1話
I・Mさん、おめでとうございます! このめでたい日に、私もささやかながら祝いの言葉を述べれてうれしいです! 魅力的なけれど棘のある貴方に送ります
夢の中にいる
それがわかれば、広がる景色も判然とし、そして非現実的なものとして認識される。
ここは私の部屋。しかし現実と少しだけ違う。例えば私のお気に入りのうさちゃん(人形)の、頭と体の大きさの比率が妙だ。覗いてみると、やっぱり私が知っているうさちゃんじゃないとわかる。机の引き出しに手をかける。開かない。鍵はかけていないはずだ。
そして何より、私の部屋と違うのは壁が無い事だ。ドアも、窓も、カーテンもない。私を囲むのは絵具をぐっちゃぐちゃに混ぜる途中のそうな空だけだ。
私は突然なので混乱こそしたが、けれど何か危機が迫っている訳じゃない、何かなすべき事も無いので、ただうさちゃんを持って、そこいらを探検しようと思った。部屋を出ると、異物感が私を襲う。自分の部屋は安心できる心理が働いているのかしら、私はそう思う。外を出たら人の目を気にしないといけないから。
うん?
部屋から大分離れると、絵具の空が、だんだんと別の模様を描いている事に気付いた。私が映っている。私ではあったが、その姿は抽象絵画の様な描かれ方で、私にそっくりそのままとは言えないが、基礎が良いおかげか、中々愛らしい。
抽象絵画の私に近づく。その私は、私に気付かないし、軽く触れて見るが、それらしい反応さえよこさない。完全に、干渉できないらしい。
「夢の中なら、この位はおかしくないわ」
ヘンではあるものの、中々興味をそそる体験だ。私は『私モドキ』の動きを観察してみた。
『あっ~、もうっ! 遅刻しちゃう!』
ああ、学校に向かっているのね。
『私モドキ』はお手入れだけすぐに済ませると、鞄を持って学校へ走る。なにやってんのよ、慌てるなんて私失格ね。
夢の中のおかげか、『私モドキ』が全力疾走をしていても、私はちょっと早歩きで追いついた。トップアスリートは人より脳の情報処理が早いから早く動けると言うけれど、多分それの状態だ。
教室に入ると、『私モドキ』は鞄の中を見て、教科書が一冊欠けているのに気づいた。
『あ! やっちゃった!』
呆れる私は、『私モドキ』の奥にある白光が見えた。