語り部人形の夜2
おや?
またこられたのですか。あなたも懲りない方ですね。
なに?
羽の生えた小さな可愛い女の子に誘われてついてきた?
あなた、ロリコンですか?
その子、日笠をさしていたでしょう? よく生きてここまで辿りつけましたね。
まあ、運がいいのも才能ですが。
せっかくここまできたのですから、今日も怪談を聞いていきますか?
紅茶を淹れてきますから、ソファでくつろいでいて下さい。
……
『それは、何でできていた?』
わたし、基本的に屋敷からはでないようにしています。ここの住人である私にはさほど危険はないのですが、やはり怖いですから。
でもですね。この屋敷で胡座をかいていても怪談が足をはやして歩いてくるわけないじゃないですか。
ですからたまに屋敷から出て、友人に話を聴いたりしています。
そうそう、あなたが出会った方も私の友人でこの話はその方に聞いたものです。
……
彼女、日が苦手でてね。ええ、太陽光線にたいしてアレルギーみたいなものをもっているんです。
まあ、別に死んだりはしませんから日傘をさしてたまに外を散歩したり、不自由はないようですけれど。
彼女はわりと外の文化が好きでね。よく外側の店へ買い物にいっているんだとか。
いつもは夕刻には帰るようにしているんですけどね、その日はなんとなく帰るきにならなかったそうで。
日が地平線に沈みかけ、オレンジ色の光が世界を満たす。やがて暗闇へ傾いていき隣に誰がたっているのかもわからない。不安になって聞いてしまう《たぞ、誰》、黄昏時とはよくいったものだ。
彼女はすっかり暗くなった路地を歩いていました。わりと歩きなれた土地なのですが、その路地は知らない路地でした。
ほとんどは民家なのですがいくつか商店もあります。どれもこれも軒先に品物を並べる古臭い形態だ。店主の姿が見えないので盗んでも気づかないのではないだろうか。
彼女は手癖悪く、軒先にあったりんごを失敬しました。
ええ、悪い人ではないのですが少々常識にかけていて。
りんごを食べ終わるころ、彼女はその店を見つけました。
人形屋といえばよろしいのでしょうか。ビスクドールだのスーパードルフィーだの日本人形だのが沢山並べられています。興味を覚えた彼女は軒先にあった一体を手にとってみました。典型的なよくある西洋人形です。くるくるとまかれた金髪の髪はとてもあいらしく、碧眼の瞳はまるで海のように深い色合いをたたえています。
ピンク色のドレスは色あせているものの、ゴシック調のデザインはとてもよく人形に似合っています。
彼女は妹への見上げにしようと思い店内へと入りました。しかし、店内には誰もいません。レジの向こう側は障子になっていて奥に誰かいそうな感じもしましたが彼女は少しまってみることにしました。
店の中は人形であふれています。壁際のたなには何体もの人形が並べられ、入りきらない分は床に直接置かれています。
どれもこれもよく出来ていて彼女は感心してしまいました。持っていた人形はレジに置いて別の人形を持ち上げます。見ればみるほどよくでき人形です。これまた典型的な日本人形なのですが、髪はきらびやかでとても美しく触ってみるととても偽物だとは思えません。まあ、こういった人形には人毛を使うこともあるのですが。
彼女は惹かれるようにして人形の顔に触れてみました。
おや? と思います。手触りがとてもよいのは良いのですが少々よすぎるような。しかもなんだか少し柔くて生ぬるい。まるで人肌のようです。
別の人形も手に取り肌に触れてみます。やはり人肌のような柔らかさがありました。
どうゆうことでしょうか?
「おや、お客かね」
振り向くとちょうど老婆が障子を開けてでてくるところでした。障子の向こう側になにかが見えたきがしましたがあえて無視します。
彼女はレジに置いた人形を指さしてこの人形はいくらかと聞きました。
「ああ、こいつかね。そうさね、五万ほどでどうかね」
彼女にとっては目のくらむような金額でしたが、幸いにも今日は手持ちがあります。
ポケットからお金を取り出してレジにおきます。
人形を手にとって彼女は店をでます。振り返ると老婆は障子を開けて店の奥へ戻るところでした。
やはり店の奥にそれがみえます。
血まみれの
人間の足が。
……
彼女の妹はお土産の人形を大層喜んだそうで。気を良くした彼女はまた人形を買いに出かけたのですが、あの人形屋どころか路地すら見つからなかったそうです。
どうです? 不思議な話でしょう?
なに? 話しはともかく紅茶は美味しかった?
あなた、失礼な方ですね。別に気にはしませんが。
それで今日はどうします? 今日わもう暗いですし泊まっていかれますか。いや、泊まっていった方がよろしいです。夜道は危険ですから。
あなたも
人形にはなりたくないでしょう?