽ちゃんが一生懸命考えた、自信作の名乗りと見得セリフです!」


 紅羽と黄蝶はノリノリだ。攻撃もせず、じっと、見ていた渡世人兄弟。


「……いいなあ、アレ。イカスなあ…俺たち兄弟も見得と名乗りを考えようぜ、兄者!」


「いらんわいっ! 弟よ、とにかく奴等に怖い目をみせてやるぞっ!」


「合点だっ!」


「先陣はあたしよおぉぉぉぉぉっ!」


 紅羽が太刀の切っ先を向けて渡世人兄弟に肉薄する。前にでた弟が紺地に白の縦縞の引回し合羽かっぱをひらめかせ、紅羽の刀身を長ドスで受ける。金属音が坂にコダマする。


「いひひひひ……可愛い姉ちゃんだな。だが、俺たち兄弟に逆らうと痛い目にあうぜ……」


「そうはいかないわよ、妖怪めぇぇぇ……」


 太刀と長ドスを丁々発止と切り結び、狸坂の空き地をあちこちに駆け巡る。一方、竜胆と黄蝶も渡世人兄と戦闘を繰り広げる。


「天摩流忍法、風遁・風塵ふうじんの術ですぅぅぅ!」


 臍下丹田に〈神気〉をためた黄蝶が円月輪から黄色い陽炎をまとい、鳥が羽ばたくように両手を動かす。すると突風が生じて相手に吹き荒れる。地面の土埃つちぼこりや砂塵を巻き上げ、視界を閉ざす。


「おっと、やるねえ……風の忍法かぁ……」


 渡世人妖怪は合羽を顔にあて、砂塵を防御。しかし竜胆は風塵をものともせず、追い風から薙刀を矢継やつぎ早に繰り出す。が、渡世人妖怪は転瞬の間に半身になり、合羽を翻し、穂先を回避していく。そこへ、黄蝶が両手に持つ円月輪が遊軍的に割り込み、三度笠を斬り裂いた。


「小娘といえど、さすが妖怪退治人を生業なりわいにするだけの腕がある……かくなる上は……弟よ!」


「おうよっ!」


 弟妖怪が身を引いて兄妖怪と合流。渡世人兄弟が息を吸い込み、胸部を倍にふくらませた。そして、口から強風を吐き出す。こんどは砂塵や土埃がくノ一三人娘を襲う。粉塵風にのって兄妖怪が三忍者を襲撃。紅羽が目を覆いながらも、太刀を大上段に構えて敵の頭部を斬り下げる。が……


 ――ポンッ


 と、つづみを叩くような音がして渡世人の姿が消えた。いや、消えたのではない人の姿から体長30センチほどの小さなイタチの姿に変化したのだ! 無論、紅羽の剣先は虚空を空振りして、つんのめる。

 

「えっ!? イタチぃぃぃ? うわわっっと!」


 よろけた足元に、細長い胴体についた短い足を俊敏に動かし、紅羽を転ばせた。他の忍者娘の足元も蛇行して駆け巡り、転倒させる。


「いまだ、弟よ!」


「合点承知の介だっ!!」


 突然、妖怪が渡世人姿から小さなイタチの姿に変化。前脚の爪を長く伸ばし、鎌状に変形した。


「妖怪・鎌鼬かまいたちが正体か!」


「気づくのが遅いぜ……妖術『衣刻きぬきざみ』!」


「「「きゃあああああああああああああああああああっ」」」


 鎌状爪がくノ一達の忍者衣装を斬り裂いた。一瞬で半裸状態になってしまう。紅羽が羞恥よりも怒りに火がついた。


「こぉのぉぉぉ……くされイタチどもぉぉぉ……スケベ妖怪は金輪際こんりんざいゆるさない!」


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