第3話 汚ぇ花火だぜ
「と、おもったが、今日のところは止めておこう…どうやら邪魔が入ったみたいだ」
鉈落は、ズボンのポケットに腕を突っ込んで何かを取り出した。
凶器!?
油断させて一気に切りかかるつもりか!?
いや…それは携帯電話だった。
どうやら着信があったらしく、鉈落は携帯を耳にあてている。
「あ、もしもしリョーコちゃん?めんごめんご、ちょっと手が離せない用事があってさー、
クライエントが無理言うのよーほんっと、ごめんねー、
プレゼントのバッグは実はもう買ってあるんだー、今度いつ会おっか」
鉈落がなんだか気色悪い声で会話している相手は…彼女か?
ていうかそんなキャラだったのか鉈落断宗!
「今度の土曜日?わかった、じゃあ予定あけとくねー、
いつものように、『ペンギン村』前に集合ね!えーなにもしないよープレゼント渡すだけだよーうん、じゃあまたね」
一通り話終えたらしく、鉈落は携帯をポケットにしまった。
その顔にはしばらく、ふぬけたニヤニヤ笑いが消えなかった。
「ふん、命拾いしたな!次に会うときは、お前の最期の時だからな!さらばだ!」
と言って鉈落はどこかへと走りさってしまった。
新谷は呆然とその後ろ姿を見送った。
折られた腕のことなど意識の片隅においやられていた。
その日の夜。
新谷はいきつけの病院で診察を受けていた。
骨折した箇所はガチガチにギプスで固められてしまった。
一ヶ月は動かせないそうだ。
新谷は、いつも担当してくれる専属の女医、桃尻エリカに不平を洩らした。
「もっと早く直らんのか、困るんだよこのままじゃ」
「あんたが変なのと絡むからいけないんでしょーバカ!バカ新谷!バーカバーカ!」
桃尻エリカは新谷を罵倒した。
新谷はたかぶる自分のモノを何とか男のモンスターボールの中に押し込むと、平静を装った。
「私はしっているぞ、君はいつもそうやって汚い口を吐くが内心ではいつも私の心配をしてくれているということを」
「べっ、別にあんたのこと心配なんてしてないんだからねっ!」
桃尻エリカは顔を紅潮させてうつむいてしまった。
「さて、さっさと自宅に戻ってレポートを仕上げなければ」
「え、もう帰っちゃうの?」
新谷は、寂しそうな桃尻エリカに、
「この尻軽淫乱雌豚女医め!」
と感謝の言葉を述べてから病院をあとにした。
やらなければいけない仕事が山積みなこの時期に腕を片方折られるとは…。
それだけで新谷へ与える精神的ダメージははかりしれない。
鉈落はその意味ではうまく新谷を苦しませることに成功したとも言えよう。
新谷は最近あまり相手をしてくれない愛人にメールしてみた。
愛人はこのところ機嫌が悪い。
たぶん、アレなんだな。
新谷はしばらくは別の女で我慢するかと考え、愛人その2から愛人その37までに一斉送信でお誘いメールを送ってみた。
すると36人全員がOKしてくれたのでその夜、新谷は36発の花火を打ち上げることとなった。
新谷は早朝5時、36人目の相手を送り届けてから一旦自宅に戻った。
すると自宅玄関に、あの男がいた。鉈落断宗だった。
「またか…」
新谷は溜め息をついて、非情にもアクセルを踏み込んだ。
車は「ぎゃっ」と悲鳴をあげる鉈落を轢き逃げしてから私道に乗り込んだ。