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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第六話 幽幻!呪われた山の土蜘蛛
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煙霧陣

 竜胆と連珠坊は体を半身にして、足を撞木足に開いた構えで対峙していた。

 これは薙刀術・槍術・杖術などすべての長柄武器の基本的構えである。


「いくぞ、小娘っ!」


「負けはせぬぞ!」


「リャアアアアアアアアッ!!」


 連珠坊が墨染め衣をひるがえし、錫杖の石突で、面・小手・脛を狙った五段突きを仕掛けた。

 錫杖の遊環ゆかんが激しく鳴り続く。

 竜胆は中段の構えから薙刀の中心部を握って回転。

 天摩流薙刀術『水車』の技でかつ、戞、戞と連続技を防ぐ。 


 人間はずっと連続して動けるようだが、そうではない。

 一つの動作から次の動作へ移る間に、わずかに途切れる。

 すなわちすきが生じるものだ。

 竜胆はその隙を見極め、薙刀の峰を連珠坊の網代笠に振りおろした。


 だが、敵もさるもの、連珠坊は正面を振り下ろしてくる薙刀を半身でかわし、逆に小手を狙って打った。

 杖術『着杖つきづえ』の技である。

 だが、腕に当たる前に、竜胆の長柄がはね返す。


 連珠坊と竜胆はいったん後ろに下がって、両者三間の距離をあけて後ろに飛び、間合をとった。ともに長柄武器の対決であり、間合が遠い。

 ふたたび退魔僧が本手打ちで襲い、半身でかわされるとこれを胴払打どうばらいうちで追撃。


 だが、竜胆は驚異の動体視力で見極め、杖を受け流し、下段から跳ね上げた薙刀の石突で網代笠を叩きつけた。

 長柄の遠心力をいかした一撃。

 細く裂いた竹の切れ枝が宙に舞う。


「おのれぇぇ……」


 笠の破れ目から怒りの眼差しを向ける連珠坊。

 八相の構えから錫杖の石突がびゅっと唸りをあげて、乱打の猛攻。

 竜胆は半身で回避し、石突ではね返し続けた。

 長柄試合は膠着状態となる……




 一方、帰雲坊は黄蝶を錫杖で本手打ほんてうち逆手打ぎゃくてうち、返し突きなどの技をくり出して攻撃した。

 錫杖の遊環が乱れ打つ音が騒がしい。


 だが、少女忍者は退魔僧の頭上を跳躍し、トンボをきって回避し、両手の直径30cmの円月輪で錫杖の鉄輪を跳ね返す。

 黄蝶の迅業はやわざに帰雲坊はまったく翻弄されてしまった。


「ええい……猪口才ちょこざい小童こわっぱめぇ……まるで牛若丸の八艘跳はっそうとびだ……」


「小童じゃないのです。黄蝶なのですよ、弁慶さん」


「拙僧は武蔵坊ではない、帰雲坊だっ! かくなる上は……」


 帰雲坊は右手を錫杖の持ち手を、一番下の石突部分に持ち替え、頭上でブンブンと回転させつつ、前方に傾けて前進してきた。

 黄蝶の跳躍技を防ぐ手立てだ。


 天摩くノ一が回転杖の猛攻に押され、後退あとじさりする。

 ニヤリとした帰雲坊が遠心力を生かしたまま、錫杖を黄蝶の鳩尾めがけて刺突した。


「なにっ!!!」


 黄蝶の右手から円月輪を回転させ、唸りをたてて帰雲坊に投擲された。円月輪は本来、投擲武器である。

 輪の一方には細引きが結われていて、鎖分銅のように投擲されたのだ。


 しかし、帰雲坊は上体を軟体動物のようにのけ反らせて回避した。


 意外な体術に驚いた黄蝶。右手をひいてヨーヨーのように右手に円月輪を戻し、左手の円月輪を投擲した。

 だが、帰雲坊が半身になって回避し、逆に細引きに杖を差し込んだ。

 細引きが杖を中心に回転して、絡め取られた。


「そんなっ!!」


「ふふふふふ……黄蝶とやら、お主の体術の間合を見極めたぞ……こいつは帰そう!」


 帰雲坊が円月輪を投げ返すと、黄蝶が左手を差しだして、回転する輪を取り戻した。




「ええい、何をしておるお前たち……早く、決着をつけい!!」


 崑崙坊から檄がとび、退魔僧三羅漢は「ははっ!!」と一ヶ所に集まった。

 それを受け、黄蝶の両側に紅羽と竜胆が集結した。


「さすが盤渓寺流だけあって、武術もなかなかやるのう……」


「弱音を吐くなんて、らしくないよ、竜胆!」


「なんじゃと、誰が弱音を言ったかっ!」


「二人ともそれどころじゃないのです。相手が何か仕掛けてくるのですよ」


 盤渓寺退魔僧三羅漢は素早く打ち合わせをした。


「このままではらちがいかん……あれをやろう」


「むむっ……あれか……」


「致し方なし」


 帰雲坊の呼びかけに朔風坊、連珠坊も「応ッ!!」と答えた。

 帰雲坊が瓢箪ひょうたんの栓を抜いて、娘忍者たちに口を向けた。

 そこから白い煙幕が濛々とわきでてきて、あっという間に周囲を白い闇でつつみこんだ。


「盤渓寺流陣法・煙霧陣えんむじん!!」



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