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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第八話 驚異!地底の妖狐魔殿
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神気光明剣!

 黄蝶は莫連ばくれんのお銀と戦っていた。

 少女忍者が莫連ばくれんのお銀のくり出す左右の小太刀に対し、横に飛び、トンボをきって避け、お銀の頭上を飛んで翻弄した。


「おのれ……チョコマカと……まるで牛若丸の八艘跳はっそうとびだよ……」


「ふふん……そうなのです、天摩流体術・飛蝶ひちょう八艘跳びなのです!」


「いまいましい義経もどきめ……これならどうだい……妖術・特大狐火玉!」


 お銀狐の口中に狐火が生じ、赤々と燃える火焔が吐き出され、死の高熱波が襲う。

 黄蝶が移動する先を追うように火焔が広がり、周囲の大地を炎上させ、逃げ場をなくす作戦だ。


「ぴええええっ!! でも、負けないのです!!! 天摩流風術・つむじ風」 


 黄蝶が両手の円月輪を羽ばたかせ、小規模の旋風を発生させ、火焔の包囲陣を吹き飛ばした。

 お銀狐が吐き出す火焔に自ら火傷やけどしないように火術を止める。その一瞬の隙、


「天摩忍法・鎌鼬かまいたち!」


 少女忍者の円月輪が巻き起こす烈風の中から真空の刃が発生。

 鎌鼬の風刃がお銀狐めがけて飛来。

 が、女狐は優雅に舞うように両手の小太刀を回転させ、真空風刃を弾き飛ばした。


「なっ……そんなぁぁ!!」


「コンコンコン……驚いたかい? 神気術だろうが、妖術だろうが、この妖気封じの小太刀『梅傳ばいでん』の相手じゃないさ……」


「うぅぅぅ……凄い使い手なのです……」


「このあたしに刃を向けるなんざ、十年早いんだよ……」


「むぅぅ……そんなことないですよ!」


 ほおふくれる黄蝶に対し、お銀狐が前傾姿勢で斬り込んできた。黄蝶は円月輪で応戦。

 小太刀は長さ二尺(約60センチ)の刀剣であり、莫連のお銀は左手の小太刀を盾代わりにして、右手の小太刀を攻めにつかっていたが、時にはそれが逆転する。

 おそらくは両利きなのであろう。


 接近戦にもつれこみ、飛蝶八艘跳びの軽業がつかえず、防戦一方の黄蝶。


「コンコンコン……覚悟しな小娘! あたしの二刀小太刀に敵う奴などいないんだよ!」


「二刀流はあなたや紅羽ちゃんだけじゃないです……黄蝶も二刀流円月輪の使い手なのです!」


「なんだとぉぉ!!」


 お銀狐が怒りを込め、左右の小太刀を同時に少女忍者の腹部へ斬り込む。

 が、黄蝶は大きく飛翔して避け、左右の円月輪を投擲した。

 が、お銀狐も抜群の動体視力と反射神経で回転輪の襲撃を避けた。

 少女忍者は無手となってしまった……


「手も足もでまい……これで最期だっ!!」


「そうですかね?」


 なんと、黄蝶の放った円月輪がブーメランのように孤を描いて戻り、それを察したお銀狐が慌てて両手の小太刀を盾にしたが、円月輪の衝撃で音高く折れてしまう。

 鍛冶忍者・金剛の作った武器が妖術封じの小太刀『梅傳』を破ったのだ。


「これぞ天摩流輪術・帰り蝶なのです……続いて、風頸掌ふうけいしょう!!」


 空気を凝縮した風の気功弾が、呆然とするお銀狐の赤い帯に命中。

「ぐふぅぅ……ちきしょうめ……」と、息を吐いて、お銀狐は倒れ込んだ。




 こちらでは松影伴内と赤鎧の弾正狐が対峙していた。

 武器をもたずに佇む伴内に対して、鎧甲冑狐は長大な刀身をほこる長巻ながまきを八相に構えていた。

 長巻とは、『突く』ことを主体とした槍とは違い、『斬る』ことを主体に大太刀から改良されていった長柄武器である。


 槍や薙刀よりも重くて操法が難しいが、三尺を越える長い刀身は一撃で敵の腕を切断し、鎧甲冑をつけた相手でも骨まで折る威力があったという。


「侵入した人間の中で貴様が一番強いとみた……ならば近衛狐八騎の頭目であるこの俺が相手せねばなるまい……」


「ほほう……じゃが、買いかぶりかもしれんぞ……なんせわしも若くないでな……」


「ならば、ジジイらしく大人しく引っ込んでおれ」


「なんじゃとぉぉ!! わしはまだジジイと呼ばれる歳ではないわい!」


「ふん……ところで、得物はどうした?」


「これじゃい」


 小頭はふところから七寸(約21センチ)ほどの三鈷杵さんこしょを取り出した。

 三鈷杵とは、金属製の密教法具であり、中央に握り部分があり、両端がフォークのように三本に分かれて湾曲した仏具だ。

 本来は古代インドの武器であった。

 金剛杵の仲間であり、本来金剛杵もこのくらいの大きさである。


「それは密教や禅宗でつかう法具だな……しかし、山伏や忍びの者は棒手裏剣にも使うというが……相手が悪かったな……」


 弾正狐は左手のこぶしで甲冑の胸を叩いた。


「それはどうかいのう?」


 赤鎧狐が長巻を八相に構え、相変わらず動かない伴内に剛剣を送り込んだ。


「てやああああああああっ!!」


 ガシィィィィィッ!!


「なにっ!!」


 甲冑をもへし折る長巻がはね返された。

 伴内のもつ三鈷杵の先から銀色に輝く光の刀身が見える。

 それは伴内の体内の〈神気〉を集め、三鈷杵の先から物質化させて剣先としたものだ。


「天摩忍法……神気光明剣しんきこうみょうけん!」


〈神気〉の実体化……これは紅羽たちにはまだできない、天摩流神気術の奥義であった。


 フォ――ン……フォン……フォォン……


 光の神気剣が八の字を描いて弾正狐に斬り込んでいく。

 籠手や胴丸に切れ目が入り、草摺くさずりが吹き飛んだ。

 伴内に押され、後ずさる弾正狐。


「信じられん……鋼の甲冑が苧殻おがらのように斬られるとは……かくなる上は……狐妖術・穏形鎧おんぎょうよろい


 弾正狐の鎧甲冑がかぶと、胴丸、佩楯はいだてまで全身が半透明となり、中庭の風景が透けて見え、やがて姿が消えた。

 いや、消えたのではない、鎧甲冑の表面に周囲の風景を映し出し、カメレオンやイカ・タコの保護色のように背景に擬態ぎたいしたのだ。


「おのれ、穏形の術か……」


 松影伴内は耳をすまし、目を凝らして足音や息遣い、気配をさぐった。

 しかし、他にも戦闘が繰り広げられ、さしもの忍者眼・忍者耳も効かないようだ。


「ややっ!! こうまで完璧に気配を消すとは……敵ながらやりおるのう……ならば察気術さっきじゅつじゃい」


 目を閉じて精神集中し、気の流れを感じ、殺気をはなって忍びよる敵を察知する術のことだ。

 急に右方向に急に殺気がわいて、身を沈めて躱すと、庭木の枝が吹き飛び、木の葉が宙に舞った。

 透明な長巻の刃の仕業しわざだ。


「そこかっ!!」


 しゃがんだまま伴内は左手を地につけて、両足を独楽こまのように回して足払い。

 手応えがあり、甲冑が地面にぶつかる音がした。

 妖術が破れ、倒れた赤鎧の弾正狐の姿が見えた。

 伴内が甲冑の弱点である脇の下から急所に手刀を打ち込む。


「うぐぅぅぅ……無念なり……」


「穏形鎧、破れたりじゃい!」




 だが、まだ一般の近衛狐たちが残っている。幹部たちが倒されても士気は下がらず、槍や刀で立ち向かってくる。


「おのれ厄介な奴らじゃい……まとめていくか……天摩流土術・泥流波でいりゅうは」 


 伴内が両手を地面につけて神気を注ぎこみ、大地が水分をおおく含んだ泥のかたまりとなり、泥流が生き物のようにうねり、土石流どせきりゅうのごとく敵兵士たちを包み込んだ、

「わあああああっ!!」


「おのれ……ひるむな……かくなる上は、狐火攻撃だ!」


「応っ!!」


八匹の近衛狐が口を開け、天摩忍群に向けて「狐火玉」を火焔放射。

 周囲を赤い焦熱地獄に変え、黄蝶たちはたまらず横に飛んで避けた。



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