くノ一対退魔僧
「聞かれて名乗るのもおこがましいけど、知らざあいって聞かせましょう……」
紅羽が啖呵をきると、左右に竜胆と黄蝶がならんだ。
「赤い炎の翼! 紅羽参上よ!」
比翼剣を鞘ごともって交差して構えた紅羽の背後に、火炎の中を飛翔する赤い朱雀の幻像が映った。
「……同じく、氷原の龍の牙! 竜胆推参! ……じゃ」
薙刀を前後左右に舞わせた巫女の背後に、氷原に渦巻く白龍の幻像が浮かんだ。
「花園に舞う風! 黄蝶参上なのですぅ~~」
帯から出した二つの円月輪を宙に煌めかせた黄蝶の背後に、花園に舞い飛ぶ五色の蝶の幻像が映る。
「「「天魔忍群くノ一衆参上!」」」
紅羽と黄蝶はノリノリなのだが、竜胆はどこか恥ずかしげに見得を解いた。
「ううぅ……つられて、また見得をきってしまったのじゃ……」
「いやいや、かなり板についてきたよ、竜胆!」
「女芝居一座で主役をはれるのですぅ~~」
「もう……やめるじゃ……」
恥ずかしげに両手で顔を覆う竜胆を褒め称える紅羽と黄蝶。良かれと思ってやっているが、逆効果のようだ。
赤銅色の肌をした崑崙坊がさらに真っ赤になって怒りだす。
「ええい、歌舞伎の真似なんぞしおって……これだから江戸者は軽薄でいかん……連珠坊、朔風坊、帰雲坊! 小生意気な小娘どもを、しょうしょう懲らしめてやりなさい!」
三人の若い僧侶が「ははっ!!」と答えて、錫杖を構えた。
連珠坊は首に三重のいらだかの数珠を巻いており、帰雲坊は腰に瓢箪をぶらさげ、朔風坊は背中に細長い袋を背負っている。
三者は錫杖をシャリンと鳴らして石突を地面に叩く。
三名とも隙のない構え……棒術の達人と見受けられた。
「ゆくぞ、天摩流の退治人!」
帰雲坊、朔風坊、連珠坊が墨染めの袂をひるがえし、大地を駆け、錫杖を回転させ、石突を三女忍に叩きつけんと迫ってきた。三女忍も太刀、薙刀、円月輪を構えなおした。
「やらいでかっ!!」
「振りかかってくる火の粉は払わねばなるまい!」
「結局、戦う羽目になるのですねぇぇ……」
朔風坊が紅羽に上段から錫杖を叩きつけた。
「キエエエエエエエエエッ!」
それを紅羽が左手の比翼剣・赤鳳の峰で受け止めた。
が、杖が刀の峰をすべらせて鍔を割りにきた。
『杖術・鍔割』の技だ。
が、紅羽は右手の比翼剣・紅凰を交差させて杖の進路を防いだ。
そして、錫杖を挟みこんで右にねじこむ。
「天摩流双刀術・交喙!」
「むぐっ!!」
交喙とは、嘴が交差したアトリ科の小鳥であり、これは二刀ならではの迎撃技である。
杖を取られそうになった朔風坊。
が、ねじこみの勢いを柳の枝のように従い、巻き込みの双剣の技を回避した。
朔風坊は背後に飛び退り、常道通り態勢を整えようとする。
相手も当然、そうして間合をとると思った。
だが、違う。
紅羽は常道をすて、追撃してきた。
右手の比翼剣・紅凰の峰が朔風坊の左脇腹をしたたかに打つ。
決まったと会心の笑みを浮かべる女忍の表情が驚愕のそれと変わる。
「なにっ!! ……痛ぅぅぅ……」
紅羽の右手がまるで固い革鎧を叩いたような感触が伝わり、右手が痺れた。
「みたかっ……法術・鞣革!」
朔風坊は紅凰の峰があたる寸前に神気を脇腹に集め、筋肉組織をひきしめて硬質化させたのだ。
錫杖の反撃がくる前に、紅羽は背後に飛び退った。
「うっく……やはり、盤渓寺退魔僧は神気術の使い手……お坊さんできるわね……」
「そこもともな……」
一方、竜胆と黄蝶も苦戦をしいられていた……




