蛇孤流
「Kクチサーン Kクチサーン」
僕の名前を呼ぶ声がする その声には常にノイズが生まれており
この世の全ての―――負を孕んでいるかのように聞こえる
「どうした肝子迷ったのか?使えないな」
「あーん? 迷ってないですよ。っていうかもうすぐ蛇孤の里に着きます
あっ!!」
「何だ!やっぱり何かあったのか!?」
「知っていましたか!? Kクチサン!
砂漠では蟻が貴重な水分源として認知されているそうですよ!」
「あ? そんな何の脈絡もなくそんなにためにもならないうんちく語ってどうしたいんだ?
ここは砂漠でもないし、何の必要性も感じないだろ ミチタケカヨ」
この―――――
なんだかよくわからない変な生物は肝子といって
あの神が旅のお供として付けてくれたものだ
確かに僕には他流派の住んでる所なんか知るはずもないし
おまけに方向音痴だったので、案内役という存在は非常に有難かった
しかし――――――だ
完全に目は逝っている
鼻はひし形に近く、口は常に大きく開き
体格は見事な逆三角形を描いている
しかし、髪型と服装だけみれば歴史の教科書にでてくる
神話の民のような姿をしている
あぁあと補足として彼女は女で
正式名称が《天使肝子》
そう、正式名称からもわかるようにこいつは天使なんだそうな
天使は日本語読みではなく英語でエンジェルと読むらしい
エンジェル肝子
本来は相交えぬものである正と負
まさにその象徴ではないだろうか
そんな得体のしれない存在が四六時中僕のそばに纏わりついてくる
今でこそ多少慣れたが最初は休憩さえ碌にできなかった
木に腰かけ右を向いたら
こいつがいる
全然休めなかった ずっと見てる
瞬きも恐らく呼吸さえ必要とさず
ずっと見てる
休憩する時くらいどっかいってろと言ったが
「あーん? は?」
とハテナマークを浮かべ首を左右に傾げ続ける
どうやら都合の悪いことは理解できないようだ
「ここが蛇孤の里か…」
無駄な推察をしていたらいつの間にか目的地に着いてしまったようだ
目の前には門番であろう厳ついおっさん二人が警戒しつつ
こちらを見張っていた
本来、こういった里には一族のものしか出入りさず
場所さえ秘匿されている
そんなところに明らかに一族のものではない人間と何か変な生物がきたら
そりゃ警戒もするだろう
あまり刺激することもないので
ある程度距離を開けて要件を言うことにした
「我輩、裾の者なのだが ある御方の命より馳せ参じた
内約は彼の災厄の遺物である八つが珠が一つ『ま』の珠を貰い受けに参った
恐らくこの話は蛇孤流頭首にも御方より話がいっているはずだ
なのでできれば頭首の元へと案内してはくださらんだろうか?」
格好つけてみた
その後は多分口調を改めたのが功をそうしたのだろう
特に問題もないまま蛇孤流頭首の元へとたどり着くことができた
「確かにその話は神よりう伺っている珠をやるのもやぶさかではない
しかしだ、裾の者よ こういうのは得てして実力で望んだものを勝ち取るという
展開になるとは思わないかい?」
「思いません」
「」
なにを言ってるんだこいつは…
そう思いながら目の前の美少女―――現蛇孤流頭首を見る
頭首が女だったことにも驚いたが、美少女なのでなお驚いた
この現代社会、近代機器が世を制してる時代
よくもまぁ女の子がこんな蛇孤やら意味分かんない流派を継ぐものである
人はなぜ態々苦難の道を選ぶものであろうか
「とりあえず戦うのは決定事項だ
そして私が勝った場合お前の『!』の珠を頂き、お前の任務とやらも引き継ごう」
どうやら戦うのは絶対らしい戦闘狂とは面倒くさい者である
「仕方ないですね、わかりました」
正直負けるわけにはいかない、和田さんを生き返らせるには全ての珠を集めないといけない
それは僕でないと意味がないし、彼女が集めきったとしても僕の願いは届かないだろう
頭首と僕はいままで居た座敷をでて屋外の修練場へとやってきた
いるのは二人+一匹だけ
どうやら周りへの被害を想定して近づかないようにしているようだ
「準備はいいな? それでは始めるぞ?」
「ちょっとまて 一つだけ言いたいことがある」
「なんだ?」
僕は顔を上げ青空を見ながらゆっくりと呟いた
「争いは何も生まない」
「………」
「アフリカの子供たちは生きるのに必死なのに僕たちはなぜあらそ…」
「死ねぃ!!」
ブォン!!
悪寒を感じ全力で横っ跳びをし、ゴロゴロと転がる
チラリ―――と僕がさっきまでいた場所を見る
そこの地面には大きな縦筋が走っており、蛇孤流頭首の方を見ると
変な構えのままこちらを睨んでいた
手首を下方に曲げ両手をクロスし突き出す
これこそが蛇孤流の蛇孤流たる所以
まるでカマキリのようなポーズから繰り出される攻撃――いや斬撃と言ってもいいのかもしえない
それは比類ない攻撃力を持っており万物をも切り裂くとされている
それにしても―――
「まったく見えなかった」
彼女の姿がではない彼女の攻撃そのものがだ
彼女は最初の位置から動いておらず手を振りおろしただけ
彼女は道具らしきものは何も持ってはいなかった
なのに遠距離攻撃を可能としてる
「どうした驚いたのか?
さっきのは斬撃を飛ばすだけの遠断鎌鎌という除孤流の基本技だよ」
あれがただの基本技だと…
僕はそんな動揺を悟られないよう平然と呟く
「まだ、開始の合図は鳴ってないようだが?」
「いやお前、これから戦うって時に何争いの無意味さを説いてんの?バカなの?
アフリカの子供たちには同情するがこの事と全く関係無いからな?
というわけでいくぞ」
そう言って蛇孤流頭首は猛スピードでこちらに向かって来る
「まっ!!待て待て! 今度はホントに待って!!!」
ザザザッーっと土煙が起こり目の前の少女が不満顔で止まる
「なんだ、まだあるのか? またくだらないことだったら
すぐにでもお前を殺すぞ」
「今度もくだらなくなんかない。いいからちょっと待て」
そう言って腰を曲げ下を向き目的の物へと手を伸ばす
ジジジッー とジッパーは外れていく音がする
「お前それは…いや、それこそが…」
目的のもの―――取り外した裾を手に持ち構えながら僕は叫ぶ
「これが――――裾流だ!」
態々待ってくれた頭首に先制パンチをお見舞いする
目の前にいたので避けることもできない
手に持った裾を頭首の腹へと叩き込む
ドンッと鈍い音がし、頭首の体がくの字に折れる
「かはっ!」
追撃を加えようと思ったがその前に牽制として腕を大きく振るわれたので断念した
彼女は牽制を行った後、一旦僕から距離をとった
「お前!!卑怯臭いぞ!!こっちは待ってやってたしお前の言う合図もまだしてないんだぞ!」
「勝つためには捨てねばならないものもあるそれが己のプライドだろうともな!!」
「あーん!Kクチさんまさにド畜生ですぅ!」
いままで傍観していた肝子から声援を受ける
「そうか、少し遊んでやろうと思っていたが最初から本気でいかせてもらうよ」
殺気がすごい
目なんて吊りあがって赤く光ってるし、あれも蛇孤流の技か?
「敵を前にして手を抜こうとするなんて僕なら考えられないな
僕は最初から全力だ!くらえ!奥義!」
両者ともものすごいスピードで近づき、瞬く間にゼロ距離となった
刹那に三閃
彼女の鎌は何もしなければ僕を四分割にしただろう
そこで僕は裾流の技である《ミカガミ》を使い三閃とも防ぐことに成功する
彼女が次の攻撃を加えるまでの一息の間
それを狙っていた僕は裾流の奥義を発動させる
蹴った
当たった
「いてっ」
そうこぼした彼女は困惑の後驚愕に囚われている
崩れ落ちる蛇孤流頭首
地に伏せる彼女の頭の上に足を置く僕
既に勝敗は決した――――奥義が決まったあの時から
「んじゃあ、『ま』の珠はもらっていくぜ」
頭をグリグリと踏みつけながら吐き捨てるように言う
最後に体を蹴飛ばし、その時落ちたであろう『ま』の珠を拾い懐に収める
人払いが役に立ったのか肝子と共にそそくさと里の外へと脱出することができた
こうして僕のも含めると二つ目、『ま』の珠を手に入れることに成功した
次に目指すは拳黄の里だ!
待っててね和田さん!
俺たちの冒険は始まったばかりだ!