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2話
「やっちゃわなかったわ……」
私は現実に戻る。
私の、抽象絵画で描かれていない、リアルな手にはあの夢の時に持っていなかった教科書が握られている。急いでいる中で、教科書の存在を忘れていなかったんだ。
「もしかしてあの夢は……」
不思議なこともあるものね。
もしあの夢を見なかったら、教科書を忘れていた。信じがたいけれど、あの夢は翌日の出来事を予期していた事になる。
「祈里ちゃん、おはよう!」
「あ、弥乃ね、おはよう」
友達の弥乃はいつも通り、溌剌と挨拶をした。
「あ! 祈里ちゃん偉いね、みんなその教科書忘れたらしいよ、昨日突然授業変更したもん」
「ええ、当然でしょう? 私はしっかり者だから!」
「さすが!」
私はつい、調子に乗ってしまった。