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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第八話 驚異!地底の妖狐魔殿
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女忍、異議申し立てる

 思わぬ助けが入り、判官狐は憤慨した。


「むむむのむ! 我らの邪魔をする不届き者とは、なにやつっ!!」


「おおっと! 取り込み中すまないが、乱暴狼藉はそこまでだよ、狐妖怪たち!!」


 ならの木の上あたりから声がし、判官狐一味は提灯をかかげて樹上を見上げた。

 そこには、三人の人影があった。

 真ん中にいる影の掌から灯りが生じ、ボッ、ボッ、ボッと三つの人魂が照らす。


「天摩忍法・狐火の術!」


 真ん中の女忍が神気術で生んだ狐火に浮かんだ姿、それは紫紺の忍者装束をきた美貌の三名の女忍だった。


「なによ、なによ、なんなのよ、あんたたちは、突然でてきて……それに狐火は狐妖怪の専売特許よ、勝手につかわないでちょうだいな!」


「まあ、そうかたいこというなよ、狐の小父さん。それより、その人達を連れ去るなんておだやかじゃないねえ……」


「ぐぬぅぅ……邪魔すると容赦しないんだからね! いったい何者よ、あんたたちは!!」


 そして、三女忍が「とぉぉぉぉ~~」と叫んで、宙を回転して地に降り立つ。


「あたしたちは最近売り出し中の妖怪退治人よ……その名も人呼んで、赤い炎の翼! 紅羽くれは参上!」


 比翼剣を上下に構えた紅羽の背後に、炎の中を舞い飛ぶ朱雀の幻像が出現。


「氷原の龍の牙! 竜胆りんどう推参じゃ」


 薙刀を中段に構えた竜胆の背後に、氷原に渦巻く白龍の幻像が浮かぶ。


「花園に舞う風! 黄蝶きちょう参上なのですぅ~~~~」


 円月輪を斜め上に挙げ、一本足で立つ黄蝶の背後に、花園に舞い飛ぶ五色の蝶群の幻像が映る。


「「「天魔忍群くノ一衆参上!」」」


 三女忍が決め顔で歌舞伎のように見栄をきる。


「んまぁぁぁぁ……なんて小生意気な娘たちなんざんしょ……小便臭い小娘のくせに妖怪退治人だなんて片腹痛いどころか、頭痛も歯痛もしちゃったりなんかして……」


「誰が小便臭いだ、烏帽子狐! かわやに行ったあとはちゃんと綺麗にしているわ!」


「そうなのですよ! 黄蝶だって、しっかり……」


「待て待て、ふたりとも、そこはくわしくいわんでよいのじゃ!!」


 売り言葉に買い言葉の紅羽と黄蝶を、あわてて竜胆がとめる。第三者の登場に鶴吉がたずねる。


「あのう……あなたたちはいったい?」


「大工の鶴吉さんだね……探したよ、あんたは狐じゃなくて、人間だったんだね……」


「えっ……それはどういう……」


「実は料亭の板前や女中たちが一夜にして樹木に変えられる事件がおき、私たちが調査しておったのじゃ……」


「扇屋さんでそんな事件が……うわぁぁぁ……きっと、みんな、おいらのせいだ……」


 鶴吉が頭をかかえてうつむいた。


「王子の大工さん達から、鶴吉さんという深川材木町の大工が手伝いにきて、狐娘を騙し返したときいたのですよ」


「コ~~ンコンコンコン……そのだまされた狐娘というのが、あたくしの可愛い姪っ子の阿茶あちゃ狐よ!」


「なんだって? それじゃあ、その仕返しに叔父さんがきたっていうのか……大人げないないなあ……」


「だまらっしゃい、阿茶は嫁入り前の子供なんですからね! あたくしこと関東狐妖怪連合の司法をあつかう判官はんがん狐が落とし前をつけてやるんだから!!」


 判官狐にとって姪っ子の阿茶狐は己に都合よく、大人にも、子供にもなるようだ。


 黄蝶が竜胆の袖をひっぱった。


「竜胆ちゃん、『判官』って、なんですか?」


「判官とは、律令制の官職のひとつ。まあ、ようするに裁判官、裁きをする町奉行のことじゃな……」


「ことわざの『判官贔屓ほうがんびいき』と関係あるのですか?」


 判官贔屓は弱い者や負けた人に同情することだ。


「ああ……そうじゃな。源義経みなもとのよしつねの官職が左衛門尉さえもんのじょうで、その別名が判官だったので、そういう」


「ほへえ……ところで判官の読み方は『ハンガン』と『ホウガン』、どちらが正しいのですか?」


「一般的には『ハンガン』で、源義経の歌舞伎や浄瑠璃などだけが、特別に判官『ホウガン』という」


 竜胆が黄蝶にていねいに説明し、焦れた紅羽が、


「それより本題だ……阿茶が叩かれたのは気の毒だけど、人間を樹木に変えてしまうのはやりすぎだぞ! しかも関係ない人たちまで……」


「そうですよ、元は化け狐と人間の騙し合いだったのですから、大袈裟おおげさすぎないですか?」


 紅羽・竜胆・黄蝶が第三者から冷静な意見をだした。


「うぅぅ……あたいの逆恨みだったのかなあ……」


 阿茶狐はバツが悪いといった感じで、両耳と尻尾をたれて赤面してうつむく。竜胆が妥協案を考え、


「そうじゃな……そこの阿茶狐も、鶴吉も同じようなコブをつくっておるし、喧嘩両成敗で手を打たぬかのう?」


 それを受け、紅羽が河原の流木を拾い上げ、


「いや、いっそのことこの棒で阿茶狐とやらが鶴吉をポカリと叩いて、たんこぶをつくってやれよ」


「おっ、おう……阿茶さん、思いきりそいつで叩いてくんな!」


 紅羽が乱暴な提案をだし、鶴吉ももっともだとばかり阿茶に頼む。


「お、おう……そうだな……あたいもそれでさっぱりすらあ……」


 紅羽のもつ棒っきれをつかもうと前に出た阿茶狐を、判官狐の垂れ袖が壁となって止めた。


「駄目よ、阿茶……子供の喧嘩じゃないんだから、それくらいじゃ治まらないわよ」


「でも、叔父貴ぃ……」


「この関東狐妖怪の重鎮である判官狐さまが出張ってきたからにはそんなんじゃ済まないわよ。それに、化け狐は人をだましてもいいけど、人は化け狐をだましちゃいけないって、法律で決まってんのよ!」


 三女忍があきれた目で烏帽子狐を見やる。


「そんな法律あったか?」


「ないと思うぞ……」


「狐妖怪の国で決まっているのよ。『妖狐方御定書百箇条ようこかたおさだめがきひゃっかじょう』のうち、『化狐詐欺並びに疵付候もの御仕置之事』ってね」


「なんじゃとぉ……妖狐の世界にはそんな理不尽な法律があるのか!」


「勝手すぎんだろ、その法律。誰だよ、そんな手前勝手な法律をつくった奴は!」


 竜胆と紅羽が驚くなか、烏帽子狐はコンコンコンと高笑い。


「ちなみにそれを決めたのは、あたくしよ、あたくし。しかも、今日決めたばかりのホヤホヤよ」


 胸をはってふんぞり返る判官狐に一同が「ずんこけ~~」とずっこける。


「おい~~…勝手に変な法律をつくるんじゃないよ!!」


「そうですよ、ずるいのですよ!!!」


「やかましいわね~~『やられたら、倍にしてやり返せ!』、倍返しが妖狐一族の流儀なのよ。だから妖狐界の判官であるあたくしが、きっちりお白洲しらすで裁いてから復讐するから安心なさいな」


 判官狐がふんぞりかえって宣言するのを、紅羽が異議を申し立てる。


「いやいやいやいや! 倍返しの復讐が流儀の裁判って、どういうことだよ!」


「裁判の名を借りて、私的制裁をくわえる気のようじゃの……」


「そんなあやしげな裁判に鶴吉さんを渡せないですよ!!」


「そうじゃな……公平に裁くためには人間側の介入も……せめて我ら天摩流妖怪退治人もお白洲に同席させてもらいたいのじゃ」


「駄目よ駄目、あんたたちなんかいらないわよ! あたくしの邪魔をするなら、きゃつらも連座の罪で罰をあたえちゃうから」


「連座制はもう、三十九年前に廃止となったのじゃぞ!」


「それは人間界のことでしょ、妖狐界ではまだありなの! 者ども、きゃつらを、召し捕ってやんなさい!!!」


「はははぁぁ~~判官狐様!!」


「御用だ! 御用だ!」


 十二匹の捕吏狐たちが突棒つくぼう刺叉さすまた袖搦そでがらみを構えて四人に襲いかかった。


「おいおい……なんて乱暴な奴らだ……お灸をすえてやんよ!」


 紅羽が濃口を切り、太刀を抜いて、青眼に構え、刺叉を突いてくる捕吏狐どもに立ちはだかった。


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