何かになりたい
何もない者が何かを成し遂げようとしても、それは自己満足にもならない。辛いこと、悲しいことがあっても、誰も見ていないし、助けてくれない。
ただただ理解者が欲しい。
僕は取り柄が無かった。
いや、取り柄が無いというよりは特出した特徴が無いと言った方が良いのかもしれない。家族構成も友人関係も何も無いような気がする。寧ろマイナス要素の方が思い浮かぶ、のはしょうがない。別に虐められている訳でもないし、グレテいる訳でもない。只僕は何も持っていなかった。
しかし僕は視てしまった
その子に出遭って喋って関わって終った。
多分其は世間一般の人々からしたら『嘘』という言葉で片付けられてしまうのだろう。友達から馬鹿にされ、からかわれるだけだ。此処まで話してきた内容だけを聞いていると、僕は友達のいない可哀想な男の子と思っている人もいるのではないだろうか?いや、多分そう思っている人が大半を占めていると思う。先に言っておく
僕は友達が七人もいる!
……。
どうせドン引きしているのだろうが僕はそんなことには慣れているので傷一つ付かないぜ どうだマイッタカ
ココで一つお詫びして訂正しておこう。僕に友達はいません えぇそうですよ 僕には友達と呼べる存在は七人どころか一人もいません ここらへんで皆がみんな僕に向けていたさっきまでドン引きだった眼差しを哀れみの眼差しに変える。これも慣れっこだ。こんなことにイチイチ反応していたら今頃僕の精神は崩壊している。
話が逸れた。『ゴメンナサイ』←これはとても便利な言葉だよね 今までも何度も利用・活用・採用してきた。日本語の謝罪を意味する言葉の中で一番使いやすい。自慢じゃないけど僕はこの言葉を誰よりも上手く使用出来る自信がある。
また話が逸れてしまった
なんにせよ 僕が言いたい事は
『目の前にある嘘みたいなことは決して嘘では無いというと、ときに嘘というモノは現実や真実よりも素晴らしいモノになり得ること、その嘘に遭遇し、出遭ってしまって、関わってしまったときに決して深入りしてはいけない』ということだ。
経験に勝る知識なし だ。
僕は世間から言うところの化け物という存在なのだろう
また訂正 存在になったというのが正しい。ここから真面目に聞いてほしい。
僕は高校生。
私立香江川高等学校 三年生。
好きなモノ 落ち着けるモノ
嫌いなモノ 落ち着けないモノ
家族構成 祖母 父 母 自分 妹 弟 ペット(九官鳥)
好きな時間帯 深夜
口癖 『なんとなく』
好きな女性のタイプ 心の広い人
彼女 無
友達 無
好きな漫画 SF ファンタジー
嫌いな人間のタイプ 暴力的な人間
種族 人でも 動物でも 植物でも 化物でも 機械で
もない
僕は嫌われた━神様に 神様というよりは神様達に嫌われてしまった 冷静に考えるとすごくくだらない幼稚で単純な理由な事だった。僕は彼等の領域を冒したからだ。
僕はブラブラ街の中を彷徨うように歩いていた。傍から見たら不審者同然だっただろうが僕にとってはお散歩のつもりだった。
ただ本当に入ってお話ししただけだ 女の子と 歳は十歳くらい 淡いピンクと純白のワンピースに腰まで伸びる光沢のある黒髪 目つきは決して良くはなかったが少しツリ目で 子供とは思えない程色っぽく妖艶だった
夜が好きなのもあり、特に夜の町に繰り出すのがすきだった
こともあり その日も夜の八時に家を出ていた。そして何を買う訳でもなくコンビ二に入り 雑誌を物色し レンタルビデオ屋で『号泣必至 超感動大巨編』と書かれた謳い文句のビデオを借りて家路に着いた。親からの連絡は無い。 うちの両親は変なところで過保護で、変なところで放任するから こちらとしてもその距離感を保つのに何年も費やした。
携帯の液晶画面には『新着メール 一件』と表示されていたが、友達も居ない僕には迷惑メールだと直ぐに察しがついた。
「何してんだろ 僕」
いつもの独り言 誰に言う訳でもないそれを 僕はこの時間帯によく口にする
帰宅途中に僕の卒業した中学校が目に入った。今思うとあの頃から僕は何も変わっていない、と思う。
いや 変わっていない
自分自身を客観的に見たら むしろ後退している
いくら母校だからとはいえ こんな時間に学校の前に佇んでいたら 間違いなく不審者だ
通報される前に帰ろうとしたが、やけに校内に止まっている一台のワゴン車が気になった
シルバーの夜に妖しく光るワゴン車
気づいたらその車の真横に来ていた
「おいおい これって不法侵入じゃないのか?」
スグに立ち去ろうとしたが、中がすごく気になってしょうがなかった。
中を見たら帰ろう
そして後悔した。
女の子が一人で乗っていた
こんな時間に
学校で
しかもこんなワゴン車の中で一人きり
「………!」
みたミタ見た診た視た看た観た!
ヤバいよどうしよう
呪われる 祟られる 殺される!
霊感なんて全くないのに!
なんでよりによって今なんだよ!
中学なんて寄らなきゃよかった!
そんな思い出があるわけでもないくせに!
見なきゃよかった!
覗かなきゃよかった!
急いで校門まで走り、柵を乗り越えた
人間追いつめられると凄いと実感したが、そんな余韻に浸っている時間は無かった。
死にたい 死にたくないけど死にたい 後悔しかない
あの子の顔が頭から離れない
色白
艶のある髪。
ワンピースを着ていたように見えた気がする
僕は肺が悲鳴を上げそうなくらいくらい全力疾走した
気がついたら布団に包まっていた
さっきから僕は 気がついたら ばかりだった
気がついたら中学校の門の前
気がついたらワゴン車の横
気がついたら走ってて
気がついたら布団に
「あれは……何だったんだ?」
時計を見たら十一時を回っていた。
この時間は家族は起きていても自室に戻っている
誰かにこの事を言うのは恐かったが、誰かに相談したかった。
しかし 僕には友達は皆無 両親とはそんなに仲良くも無ければ悪くもない 普通だ 兄弟は 馬鹿にされる お祖母ちゃんは心配掛けたくない
もう答えは出ていた
一人で抱えるしかない ということだ
あまりに惨めで泣けてきた
というよりも泣いていた
あの恐怖体験で というより自分のことで
相談相手どころか 僕には味方が居ないことに
そんな気にしたことはなかったが 改めて実感させられた
あの体験で
女の子を見て
僕は気付かされたのだ
僕には味方が居ないことに
相談相手が存在しないことに
そしたら急に死にたくなってきた
さっきとは別の意味で
僕は再び家を出た。時刻は十二時十五分。完璧に警察に補導される時間だったが、僕の住んでいるところは少し田舎なので大丈夫だろうと自分に言い訳をした。
目的地は決まっていた。僕の卒業した中学校だ。あんな恐怖を味わった後にスグ現場に戻るなんて、自分でもどうかしていると思ったが、なんかどうでもよくなっていた。
急に肩の荷が下りたようだった 何も乗っかっていないようだったけど 自分という存在を見つめ直したらすぐに理解できた。
「僕は何だったんだろう…。」
何がしたかったんだろう こんな風に真面目に自分について考えたのは初めてだった 考えはじめたら簡単だった。
何も無かった 恋人も 友達も 家族も 持っていたつもりだった。友達が居ないのは気にしていなかった。でも家族にも見放されていた 心のどこかで感じていたことだったかもしれないが
中学校の正門の前に着いた。
さっきの女の子が居た。
ワゴン車から降りていた。 不思議とさっきより恐くない。 この時初めてその女の子の特徴が解った。
女の子 髪は長髪黒髪で腰まで伸びていた 紫色の瞳で 狐のように少しツリ目 淡いピンク色のワンピースを着て 真っ白な靴を履いていて 身体は吃驚する程細く そこから生えている手足なんて針金のようだった
「そんな処で何をしているの?」
と、女の子は尋ねてきた。
普通逆だろ この場合。
「何もしてないよ。」
僕はそのことを言わずに返答した。
「お兄ちゃんは何歳? この学校の生徒さん?」
まてまてまて、確かに僕は少し童顔かもしれないけど、
高校三年生で しかも卒業間近だぞ 中学生に間違われるのは少し傷付くぞ
「黙ってないで何か話してよ それともお兄ちゃんは女の子と話したこと無かった?」
この餓鬼生意気だ。 そう思ったが ここで憤るのも器が小さいし、何より大人気ない ここはグッと我慢して
「君こそこんな所で何してんの?もう日付も変わってるよ?親御さんが心配するよ?」
「質問に答えてよ。 私は『女の子との経験はあるの?』って聞いたんだよ」
「それだと意味合いが違ってくるんだけど……。」
「どうせ両方無いでしょ。」
「何だと!」
少し感情的になってしまった。 こんな幼い女の子に痛い所を突かれたからではない 決して。
「お兄ちゃん」
「何だい?」
「名前は? お名前はなんていうの?」
いきなり真面目な質問になり少し戸惑ったが、僕は対応した。
「名前? 齋條だよ。 齋條 慧だよ」
「慧 ですか。普通ですね」
ケンカ売ってんのか、この子。 買わないけどさ
「お譲ちゃんのお名前は?何て言うの?」
「個人情報 及び プライバシーの侵害です。」
「いやいやいや。 今君だって僕の名前聞いたじゃん」
「冗談です。 西野です。西野 司といいます。」
「へぇ~ 良い名前だね。」
「どっちがですか?」
「えっ?」
理解が追い付いていない僕に対し、彼女は冷静に対応した。
「苗字の方ですか、それとも名前のほうですか?」
「いや。普通に考えれば名前全体の事を言うんだけど。」
「貴方の普通を私に押し付けないでください」
ムカつく 生意気を通り越して性格が破綻している
「全体で、だよ。」
僕は怒りを鎮めて言った。 なぜなら平和主義だから
「そうですか。褒めてもらえて嬉しいです。」
おぉ。やけに素直だな。やっぱり可愛い所があるな
「しかし 貴方のお名前は貧乏臭いですね。なんかこう、しみったれているというか、平凡極まりないというか。」
可愛くない。本当に可愛くない。
少しでも好意を持ったのが馬鹿みたいだ。
「じゃあ僕は帰るよ。補導されたくないし」
これ以上傷つけられたくなかったので
というか、
関わり合いたくなかったので、その場を後にした。
「何だったんだ あの子」
帰り道。
コンビニの明るさをありがたく思いながら帰路に着いていた僕はそんな独り言をつい漏らしてしまった。
でも本当に何だったんだろう。
名前は 西野司 年齢は 十歳くらい(見た目からして)
それくらいか。
僕は情報を整理した。
するほどなかったけど。
「でも全く、こんな時間に外出なんて。先が思いやられるな。」
………。
ちょっと待てよ。
現在の時刻 一時三十分過ぎ。
女の子と別れてから十五分位経過している。
多く見積もっても別れたのは一時過ぎだ。
いくらなんでもおかしい。
いや おかし過ぎる。
子供が。
しかも女の子が。
真夜中の中学校の敷地内に居るはずがない。
セキュリティ以前の問題だ。
家族は、親は、兄弟は心配しないのだろうか?
放任主義なのか。
放任し過ぎだろ。
「………。」
戻ろう。
心配だ。
女の子を放っておくわけにはいかない。
「僕もお人好しだな。何の得も無いのに。」
そんな独り言をつぶやいた後、すごく恥ずかしくなった。
さっき通った道を逆戻りする。
中学校の校門に着いた。
さっきの女の子はまだ茫然と立っていた。
「………。」
何故だろうか。さっきより綺麗に見える。小学生相手に変な感情が湧いた訳ではない。
僕はロリコンじゃないからな。
でも見蕩れてしまった。多分あの子は将来美人さんになるに違いない。 間違いない。
僕にも妹がいるがあんな美人じゃない。
あんな妹がいたら、きっと良い人生が送れるかもしれない。
「何をさっきから観てるんですか。気持ちが悪いですよ。というか帰ったんじゃないんですか?それとも私に気でもあるんですか?」
本当に生意気だ。
でも怒らない。大人だから。
「君…、こんな所で何してるの?」
「貴方に関係ありません。」
「親御さんは?心配してるんじゃな…」
「黙って下さい。お願いします。」
逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ。
「人が話をしている時は黙って聞こうって教わらなかった?」
「はい。教わりませんでした。」
試合終了。
完全敗北。
高校三年生が、小学生に。
「この程度で傷付かないでください。齋條さん。」
名前は覚えてんのかよ。
「えぇっと、慧でいいよ。」
「嫌です。」
泣けてきた。涙腺が集中攻撃受けている。
周りから観たら奇妙な光景だったと思う。
中学校の校門で、小学生の、女の子に、高校三年生が泣かされている。地面にふせながら。
幸い今は深夜。誰も目撃者は居ない。
「小学生に打ちのめされないで下さいよ。慧さん。」
呼んでくれた。素直に嬉しかった。
「私は司で良いです。」
何か急に優しくなった。 恐い。
「えっと、じゃあ司」
「はい何でしょう」
「こんな所で何してたの?こんな時間にうろついていたら危ないよ。そもそも親御さんは?心配なさってると思うし、家に帰りなよ。なんなら案内してくれたら送ってくし。」
質問攻めしてしまった。理解できただろうか
「………。」
あ。やっぱり無理だったか。
「…ありがとう」
え。
今意外な言葉が。
てっきり僕は『うざい・死ね・帰れ』のどれかが来ると思っていたのに。
嬉しい拍子抜けである。
「どうしたの 急に?」
「私がお礼の言葉を口にしたらおかしいですか?」
怒られた。これは僕が悪い。
「おかしくないよ。 全然」
「………。」
沈黙。
何か変なこと言ったかな。
「……。気を取り直して、慧の質問に応えます。」
「おぉ。ではどうぞ。」
「私は家出したんです。」
お化けではなかった。一安心だ。
「驚かないんですか?」
「僕も家出中みたいなもんだからね」
「貴方と一緒にしないで」
怒られた。さっきから何回小学生に怒られてるんだ。いい加減なさけなくなってきた。
「それで、家出の理由は単純です。家にいられなくなったんです。」
「それは、ご両親と喧嘩した、とか、夫婦喧嘩の巻き添えを食らいたくないからとか?」
「違います。家が無くなったんです。両親共々」
「…嘘」
「残念ながら本当なんです。今日学校から帰ったら、家が蛻のカラでした。それでどうしていいかわからなくなって、あのワゴン車で休んでました。」
……。
空いた口が塞がらなかった。
想像以上、いや想像の遥か斜め上を行く内容だった。
「…ゴメン。」
「何で貴方が謝るんですか?」
「興味本位で、軽い気持ちで聞いちゃって」
「気にしないでください」
「…、これからどうすんだよ、というかその格好寒くないの?」
「これは…、お父さんとお母さんが誕生日に買ってくれたものなんです。」
傷口を広げてしまった。なにしてるんだ僕は!
「そっか、じゃあ大切にしなきゃな」
「えぇ、言われなくても」
今にも泣きそうだった。そりゃそうだ。小学生にはあり得ないくらいの不幸。見ていられない。
「家に…帰らないのか?」
「もうありません。『貸家』という看板が立てられていましたから」
「そうだ。司の両親は?今時の小学生は携帯電話くらいもってるだろ?」
「五十二回かけました。出ませんでした。」
「…えぇっと…。」
どうしよう。話すことが無くなった。こんなときに自分のコミュニケーション能力の無さを恨んだ。
「もういいですよ。うちの親、いい加減でしたから」
「…でも」
「いいんですって。大丈夫です。何とかなります」
意地を張っているのは手に取るように解った。
司はクルッと後ろを向く。
ワンピースの下のヒラヒラがなびいて綺麗だったが、後ろ姿は悲しさで満ち溢れていた。
どんな気持ちだっただろう。
小学生の女の子が、家に帰ってみたら家が無くなっていて、両親とも連絡が取れない。夜の中学校で、一人冷たいワゴン車の中で一晩過ごす。
「………。」
また沈黙。しかしすぐに終わった。
「そういうことです。ですから慧さんは気にせずご自宅にお戻りください。小学校のことは両親が手続きしてくれていました。全く、そういうのはちゃんとするから困った親ですよ。
だいたい、こどもを置いていくって、酷いですよね、そう思いません?慧さ…。」
僕はキスした。
小学生に。
そういいながら振り向いた司に。
強く。
恋人でも抱きしめるかのように。
強く。強く抱きしめた。
「……!」
司も意外と声を上げなかった。
満更でもないのだろうか。
何言ってんだ僕は。
「……あっ」
唇が離れた。というか離した。
これ以上やって訴訟でもされたらマズイ。
「いきなり何するんですか!」
やっぱり怒られた。挙動不審で言い訳したら余計に怒らせてしまった。
「何で接吻したんですか?」
小学生が接吻とかいうなよ。昭和生まれでも言わねぇよ
というかそんなの死語だぞ。
「…ゴメン。」
「謝るくらいならしないでください」
「何か…、感情が高ぶって…。」
「勢いとノリで小学生のいたいけな身体を抱きしめて抵抗できないことをいいことにファーストキスまで奪ったんですか?」
「何でもするから許して!」
「じゃあ死んでください」
「それ以外でお願いします!」
「じゃあ絶命して下さい」
「それ意味一緒だよ」
「じゃあ私の願い事を一つ叶えて下さい。」
「おぉ、それなら出来そうだ。それにする」
「私と一緒に来てください」
僕は今中学校の空き教室にいた。
それはある女の子の願いを叶えるため。
着々と何かの準備をその女の子は僕の目の前で行っている。
それは儀式場のようにも見えた
それは到底女子小学生が創り上げたとは思えない程、教室を隅から隅まで使っモノだった。
よくみたら女の子は何かを持っていた。
さっきまで何かを持っている様には見えなかったが