くノ一三人娘対鬼女忍群!
葦の原の広場の真ん中に立つ女忍者三人娘。
鬼面の女忍たちが遠巻きに走り、円形にとりかこむ。
鬼女忍群は般若面から一斉に白い吐息を吐き出した。
病気をひきおこす邪気だ!
さしもの天摩くノ一もこれには敵わない……
が、三方から熱風、吹雪、旋風が生じて、邪気の煙幕を蹴散らした。
「二度も同じ手を喰らわぬぞ!」
隅田川土手で竜胆がすでにこの邪気噴射攻撃で襲われ、学習済みだった。
鬼女忍群は武器を手にかまえ、物理攻撃を開始した。
鬼女忍群のひとりが紅羽の脳天に忍者刀を叩きこむ。
が、美しき女侍忍者はその打ち込みを軽やかにかわし、総髪をなびかせ、左の胴に斬撃をいれた。
鬼女忍者はうめいて、髪の毛の束に戻ってしまう。
そこへ、鉤をつけた二名の鬼女くノ一が結印を組み、呪文を唱えた。
「妖忍法・泥流波!」
鬼女忍者の足元から水分をおおく含んだ泥が湧きだし、土石流のごとく紅羽を襲う。
葦は河川敷などの低地に群生し、根元は泥がたまりやすい。
その泥の塊が生き物のように動き出したのだ。
「やるわね……天摩流火術・火鼠連撃!」
神気をあつめた紅羽が火炎弾を次々と泥流に叩き込む。
泥の津波が瞬時に乾燥し、防波堤となって攻撃をとめる。
その仮の堤の上から敵忍者が跳躍してきた。
左右に分かれた敵忍者が両手の手甲鉤を猛獣のごとく紅羽に叩き込む。
女剣士忍者は夜に舞う蝶のごとく身をかわし、鬼女忍者は頭から衝突した。
ふたりの鬼女忍びのかたわらに飛び降りざま、臍下丹田にあつめた神気をつかって神気忍法を発動する。
「天摩忍法、火遁・炎竜破!」
太刀から炎が渦巻き、火炎の竜巻が二人の鬼女を赤い炎でつつみこむ。
般若面の忍者は炎に包まれ消滅した。
「いっちょ、上がりぃぃぃ!」
一方、薙刀を持つ竜胆を遠巻きにする鬼女忍者三名も印を組んで忍法を先制攻撃につかった。
「妖忍法・鉄砲水(てっぽうみず!!!」
鬼女忍群の足元から水が噴き出した。
葦の原だから水には困らない。
三筋の水のカッターが巫女忍者を切り刻まんと襲いかかる。
加圧された水流はウォータジェット切断として現代の工業・医療分野などにも使われている。
「ふん、この私に水術攻撃とは愚か者め……天摩流氷術遁・吹雪!」
蒼い神気に満ちた薙刀の斬撃破が放たれ、巫女忍者を襲う鉄砲水を小寒波が凍結し、まるで氷の蛇の彫像が屹立した。
攻撃が失敗した鬼女忍者隊は鎖鎌の分銅を頭上で回転させ、遠心力がついたところを同時に投擲する。
鎖分銅が三条、巫女忍者を雁字搦めに捕縛。
そこを鬼女忍群は左手ににぎった鎌刃で止刺をさしに殺到。
が、鎖に緊縛された巫女忍者の姿が白い氷柱に変化した、身代わりの術だ。
「生憎じゃったのお……天摩流忍法・氷柱観音じゃ!!」
鬼女忍者が一斉にふりかえり、いつの間にか背後に立った竜胆に驚く。
いさぎよく鎖鎌をすてて忍刀を抜刀し、横薙ぎに斬りかかった。
「そうはさせぬ……天摩流、氷遁・花冷!」
薙刀をふるった斬撃破にのって、青い神気が氷の結晶と化して地面を霜で覆い、敵忍者たちを氷漬けにする。
氷柱は瞬時に破砕し、粉々にくだけて飛散した。
一度に六人の鬼女忍者が倒されたのに、残りの鬼女たちは恐怖の感情がないのか、微動だにせず包囲網をせばめてきた。
たまらず、紅羽と竜胆が川岸に追い詰められた。
「くっ……まだ残っておったか……」
「せめて神気を溜める時が欲しいとこだな……」
二人が話す間に、背後の黒い川の水面に音もなく般若面が二つ浮かびあがり、紅羽と竜胆の背後から銛をもって襲いかかった。
「ふたりとも危ないですぅぅぅぅ!」
離れていた黄蝶が帯からとりだした棒手裏剣を矢継ぎ早に鬼女忍者に打つ。
ところが、棒手裏剣は援護するはずが、敵味方なく攻撃した。
紅羽と竜胆が慌てて身をかわしたが、足元に手裏剣がささる。
が、鬼女忍者は棒手裏剣で仮面を破壊され髪の毛に戻った。
「うわわわわわっ!」
「こらぁぁっ、黄蝶! 殺す気か!」
「竜胆ちゃん、紅羽ちゃん、ごめんなさいですぅぅぅ~~~黄蝶は手裏剣術がまだ苦手なのですぅぅぅ~~」
「苦手なら自重しろよ! なんで投げた!」
「だって、だって……忍びといえば手裏剣を格好よく投げるものだと思ったのですぅ……」
「手裏剣は上達してからにしなさぁ~~い!」
「ごめんなさいですぅぅ……」
涙目の黄蝶に紅羽と竜胆が叱りつける。
気勢を削がれた鬼女忍者であったが、気を取り直して紅羽と竜胆の胴に刃をむける。
「おっと、今は取り込み中だっ!」
「邪魔なのじゃ!!」
紅羽が振りかぶり、太刀で鬼女忍者を真っ向唐竹割にし、竜胆がもう一人を薙刀で袈裟斬りにした。
反省してたたずむ黄蝶に、鎌槍をもった四名の鬼女忍群が取り囲む。
「ハッ! それどころじゃなかったですね……」
最年少くノ一は両手の円月輪を頭上から下肢のあたりを一周させて演舞をみせる。
二つ結びの髪が孤を描いて回転する。
奇態な行動に足を止め、互いに顔を見合わせる敵忍者たち。
「天摩流忍法・円月輪乱舞をお見せするですっ!」
黄蝶が軽やかに宙を舞い、金属輪が夜空に舞う銀蝶のように軌跡を描く。
手前の鬼女忍者の鎌槍の柄が三つに切断され、信じられない顔で仰天した間に本体も三つにわかれ、髪の毛にもどって飛び散った。
残りの鬼女たちが鎌槍を一斉に黄蝶目がけて突き刺す。
が、少女忍者が地を蹴り上げ、敵の背丈より高く飛翔し矛先をかわす。
銀盆のような月に黄蝶の影が重なり、一瞬宙に止まる。
「天摩忍法・胡蝶群舞!」
黄蝶が臍下丹田にためた黄色い神気を解放し、両手の円月輪のさきから五色の蝶々(ちょうちょう)に変じて乱れ飛んだ。
視界を蝶でふさがれた鬼女忍群の隙をねらい、円月輪が月夜に華麗に優雅に閃き、妖怪忍群を斬り裂く。
般若面が砕け、敵の姿が髪の毛になって飛散する。
「まったく、黄蝶はさいしょから円月輪をつかえばいいのじゃ」
「えへっ! ごめんさないですぅぅぅ……」
「腕をあげたな、黄蝶!」
紅羽が黄蝶を抱きしめ頭をなでる。
「……おのれ……役立たずどもめぇぇぇ……」
妖怪・鬼髪が飛散した髪の毛を妖力で吸い込む。
女の髪の毛がこの妖怪の力の源なのだ。
「……しかし、ものは考えよう……強い貴様らの髪を……いただいてくれる……」
膨れ上がった毛玉妖怪が邪気をただよわせ、すばやく黒髪触手を伸ばし、くノ一三人衆を触手で締め上げた。
「きゃあああああ……」
「うぬううううう……」
「ひゃんですぅぅぅ……」




