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新谷の拳  作者: Kei.ThaWest
第1部 拳雄割拠編
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第5話 刑事と情報屋

午後からの講義が終了してから、新谷は立脇と落ち合うことにした。

立脇のほうは現職の刑事であったがちょうどその日は休日で、しかも偶然にも大阪方面まででてきていたのだ。


二人は新谷いきつけのバーで夕方6時に顔を合わせた。

「おう」

どちらもそっけなく一言かけあった。

店内の隅のテーブル席に着くと、新谷のほうから語り始めた。

「3年振りか」

「そうだな」


立脇は歳月の重みを噛み締めるようにどっしりと頷いた。

立脇剛には、圧倒的な存在感が備わっている。

屈強に磨きこまれた肉体、揺るぎない重量のある口調、

立脇という男は、その場の全てを自分中心の世界へと変えるだけの強さを内包している。

新谷はその大きさの前に、自分の小さな姿が無防備にさらされているような感じを覚えた。

新谷ほどの男すら萎縮させてしまうなにかが、立脇からは発散されているのだ。


「で、用件は?」

「あいかわらず、つれないなお前は」

「ああその通りだ」

立脇は手をさっとあげてマスターを呼んだ。

「スコッチ、ロックで」

新谷は今夜は酔いたくはなかったのでカルーアミルクにしておいた。


テーブルに置かれた自分のグラスをじっと眺めながら、立脇は無言だった。

「俺の部屋の枕元に、これが」

新谷はあの紙切れを見せた。

「こいつは、呪い師の使う呪符だろう」

立脇は確固たる声でそう断定した。

「近くに、呪い師がいるはずだ。思い当たるフシは?」

「ない…な」

「嘘をつけ。ありすぎてわからないんだろ」

立脇に言われて新谷は苦笑するしかなかった。


「酷いことを言うやつだ。まあそうとも言えるか…」

「俺がやるべきことは?お前の警護か?」

立脇は不満そうである。

「そんな退屈なことはさせない。少しだけ、俺に付き合え」

新谷はニヤリと、立脇を見据えた。


それからすこしあと、新谷は立脇を引き連れてある場所にやってきていた。

狭く年季を感じさせるテナントビルの2階。

木製のちゃちなドアをノックした。

チャリッ。

向こうから何者かが鍵を外した。


うち開きのドアをその人物が引き開けた。

かなりの高齢だと思われるその男性は、新谷を一目見るなり、

「あんたか」

と沈んだ息を吐いた。

「やあ、情報屋」

新谷はすばやく体を室内に滑り込ませた。


「厄介事はもうごめんだよ、先生」

「安心しろ、厄介事が万が一にも発生した時のためにこいつがいるんだ」

新谷は立脇を指差した。

「俺か?」

立脇は当惑している。

「まあ、あんたも入んな。中でゆっくり話を聞こうじゃないか」

情報屋は卑屈そうにからからと笑った。



「奈落川呪苦、名前を聞いたことは?」

情報屋は新谷の話を聞いた30分後に、ある人物を特定していた。

奈落川呪苦、いかにもな名前だが性別は女である。

年齢は現在19歳で、代々日本の裏社会に伝わる奈落川式呪術の継承者だ。


情報屋によると奈落川式呪術には厳密なルールがあるらしい。

そのひとつに、呪術をかけたい相手の持ち物を使用する、というのがあるらしい。

相手にとって身近な持ち物、しかもその人物が最も大切にしているものを使用すると呪いの効果は強まるようだ。

すなわち、新谷に呪いをかけようとしている奈落川呪苦を止めるには、その道具を奪還すればいい。


「私の大切なものか…」

新谷は、大切にしているもので最近紛失したものを思いおこそうとした。

「ううむ…わからんな」

新谷は頭を悩ませた。

ぱっと思いつく大切なものといえば…愛人1と今度の国際医療技術学会で発表する研究のことか…

しかし愛人1は今のところ無事だし研究の論文はまだ自分の頭の中にしかない。


「お手上げかい?先生。それなら呪い師のほうを探してみるかな?」

情報屋は地図を持ち出してきた。

「基本的にこういう商売の人間の行動範囲というのは限られている。

 寝床に選ぶ場所は特に、ね」

情報屋は赤ペンで地図上の三カ所に丸印をつけた。

「ここいらで聞きこみでもしてきたらどうだい?」

「わかった、助かる」

新谷はテーブルにキャッシュで持っていた200万円を置き、礼をいってからその場を立ち去った。


情報屋の地図を手に、車に乗った。

「おい新谷、なにか臭わないか?」

助手席の立脇が訊いた。

「なに?俺は毎日風呂には入っているぞ!」

「そうじゃない、バカ!怪しいと思わないか、あの情報屋。

 どうも俺たちをそこへ行かせたがっているみたいだった」

「ああ、たぶんこの三カ所はかなりデンジャーなんだな。実はな立脇…」

「なんだ?」

「俺は昔、あの情報屋とやりあって、奴の片目を潰してるんだ」


「そのときの因縁、か」

立脇は納得した。

新谷の過去には幾多の抗争があった。

そのひとつ、というわけだ。

「とにかくまずは1番近いところへ行ってみよう」

新谷が車を発進させた。


到着した場所は、立派な門を構える道場だった。

門には、「拳鑽会(けんさんかい)」と彫られていた。

「たのもー」

門を力強く押しあけ、新谷と立脇は道場へ乗り込んだ。

そこで待ちうける試練について新谷らは知る由もなかった…

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