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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第七話 魔空!野ぶすま仙人
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光る眼

 燐光のように光る眼をした子供たちが竜胆たちをじっと見上げる。


「いかん……この子たちは“幽夜華かくりよばな”の果実を食べ過ぎて、すこし妖怪化しておるようじゃ……それに野ぶすま仙人の眼光催眠術にもかかっておるようじゃな」


「お姉ちゃんたちも食べなよ……幽夜華の実を……美味しいよ……」


 子供達が橙色の果実をもって、ひたひたと歩き、竜胆たちに近づいていく。

 無理矢理食べさせる心算つもりだ。


「くっ……子供達相手じゃ、当て身を食わせて気絶させるのも可愛そうだ……でも……」


「しかたがないのう……やるか……」


「おいおい……この子たちは操られているだけだぞ……」


 半九郎が躊躇ちゅうちょするが、子供達が大勢かけより、半九郎を引き倒す。

 そして、魔性の果実を口に押し込んだ。


「松田殿!」


 やめさせようとするが、竜胆たちも子供達に押さえられ、幽夜華の果実を食べさせられそうになる。


「むぐぅぅぅ~~~~……」


「子供達、幽夜華より美味しいものをあげるのですよ!!」


「えっ、なになに……」


 黄蝶の声にふり向いた五人の子供達の口の中に、次々と水流があたり、それを呑みこんだ子供達が崩れおち、寝息をたてた。


「すやぁぁぁ……」


「むにゃ……もう、食べられないよ……」


 三人が黄蝶を見ると、扇子と水袋を持った少女忍者がいた。

 水芸の虎太夫が使っていた、手に持つ扇子に管を隠し、袖の中に隠した眠り薬入り水袋を押して出すカラクリだ。


「おおっ!! でかした黄蝶!!!」


「ふふふ……人呼んで荒野の風来坊・早撃ち黄蝶なのですぅ! こんな事もあろうかと、拝借してきたのですぅ……ぎゃふぅ!」


 しかし、文助たち五人の子供達がまだ残っていて、背後から黄蝶にいっせいに襲いかかった。


「お前たち……乱暴はやめるんだぞっ!!」


 小桃こももという貫頭衣を着た少女が叫ぶと、文助たちはピタリと動きを止めた。

 両目の蒼い瞳がしだいに薄れ、憑き物が落ちたように元に戻った。

 それまでの事は忘れたように遊びはじめた。


「ええっ!? とまった……それに、さっきの事覚えてないようだし……」


「どうやら野ぶすま仙人が子供達に、無理矢理返そうとしたら凶暴になる暗示をかけられていたようじゃ……」


「じゃあ、野ぶすま仙人をとっちめて、催眠術を解かせるか……いや、奴を倒せば術から覚めるかな?」


「小頭を連れてきてたら、術から解いてもらえたですねえ……」


「しかし、あの少女は……いったい何者じゃ?」


 四人が貫頭衣の少女を見つめると、小桃は手を腰にあて、誇らしげに胸をはった。


「わらわは小桃という。この桃源郷に棲む子供のなかでは一番の古株なんだぞ……」


「そうなんだ……いったい、いつからなんだい?」


「ずぅ~~~~っと、昔だぞ」


「ずぅ~~~~っと、って……」


 紅羽が困り果てる。

 竜胆は小桃の髪型・衣装をずっと観察していた。


「服装から見て、古代日本の頃かもしれぬのう……道灌山どうかんやまなどで見つかった瓦偶人がぐうじんの衣服に似ているようじゃ……」


 むろん、江戸時代に縄文・弥生・古墳時代などという名称も概念もない。ただ漠然と土偶や貝塚をみて、漠然と古代の人々がいたことはわかっていた。


「小桃ちゃん、この世界には大人はいないのですか?」


「いるぞ……野ぶすま仙人がな」


「その仙人はどこにいるのです?」


「あっちだぞ」


 少女の指差す方向を見れば、やはり怪しげな唐破風の六角館を示していた。


「小桃ちゃんも仙人にさらわれてきたのですか?」


「違うぞ。大昔に悪い人間に追われて、一族郎党であちこち逃げ、山奥の神域にたどりついた時に、偶然、常世の入り口を見つけたんだぞ」


「一族郎党……その人達はどこですか?」


「あそこだぞ」


小桃が指さす先には、野石を積み上げた墓石の群れが見えた。


「……そうだったのですか……ずっとここで、一人で住んでいたのですね……」


 黄蝶の瞳がうるうるとして、小桃に抱きついた。


「そうでもないぞ。ときどき、現世と常世の端境から人が紛れ込んできて、いろんなお話をしてくれたぞ。とくに仰天斎ぎょうてんさいという旅の手妻師は面白い芸を見せてくれたぞ!!」


「その人もここに紛れ込んだのか……」


「なんでも、北条と豊臣の合戦が始まって危ないから、山に逃げ込んだときに、ここに迷い込んだというぞ」


「それは……小田原合戦の頃……今から二百年くらい前の話じゃな……」


「その仰天斎さんはどうしたのですか?」


「ここだぞ!」


 小桃は新し目の野石積みの墓標を見せた。

 高見仰天斎と刻まれていた。

 唖然とする一同。

 目くばせを送り、もしかしたらあの人面鳥……迦陵頻伽にやられたかもしれないと想像する。


「ずっと、退屈だったけど、急に常世へ迷い込んできた子供達が大勢いて、楽しいぞ!」


 黄蝶は他の三人と顔を見合わせた。

 この古代衣装の少女はあっけらかんとしているが、悲しい過去が多そうだ。


「……小桃ちゃん……その子たちは迷い込んだんじゃないですよ……野ぶすま仙人にさらわれたのですよ」


「えっ? …………えええええええええええええっ!!!」


 小桃は本当に驚いたようだ。


「この子供達の親は悲しんで探しているのですよ……」


「えっ………………そうか……じゃあ……返さないといけないんだ……ぞ……」


 寂しげにうつむく小桃。


「いったい、野ぶすま仙人とは何者なのじゃ? 小桃ちゃんは知っておるのかのう?」


 竜胆の問いに、小桃はうつむいたままだった。


「野ぶすま仙人を止めないといけないぞ……」


 そして、古代の衣服を着た少女は指笛を吹いた。

 すると、繁みの影に、体長一丈(およそ3メートル)くらいの大きな獣の体躯が見えた。

 それは黄褐色の肌に黒い横縞模様で、腹部の内側は白い四足獣であった。


 グルルルルルルゥ……


「人喰い虎だ!!」



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