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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第一話 参上!くノ一三人娘
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虎穴に入ってサア大変!

 どうやら誘拐されたおるいの体におせいなる女の霊が憑依ひょういしているようだ。


「吉兵衛さん……あなたの好みの女の肉体になったよ……さあ、一緒になっておくれ……」


「……ぎょええええええ……お勢……堪忍かんにんしておくれよぉぉぉ……」


 地面にひざまづく吉兵衛の前に、お勢の幽霊がとり憑いたおるいがいる。

 吉兵衛は女にすがりつき訴える。


「ひぃぃぃぃ……お前はおるいだけど、おるいじゃない! 本当はお勢だ……頼むからおるいから出ていっておくれよ……後生ごしょうだよ……」


「……そんなこと言わないでおくれよ……あたしと一緒に暮らそうよ……」


 女たらしの吉兵衛が美少女の許嫁いいなづけ・おるいに抱きつかれたが、ちっとも嬉しくなさそうだ。

 女好き本能より恐怖心が上回っているとみた。


「いやだよ、幽霊と暮らすなんて……お願いだから、おるいから離れておくれよ……」


「……ええい、聞き分けのない男……こうなれば、一緒に心中しんじゅうして……あの世で夫婦めおとになりましょう……」


「ええええええええええっ!」


 妖女はとんでもない事をいいだした。


「……未来成仏みらいじょうぶつうたがいなき……恋の手本となりにけり……」


 妖女の長いが黒髪が逆立ち、長く伸びて吉兵衛の首に巻きつき、ぎりぎりと絞めつけた。

 あわや、とり殺される……と思われたとき、洞窟の入り口から声がした。


「ちょっと待ったぁぁぁぁ……」


「……なにやつ!」


 三人の女忍者がひとりずつ、宙に舞い、とんぼをきって登場し、太刀、薙刀、円月輪をもってポーズをとる。


「天魔忍群くノ一衆! 紅羽くれは参上!」


「……同じく竜胆りんどうじゃ」


黄蝶きちょうですぅ~~」


挿絵(By みてみん)


 水をさされたお勢の亡霊と窒息寸前の吉兵衛は、呆気にとられてしばし動かない。竜胆が恥ずかしげに、


「なあ……この見得みえを切ること、必要か?」


「必要だよ、竜胆! こうやって相手にあたし達の自信のほどを見せつけるんだよ」


「歌舞伎やお芝居でも盛り上がる場面ですっ!」


 紅羽と黄蝶はノリノリのようだ。


「……貴様ら……噂の妖霊退治人か……どうしてここが……」


「なんだかしんないけど、人さらいの悪事はこれきりだよ、亡霊女!」


「……くふふふふ……我はもはや……哀れなお勢ではない……妖怪・鬼髪きはつよ……うぬらごときに遅れはとらん」


「えっ? 幽霊が妖怪になっちゃったのですか?」


「なるほど、怨念妖怪・鬼髪か……道理で女の髪の毛を狙うはずね……」


 黄蝶が驚き、紅羽が納得する。竜胆が咳払いし、


「鬼髪――とは、髪鬼かみおにともいい、女性の嫉妬心しっとしんうらみが己の頭髪にやどって妖怪と化したものじゃ……お勢の亡霊はなんらかの理由で亡霊から妖怪に変化したようじゃのう」


 亡霊のお勢に憑依されたおるいが、吉兵衛を捨て、鬼髪の名前のとおり、髪の毛がふたつピンと伸びて鬼の角のように逆立つ。


「邪魔立てする者は許さぬ……きええええええええええっ!」


 妖女が爪を長くのばし、鉤爪かぎつめとなって紅羽たちを襲う。

 妖霊退治人たちは身をかわして逃れた。


「うわわわ……中身は妖怪でも、肉体はおるいちゃんだから戦えないよ……」


「どうやら、ここは私の出番のようじゃな……幸魂さきみたま 奇魂くしみたま 守給まもりたまひ幸給さきはえたまえ……」


 神道の巫女である竜胆が神語しんごを唱える。

 妖怪・鬼髪が、神である幸魂奇魂の言霊ことだまを耳にすると、とたんに苦しみだした。

 巫女忍者の両掌りょうてのひらから紫色の光が湧きたち、霊力波を打ち出した。


「天摩流神術・言霊ことだま憑依落としの術!!」


 妖女の肉体から青白く燐光りんこうする霊が浮かび上がり、押しだされた。

 憑代よりしろとなったおるいが気絶して倒れ込む。

 あわてて吉兵衛がかけつけ介抱する。


「おるいちゃん、しっかり!!」


 それを見て、長い髪で顔を隠れたお勢の幽霊が嫉妬で怒り狂う。


「……おのれ……おのれ……女忍者どもめ……あなくやしや……口惜くちおしや……」


 亡霊女の髪の毛が四方に逆立ち、ぐんぐんと伸びて全身が包まれ、黒髪のまゆにつつまれた毛玉のような妖怪に変じた。


 隅田川土手や葦の原で見た怪異がこれだ。

 正体をあらわした妖怪・鬼髪の体から、髪の毛が幾筋も触手のように伸びてくノ一衆を襲う! 


 だが、太刀が、薙刀が、円月輪がひらめき、黒髪触手を切断する。

 しかし、妖怪の髪はいくら斬っても再生して生えてくる。


「はぁはぁ……これじゃきりがないですぅぅぅ……」


「泣き言をいうでない、黄蝶!」


 妖怪・鬼髪が前髪を上げると嫉妬にくるった鬼女の大きな顔が現れた。

 大きな口をひらき、蹴鞠けまりほどの大きさの髪の毛玉をたくさん吐き出した。

 邪気と怨念に満ちあふれた髪の毛玉はむくむくと人型に変じ、黒装束に般若面を被った女忍び姿となった。


「……女忍者には……女忍者だ……かかれい、我が配下ども……」


 般若面の鬼女忍群きじょにんぐんが忍者刀、槍、もり鎖鎌くさりがま手甲鉤てこうかぎなどを装備し、天摩流くノ一組に襲いかかる。

 洞窟内では身動きがしずらい、三人の女忍者は外の葦の原に飛び出た。


「ひい、ふう、みい、よう、いつ……十二人もいるですよ、紅羽ちゃん!」


「くそぉぉぉぉ……一挙に兵力がふえたな……こうなったら、神気術忍法で倒すぞっ!」


「うむ……珍しく紅羽に同感だ!」


「ぴえ……黄蝶もがんばるですぅ……」


 女忍者三人娘が武器をかまえて鐘ヶ淵にひろがる葦の原に立ち、鬼女忍群に対峙した。

 三対十二に、妖怪・鬼髪も控えている……圧倒的な兵力差だ。

 そしらぬ顔で月が雲間からのぞき、葦の原を月光が白々と照らす。



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