その時、歴史が"大きく"動いた
俺、矢田広木は高校生で、現在、留守番中だ。
もういい年した大の男だ。
留守番が怖いとか、そんなことはない。
……ない。ない。ない。
ピ~ンポ~ン~。
「ひぃぃっ!」
前言撤回。めっちゃ、怖い!!
ガクブルになりがらも、震える足で玄関まで行く。
怖くない、怖くない。
自分にそう言い聞かせると、深呼吸してからドアを開けた。
「クソっ! ポンペイウス! いないのか!?」
「……!!」
驚愕のあまり、叫ぶこともできなかった。が、
「あ、あなたは……」
やっとのことで、声を絞り出す。
そして、剣を振りかざす外人を見上げた。
「ゆ、ユリウス・カエサル!?!?」
マジで!? 風呂からワープしちゃった!?
「む? どこの属州民だ? まあ、いい。平●い顔族と名付けよう」
テル●エ・ロマエまんまじゃねぇか……。
違うのは、日本語が通じる位だ。
「これ、そこの蛮人!」
「え? 俺?」
「私が蛮人だと、言うのか?」
「いえ、滅相もない……」
「なら、訊くが、ポンペイウスを見なかったか?」
「へ? ポンペイ?」
「違う。ポンペイウスだ」
世界史で習ったことを総動員する。
「ああ、三頭政治の!」
「そうだ」
「最終的にポンペイウスが……あっ……」
これってまさかの……。
ガリア遠征で絶大な支持を得るに至ったカエサル。彼はローマの覇権を握りたかったが、当時はポンペイウスが権勢をふるっていた。
これは、カエサルにとって、邪魔以外の何でもない……。
だったら、消せばいい!
そう覚悟を決めて、「賽は投げられた」の名言とともに、ルビコン川を渡った。
この瞬間、ガリア遠征軍は反乱軍になったのだ。
ポンペイウスは抵抗虚しく、今のエジプトはアリクサンドリアまで逃げ、結局そこでカエサルに殺されるー。
その歴史的瞬間の真っ只中にいるのか?
俺は、21世紀日本に迷い込んだカエサルを、あらためて見上げる。
よく分かんないが、ダミーではなさそうだ。オーラが感じられる。
「なぜ、沈黙? 私は急いでるのだ」
「お、お言葉ながら……ここに来る前、ローマのどこにいましたか?」
「アリクサンドリアだ」
おお! ポンペイウス、さようなら!
カエサルの暗殺も近付いたけど……。
「どうにか、必殺武器が必要なのだ。ローマの明日のために、そなたの力を、貸してはもらえぬか……?」
……。
テルマエ・ロ●エに同じシーンがあったぞ!!
要求の内容が、真逆な気はするが……。
「分かりました。全力を尽くします。
では、こんなのはどうでしょうか?」
早速売り込む。玄関で話してるから、ほとんど営業みたいだ。
まあ、商品武器だけどね……。
「我ら日本の誇る火縄銃!!」
古い? いや、時代考えろよ。カエサルって、紀元前だぜ? 銃作れたら、たいしたもんだろ……。
「それは、さっき、信長に直伝された」
「信長に会ったの!?」
てか、俺の前に誰かと会ってるってありかよ!?
「ノブさんは、いい奴だったな」
「しかも、めっちゃ親しくなってる!?」
「猿に人権があったとは驚きだったが」
「……たぶん、それは、人なんだと思う」
「ともかく、火縄銃はダメだ」
「ダメなのか!?」
「うむ。詳しくは、ノブさんに訊いてくれ」
無理だけどな……。
「じゃあ、こちらはどうでしょう? 我ら日本の誇る戦艦大和!! 全長263・全幅38.9メートル、文字通り世界一の巨大艦です!!」
「ああ、却下」
「却下!?」
「巨艦が弱いのは、ギリシアのサラミスの海戦で実証済みだ。あの時は、巨大艦船ぞろいのペルシアではなく、テミストクレス率いるアテネの三段櫂船が圧勝した。さらに、1588年には、スペインの無敵艦隊が、イギリスにぼろ負けしたと聞いた」
「だ、誰に!?」
「イギリスの国王だ。ブリタニカは占領地のひとつだからな。懐かしかったよ」
「俺は一体何番目なんだ……」
「すまないな。お前をファーストにできなくて」
「意味ちげーし! それと、すりよんな! キモイ。こっち来んな!」
そういや、カエサルはタラシだったね(汗)。
「よいではないか、よいではないか~」
「よくねーよ! 俺、男だよ! それより、これが紹介できる最後の商品だ。よーく、聞けよ」
俺はマジな顔をした。
これには、自信がある。
新商品発表に臨む社長のように、俺はピシッと背筋を正す。
カエサルもつられて正座した。
「我ら日本の誇る……
零戦だ」
携帯の待ち受けを見せる。
そこは、はるか真珠湾へと向かう零型戦闘機の……
イラスト(作、俺)。
昔作ったのを写メッたのだ。
理由?
アニメだと、親に見られたらまずいだろ!
「こ、これは……」
カエサルは感激したように、手を震わせると、
「平たい顔よ! ありがとう!」
ガッチリ握手して、マンションの通路に飛び出して行った……そして……
「ああああぁぁぁーーー」
10階から転落した……
俺の携帯を持って………。
親の帰宅後、家族揃っての夕食時にニュースをつけた。
すると、アナウンサーは興奮気味にまくし立てていた。
「アレクサンドリアの港から、歴史の常識を覆す大発見です」
俺はビクリと反応した。
「アレクサンドリア港の水深70メートルの地点で、戦闘機のような物体が発見されました」
え……。
「現場と中継が繋がっています」
そう言うと、アレクサンドリアでの発掘調査のライブ映像が映し出される。
「……時代はユリウス・カエサルの頃と推定されており……」
何か現地レポーターが言っているが……俺の耳には届かなかった………。
と、言うのも……
「携帯……」
映像にチラチラ映る物体が、気になってしょうがなかったのだ……。
無論、マンション下の生け垣から、俺の携帯は見つからなかった……。
まきろん二世、短編初挑戦です!
実は、まきろん二世は世界史大好きでして、気付いたらこんな小説を書いてました(笑)。
あ、それと、ローマの某お風呂漫画も大好きです(爆)。