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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第二話 妖刃!鎌鼬斬り
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妖怪渡世人

 蒸気がうすらいできたなか、なにか尖った物体が轟竜坊へ次々と飛来した。それは四角形を三日月型にえぐった独特な形状の薄い鉄片で四隅が研ぎ澄まさせている。


 ――キン! キン!


 山伏は錫杖を旋回させて金属音も鮮やかに弾く。

 それはセンバンと呼ばれる手裏剣だ。糸巻に形が似ているので糸巻剣とも呼ばれる。センバンは流派によって“旋盤”、もしくは“銛盤”とも漢字をあてる。


「おほぉぉぉ……かぐや姫もやっと重い腰があがったか、これで少しは面白くなってきたわい」


「ふざけおって、この外道山伏めぇぇぇ! 私は妖怪退治屋の竜胆じゃっ!」


 竜胆が薙刀なぎなたを袈裟切りにふるって轟竜坊に切りこむ。が、見切られて空振り。


「おいおい、竜胆。手を出すなよ。ここはあたし一人で充分だって……」


「この男は私に恥辱を与えたのだ、許せぬ!」


「えええええええっ!? いつの間にそんな事に? でも、私が先に倒すんだからね!」


「いや、私じゃ!」


 轟竜坊を放っておいて口ゲンカが始まった。


「ぶるぁああああああああっ!!! いい争っていないで、協力して我が輩に打ちかかってこんかい!」


 轟竜坊が錫杖を横薙ぎに、鎌で刈るように二人の足元を鉄棒で払おうとする。


「紅羽ちゃん、竜胆ちゃん、危ないですぅ!」


 黄蝶が危機を救おうと四方手裏剣を連続で打つ。が、轟竜坊を狙ったのに大いに的を外れ、仲間の紅羽と竜胆を襲撃する。


「うわたたたたたっ! きっ、黄蝶か! 」


「こらっ! 手裏剣術は上達するまで実戦で使うでない!」


「ごめんなさいですぅ……昨日の練習ではうまく的に当たったのですが……」


 舌を出して謝る黄蝶に、紅羽と竜胆は叱りつける。これを見て轟竜坊は爆笑。


「カンラカラカラ……とんだひよっこ忍者じゃわい。黄色いヒヨコはそこで見学しておれ」


「プンスカですぅ~~! 私だって戦えるのですぅ!」


 帯から円月輪を出して構える黄蝶。


「妖怪退治屋の黄蝶ですぅぅぅ!」


「カッカッカッカッ……これで多少は楽しめるかもな……」


 紅羽の太刀、竜胆の薙刀、黄蝶の円月輪が三方向から大柄な山伏に打ちかかる。だが、羽黒修験者・轟竜坊が錫杖を水車のごとく乱回転させて三者の攻撃を弾き返す。


 まるで顔が三つある阿修羅のごとく三人の得物をあしらう。多対一の乱戦状態で、汗もかかないとは、山伏は驚異的な棒術使いであった。三人娘の刃が一斉に打ちかかる。


 が、轟竜坊は錫杖を両手で構え、受け止める。紅羽、竜胆、黄蝶がと力押しをし、ググッと迫る。が、轟竜坊は両の腕に力瘤ちからこぶを入れ、腰をいれ、膂力りょりょくのみで押し返す。


「ぶるぁああああああああっ!!!」


「「「きゃあああああっ!」」」


 空き地の草むらに飛ばされる三人の女忍者。紅羽たちとて、忍びの腕は平均以上の実力がある。が、相手が悪かったようだ――


「くそぉぉぉ~~……化け物めぇぇぇ……」


「三人がかりでも押し返すとは……」


 ジャランと遊環ゆかんを鳴らし、錫杖の石突を地面にたて、呵呵大笑する羽黒修験者。


「カンラカラカラ……天摩流とやらはこんなもんかい?」


 悔しげに地面に倒れ込む紅羽と竜胆を眺める轟竜坊の右眉が、いぶかしげに吊りあがる。


「むっ!? 黄色いヒヨコがいない?」


 わずかな息遣いが聞こえ、視線を見上げた。錫杖の頭部の輪形に駒鳥こまどりのごとく止まっている影が見えた。いや、それは鳥影ではない、円月輪を構えた黄蝶であった。


「げえっ!! 貴様は……」


「王手ですぅぅぅ!」


 黄蝶がトンボ返りに宙を回転し、兜巾ときんにポンッと叩いて飛び降りた。

 唖然と佇む轟竜坊が、夢から覚めたように気がつく。


「うぬぬぬぬぬ…………」


 真っ赤になって憤怒の表情になる羽黒修験者。が、


「がははははははっ! 儂の負けじゃっ!」


 地面にドンッと座り込み、胡坐をかいた轟竜坊が豪快に笑った。


「黄蝶とやら……気配を消し、体重を感じさせず錫杖に立つとは天晴あっぱれな体術、穏形術である。さっきの手裏剣が失敗したのは我が輩を油断させるための策であったか……」


「えへんっ! 実は、そうなのですぅ……」

「いや、違うよ……黄蝶は本当に手裏剣術が苦手で、得意と不得意にムラがあるんだよ……」

 紅羽が正直に策ではないと説明する。


「いやいやいや……その手には引っかからんぞい、カッカッカッ……儂は氷川神社のお堂を借りて、座禅して霊気をためてくるわい」


「えっ、妖怪の根城を探さないの?」


「夜にならんと活動せん妖怪のようじゃ……暮六くれむつにまた来るわい。我が輩は牛込山伏町うしごめやまぶしちょう法螺貝長屋ほらがいながやに住む轟竜坊じゃい。お主らの手に余る妖怪や悪霊が出たら知らせろ。代わりに儂が解決してやろう……」


「へ~~んだ、誰が商売仇に頼るもんですかっ!!」


 轟竜坊は狸坂を下って氷川神社に向かった。


「それにしても、なんなのよっ! さっきの同心といい、この山伏といい、ちゃんとあたしの話を聞けぇぇぇ!」


「しかし、あ奴……かなりの実力者であったのう……スケベじゃが……」


「そうそう……あたしのお尻が小さいだなんて失礼にもほどがあるわっ!」


「えへへ……黄蝶はほめられたのですぅ……」


 そこへ、近くの笹原がザザザッと揺れて、人影が出てきた。


「娘さんたち、妖怪退治人だってなあ……」


 笹の葉をかき分け、繁みから鋭い目つきの男が出現した。三度笠さんどかさを被り、着物を尻っ端折り、手甲脚絆てこうきゃはんに草履履きをし、引回し合羽かっぱ振分荷物ふりわけにもつを背負い、長ドスを腰にさしていた。


「今度はなんだ?」


「旅人か、渡世人さんみたいですぅ……」


「ただならぬ妖気をまとっておる……妖術師か、それとも妖怪が人に変化しておるようじゃの……」


「えええっ! こわいですぅ……」


「ふふふふ……怖いだろう? お嬢ちゃん……妖怪退治なんてよして、おうちにお帰り。」


 三度笠で顔を隠した男が諭すように語りかけた。


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