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妖霊退治忍!くノ一妖斬帖  作者: 辻風一
第五話 斬風!血を吸う妖刀
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秘奥義・夢想剣

「まさか、ここへ戻ってくるとはな……」


「竜胆をよくも……」


「紅羽ちゃん、怒りに我を忘れちゃ駄目なのです……」


「ううっ……わかっているよ、黄蝶……」


 半九郎・紅羽・黄蝶の前に魔人・雷音寺獅子丸は降りたち、翼手を背中に折りたたんで収納した。


「ぐわはははは……ちょうどいい、最後の決着をつけよう……」


「今度こそ、観念しなさい……」


 半九郎が太刀を抜いて青眼に構える。

 紅羽が太刀を右手に、脇差を左手に翼を広げるように構えた。


 黄蝶が帯から円月輪を出し、両手で広げる。

 円月輪をもって、黄蝶が舞うと、金具の残像が、落花の花弁と変じて、空中に飛び散った。

 花弁の一枚一枚がまるで生きているかのように動きだし、羽虫へと変じ、闇夜にあざやかな揚羽蝶あげはちょうに変じていった。

 揚羽蝶の群れは赤目の辻斬りにむかって、舞い狂い、大太刀で薙ぎ払っても、太刀風で押されて斬ることはできない。

 そして、無数にも見えた揚羽蝶は雷音寺の顔、首筋、襟元えりもとたもと、そして全身に張りついてきた。


「天摩流幻術『揚羽蝶』なのです!」


 雷音寺が顔面を覆う蝶を、気儘頭巾を投げ捨て視界を確保するが、まだ寄ってくる。白鱗で覆われ、こめかみに刺の生えた素顔がさらけ出された。


「幻術か……小賢しい……」


「ぴえええ~~ん、怖い顔なのですぅぅ!!」


「があああああああああっ!!!」


 雷音寺が気合を発し、闇の妖気が幻蝶を霧散させた。


「りゃああああああああああああっ!!」


 その隙に紅羽が太刀を大上段から、魔人雷音寺に斬りつけた。

 が、鋭い金属音が響き、火花を散らして妖刀血汐丸で受け止められた。

 片手斬りなので、威力が弱い。

 しかし、その反動で右手剣を戻し、左手の脇差を雷音寺の額から顎にかけて斬りつける。

 だが、一瞬で姿が消えた。

 妖法・縮地の術だ。


 唖然とする紅羽をよそに、半九郎の前に雷音寺が出現した。

 しかし、彼も予想しており、瞬転の技で魔人の胴を横薙ぎに斬り裂いた。

 が、これも不発。宙を飛んだ雷音寺が半九郎の肩を蹴り飛ばした。

 若侍の肉体が五間(約9m)も横に飛び、草原に叩きつけられる。


「旦那っ!!」


「大丈夫だ……これくらい……」


 ふらふらと新九郎が立ち上がった。激痛で顔をしかめる。左腕の骨にヒビが入ったかもしれない……


「ぐふふふふふふ……大僧正の法力を込めた霊刀も、神気遣いの術もわしの前では役に立たんようだな……先に松田半九郎に引導を渡してやる!」


 またも雷音寺が縮地の術で高速移動をし、姿が消えた。紅羽と黄蝶が半九郎へ向かって走るが、間に合わない……


「くそっ、また消えたか……かくなる上は夢想剣しかない……」


 半九郎は『金剛刀こんごうとう』の構えをとった。

 この構えは両手に握った太刀を体の前に捧げるように垂直に立てたものだ。

 見えない相手に対して恐怖心が膨れ上がる。


 雷音寺獅子丸は魔道界の住人となり、以前、中西道場で戦ったときよりも格段と強い剣士となった……おそらくは日本有数の剣客の域に達したかもしれない。

 半九郎の心のうちに臆病の虫が首をまたげた。

 だが、かぶりを振る。


(俺がなんとかせんと、江戸でまた血が流られる……いや、ここにいる紅羽と黄蝶も斬られてしまう……たとえ、相打ちになっても、それだけは避けなければならん!!)


 心中の臆病虫が鎌首をあげて、半九郎に襲いかかった。


(いえええぇぇぇい!)


 まぶたの裏、心中の闇にわだかまる臆病の虫を、一刀流の利剣が断ち切った。心が静かに、無の状態となった。

 そろそろ、雷音寺が迫ってくるはず。

 左腕に痛みが時折走る。しかし、彼は不動の構えだ。神経を凝らし、刀身が肉体の一部と感じる。


 首筋がチリチリと冷えた。そして、きっさきが何かを感じ、左足を大きく後ろに引き、『金剛刀』を思いきり、横に薙いだ。


「一刀流・夢想剣!!」


「ぐはあぁぁぁぁぁっ!!!」


 男の悲鳴が闇夜にこだまする。

 縮地の術から制動をかけ、半九郎を袈裟斬りにしようとした雷音寺の両膝から下が切断され、ボトリと足が落下した。

 秋芳尼の与えた法力で、刃引き刀は神秘の霊刀となって、魔道界の妖魔を斬り払ったのである。

 雷音寺は背中の翼手を生やして宙に飛ぶ。


 普段ならば、魔人の高速再生術で新しい足が生えてくるはず。だが、再生はしなかった。

 それどころか、切断面から黒く腐食していき、ちりとなって崩れていった。


「おのれ……なぜ、わしの姿を捕えた……このままでは塵となってしまう……」


 雷音寺の脳裏にさきほどの黒塗り笠の男が、太刀筋を見切ったと言ったことを思い出した。

 新九郎も同じ術を心得ていたのかと、愕然とした。


「天摩流・炎竜破(えんりゅうは!)」 


 紅羽の〈神気〉を練りあげた太刀から、赤い闘気が炎の螺旋と化して雷音寺を包み込んだ。神気の炎が魔界の妖魔の体を焼き尽くさんと大きく膨れた。


「ぐはあああぁぁぁぁ!!」


 咄嗟に最後の力を振り絞り、縮地の術で躱したため、半身の火傷ですんだ。急いで膝から上を大太刀で斬り捨てた。だが、再生はしない、火傷も治らない。


「なぜ、治らないのだ、血汐丸!」


(さきほど、腕を再生したばかりだからな……妖力が足りん……)


「そんな……なんとかしろ、血汐丸!」 


(ふふふふふ……なんとかしてやろう……)


 妖刀血汐丸は雷音寺の手を借りずに、勝手に動き、雷音寺の鳩尾に剣先を突き刺した。

 血の奔流があがる。



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