復活の三女忍
黒雲飛行体にのった妖狐の一隊がさった後の河川敷は、嘘のように曇天がさり、日が差していた。
まるで白日夢だったかのように……
しかし、夢ではない証拠に、河原には大きな亀裂が閉じた痕跡があった。
はたして、判官狐の妖術「地割招来」で地底深くに閉じ込められた紅羽たちがどうなったのか?
それを説明するには、少し時を巻き戻さねばなるまい……
「きゃあああああああ!!」
突如、大地が割れ、地軸へ向かって落下していく天摩女忍の三名。
まるで底の見えない谷底へ落ちていくかのようだ。
竜胆がすかさず隣の黄蝶と紅羽に指示をだす。
「黄蝶、風頸掌で、空気の玉をたくさんつくっておくじゃ、そして、紅羽は炎の神気を丹田に集めておくのじゃ!」
「はいですぅぅ!!」
空中の少女忍者が両手の先を前に突き出し、掌を開花するように広げる。
風で集められた空気が両の掌に圧縮され、小さな玉となってく。
「なんだかわからんが、わかった!!」
女忍剣士が気を凝らして臍下丹田に神気を集めていく。
「天摩流氷術・氷壁!」
竜胆が両手から青い神気を亀裂の壁に送る。
すると、地中の水分が神気で集められ、地の壁から大黒柱ほどの大きさの霜柱が次々と生じて、横に伸び、反対側の地の壁と合わさり、仮設の氷の橋となった。
「ふぃぃ……助かったのですぅ……」
体育座りで安堵する黄蝶と紅羽。
だが、今度は氷の橋がミシミシと音を上げてひび割れていく。
判官狐が地割れを元に戻して、彼女たちを圧死させようとしているのだ。
「この橋は長く持たぬ……出番じゃぞ、二人とも! 黄蝶、空気玉を天に向かってあげよ」
「はいですぅぅ……天摩風術・特大風頸掌!」
集めに集められた空気の玉が蹴鞠のように天に昇った。崖となった地の壁はズズズズズッと閉じていくところだ。
「紅羽、黄蝶の空気玉にむかって斜めに炎竜破を放てっ!」
「あいよっ! 天摩流火術・炎竜破!」
紅羽の双刀から生み出された赤い炎が渦巻き、火炎の竜巻が空気玉に直撃。炎の竜巻が倍に膨れ上がった。
空気玉内の酸素が炎熱を強化したのである。
倍増した炎竜破が土砂を燃やし尽し、横幅のある隧道を作っていく。
だが、焦土と化した隧道の壁面は触れる事もできない。
「天摩流氷術・花冷!」
竜胆が薙刀をふるい、青い神気をまとった刀身から、氷の結晶が隧道の焦土を覆いつくし、霜が隧道の補強材となって支え、三女忍が火傷せずに降り立つことができた。
黄蝶の風頸掌と紅羽の炎竜破で斜めに掘られた隧道はまだ地上につながっておらず、炎竜破が消えると、真の闇となった。
ボッと、暗闇に赤い火の玉があがった。紅羽の火術・狐火だ。
「あたしのだいたいの感覚だと、ここはまだ地上まで六間(約10メートル)といったところだ……もう一度、炎竜破を出すか?」
「そうじゃな……ぐずぐずしておると、空気がなくなってしまうしのう……」
「黄蝶も炎竜破に加勢するです!」
「よし、頼むぞ黄蝶! 竜胆! ここが踏ん張りどころだ……もいっぱつ、炎竜破!」
「天摩流風術・つむじ風!」
「天摩流氷術・花冷!」
紅羽が交差した双剣から炎熱のドリルに、つむじ風がそれを増幅させ、大地を焼き尽くしていく。
そして、焦熱した壁面を霜の補強材が覆い尽くした。
これは時間との勝負でもある。
隧道の酸素が無くなれば、掘削して地表に出られないし、人間である彼女達も窒息死してしまうのだ……
河川敷がようやく静けさを取戻し、逃げ出した四十雀やカラスが巣づくりのため、林の枝に戻った。
が、またも、大地が「ゴゴゴゴゴ……」と揺れ始めた。
鳥たちが逃げ去っていく。
地震か?
いや、それは亀裂跡のある一ヶ所を中心とした局地的なものだ。
突如、河原の土砂が吹きあがり、中から巨大な炎の嵐が生じた。
そして、大きな穴から、地の底に消えたはずの天摩流くノ一三女忍が地上に飛び出てきた。
「ふう……危なかった……」
「我ら三人が協力せねば、あの世行きじゃったのう……」
「くたびれたのですぅ……」
紅羽がキョロキョロと周囲を見渡し、
「やや……鶴吉さんたちが見当たらない!」
「まずいですぅぅ……狐御殿とやらに連れ去られたのですよ!」
「狐御殿か……その居場所はやはり王子にあるのじゃろうなあ……」
三人はふたたび、江戸北域にある王子まで忍び走りで駆けた。
その頃、鶴吉たちは妖怪狐の巣窟で怖ろしい目にあっているのではないだろうか……




