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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第五話 斬風!血を吸う妖刀
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忍法・火焔つつじ

 さすがに『血流剣』も鉄扉は斬れず、攻撃がやんだ。 


「ふう……とりあえず、一息ついたのですぅ……」


「でも、石灯籠をも切断する奴の妖術剣法……一時しのぎかも……」


「そうだな……とりあえず……」


 松田半九郎が紅羽を見ると、胸元の忍者装束が大きく切り開かれ、晒し木綿で覆われた胸がはだけているのが見えた。

 紅羽が気づいて、赤面する。


「きゃあああああああぁぁぁ!!!」


「へぐっ!!」


 思わず半九郎の頬を鉄拳で殴った紅羽。

 ゴキリッと嫌な音がした。


「ああっ……ごめんなさい……松田の旦那……つい、反射的に……」


ぅぅぅぅ……前にもこんな事があったな……いや、こちらこそ済まぬ……」


 とりあえず、松田の黒二重羽織を紅羽に貸して、事なきを得た。


 蔵の外から外壁が揺れる震動が起こった。

 続けてもう二度目。

 さらに三度目……赤沼血汐丸は土蔵の剥がれ落ちた壁を狙い、破壊して、中に入るつもりのようだ。

 土蔵の壁は海鼠なまこ壁といって、壁面に平瓦を並べて貼りつけ、瓦の継ぎ目に漆喰しっくいをカマボコ状に盛り立てて塗り固めたもので、継ぎ目の盛り上がりが海に棲む海鼠に似ているからそう呼ばれる。

 亡霊屋敷となって、手入されず風化したとはいえ、火事や地震にも耐えうる頑丈な造りだ。

 しかし、赤沼血汐丸の妖術斬撃にいつまで耐えられるか……


「いずれ、この土蔵も破られそうだ……その前に討って出るしかない……」


「そのようですね……松田の旦那……」


「でも、あの鎧には武器が通じないのですよ……」


「黄蝶、紅羽……鎧武者への攻撃は兜と胴を狙っても鉄壁の守りで無駄だ。しかし、構造上、鎧の隙間が弱点となる。目・首周り・脇の下・金的・内腿・手首などを狙え!」


 戦国時代の甲冑をつけた者同士の戦闘は『介者かいしゃ剣術』と呼ばれ、平和な江戸期の甲冑をつけていない戦闘を『素肌剣術』と大別する。

 戦国時代の剣術は敵の頸動脈を狙う袈裟斬りが主流であった。


 そして、介者剣術は最後に組み討ちをし、相手の首を取った事が多かった。それゆえ、『組討術』というものが発達し、柔術が生まれたとする説がある、


「なるほど……さすが、松田のお兄ちゃんなのです」


「やはり、松田家には先祖伝来の鎧兜があって、詳しいのでしょうねえ……」


「いや……松田家の鎧はすでに曾祖父の代で質屋に流れた……」


 顔に暗い影を落とす新九郎に「なんか、ごめんさない……」と、紅羽が謝る。

 その時、土蔵の壁が大きな音とともに破壊され、大穴が開いた。月光とともに血汐丸の鉄血鎧が見える。


「ふふふふふふ……覚悟して、余の生け贄となれっ!!」


 魔道界の鎧武者が大太刀をふるい、血の帯刃が中にいる者を蛇のごとく襲った。

 太刀を構えた紅羽と円月輪を構えた黄蝶が『血流剣』の死の帯に巻かれ、二人の胴体ごと切断された!


「やったか!!」


 しかし、紅羽と黄蝶の斬殺死体は朧に霞んで消えていった。

「天摩流幻術・朧月おぼろつき」だ。

 本人の〈神気〉で造りだされた幻影分身のため、本人か偽物かわかりづらいのだ。


〈神気〉はは人間をふくめすべての動植物が持つ生命エネルギーで精神力、気力ともいう。

 おへその下にある臍下丹田(たんに下丹田ともいう)にこれをため、人体にある十二本の神気の通路〈径脈けいみゃく〉を通して全身に元気を与える。

 逆にこれがないと元気がなくなるのだ。


 その隙に三人は鉄扉を開けて外に出ていた。

 巨人武者がふり向くと、正面に紅羽がいた。


 「天摩忍法・火焔かえんつつじ!」 


 紅羽が赤い神気に包まれた太刀を青眼に構えて、八の字に乱舞させた。

 すると、刀から飛散した火の粉のごとき〈神気〉がふくれあがり、漏斗ろうと状で先が五裂した桃色の躑躅つつじ花へと変化し、闇夜に百花繚乱ひゃっかりょうらんとばかり咲き乱れ、花弁が巨人武者に舞い飛んで鎧甲冑を覆いつくす。

 思わず、両手で花弁地獄をかきむしろうとしたが、ハッと気がついた。


「莫迦め……さきほどの蝶と同じ幻戯めくらましだな……同じ手にのるか!」


 我に返った血汐丸は両目に殺気を感じ、面具の覗き穴を左手で覆った。

 紅羽の十方手裡剣が籠手ではね返された。

 その隙に下方から黄蝶が走りこみ、左の脇の下へ円月輪を投擲していた。


「ぐあああああっ!!!」


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