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∞幕間∞女官Ⅰ

祝・25件越え~♫

今回はイルエラ夫人視点。

(どうして、どうしていつもこうなのっ!!)


 私の愛しい人達はいつも私の掌から、砂のように簡単に零れ落ちて行こうとする。

 私がどんなに叫び、拒否しようとも、運命はそれを嘲笑うかのように、私から愛しい存在を奪い去っていく。


 私の表向きの名前と身分は、レガロニア帝国のキニス侯爵夫人こと、イルエラ・ジス=キニス。

 レガロニア帝国現皇帝を支える宰相補佐を務めるキニス侯爵の妻であり、皇帝の第6皇女とされている・ルゼンシアーナ様付きの専属女官。


 でも本当の所はレガロニア帝国の三代前の皇帝の伯父である人と、今私達が滞在しているダラス王国の初代王の妹であり、その部族の姫であるシーラ妃の唯一の直系。当然ながらその方達から名前も受け継いでいる。


 そんな私の正式な名前は、グエンシーナ・イルフニス・シーラ・ラド=ユーリニア。 そしてレガロニア皇帝妃唯一の正妃腹から生まれたとされているルゼンシアーナの母親でもある。


 ルゼンシアーナは、私とキニス侯爵との間の子であるのに、帝国の后妃の位に収まったと言うのに、未だに侯爵を想っているアゼリア妃の身勝手な思惑から、私の子はその后妃が産んだ子供と引き換えになってしまった。



 今でもその時の事は昨日の事のように鮮明に思い出せる。




 元々我がユーリニア一族は基を辿れば、その血筋はレガロニア帝国の三代前の皇帝の異父兄であり、人情味に溢れた、正義感の強い大公家に辿り着く。

 そんな人が帝国に対し謀反を企てたと理由で処刑されたのは、ダラスの国からシーラ妃を貰い受けた僅か4年後の事。


 初代ユーリニア様は当時、異父弟の皇帝に背き、ダラスの建国に伴い、自分の一存で援軍を差し向けた事で、国の中枢を担う貴族達から嫌われていた。

 更にその事でユーリニア様と兄弟の関係でもあった皇帝が、あろうことかシーラ妃に横恋慕した事から、事態はますます深刻化し、悪化の一途を辿ってしまった。


 ユーリニア様とシーラ妃は、熱烈な恋愛の末で結ばれた訳ではないが、互いに信頼し、信頼され合う善き夫婦で、部下からの信頼もまた特に良かったと言う。

 だからだろう。

 異父弟は皇帝としての権力を己が欲望の為に行使し、シーラ妃をユーリニア様から奪い、目の前で凌辱の限りを尽くしたと言う。

 

 生涯大切にすると誓った伴侶を目の前で汚されたユーリニア様は怒り狂い、自分を拘束していた人間を力尽くで薙ぎ払い、異父弟からシーラ妃を取り戻そうとした所で、背後から薙ぎ払った筈の皇帝の狗によってその場で命を絶たれた。


 シーラ妃はそれを目の当たりにし、絶望に駆られ、ユーリニア様の後を追う様に自害されたと伝えられている。


 その二人の無念を晴らす為に立ち上がったのが、二人の間に出来た双子の兄妹きょうだいであり、我が一族の初代でもある。


 二人は両親の無念を晴らし、レガロニア皇家に復讐するだけの為に人生の全てを捧げてきた。


 時には平民と婚姻を交わし、時には商人と交わり、時には近新婚を交わし。

 何れ訪れる時の為に、国の内外に大きな組織を築き上げた。


 その誇り高い一族の直系の娘として生まれた私は、当然のことながら、幼い頃から自分の身体を使い、情報を得る為なら誰とでも閨を共にした。


 そんな爛れた日々の中で出会ったのが、今の私の表向きは夫であるキニス侯爵だ。

 彼は当時、皇帝と年齢を超えた信頼関係を築いており、私達一族にとっては格好の餌だった。


 誰が彼を籠絡するか。

 話し合いは長引くかと思われたが、偶然私は彼と色街の酒場で出会い、閨を共にし、年齢を偽証したまま、何度か肉体的関係を続けた。


 彼は一回り近く年下の婚約者との結婚を控えていたらしいのだが(それがアゼリア妃だったとは当時の私は知らなかった。)、その娘が皇帝の宮に入る事となってしまった故に、自暴自棄になっていた。


 私は彼を偽りの笑顔と、磨きに磨きあげた閨の技術で彼を癒やした。

 全ては怨みを晴らす為だけに。

 そして行動資金をえる為だけに。


 誤算だったのは、ルゼンシアーナを授かってしまった事と、そろそろこの男も潮時かと思っていた頃に、私の年齢がバレた事だった。


 レガロニアでは、女子の婚姻は13歳からとなってはいるが、実際は15歳からでも遅くはない。

 なのに、私と侯爵は、私が12歳の少し前頃から、その様な関係にあった。


 私がルゼンシアーナを授かったと知ったのは、12歳の中頃。


 彼は誰よりも責任感が強かった。

 子供は堕せば良いだけだと強がる私に対し、彼は。


 ――君を愛すると誓う。だからその子は産んでくれ。そしてもし、彼女に男の子が生まれたのなら君の子と取り替えて欲しい。


 たかが子供に額に土がつく事も厭わずに頭を下げ、懇願する男に、私は愚かにも絆されてしまい、心を惹かれてしまった。


 そうして時は流れ、私と彼の元婚約者は、同時期に子をこの世に産み出し、彼の元婚約者たるご令嬢が産んだのは、男の子だった。


 ――グエン、グエンシーナ。済まない。泣かないでくれ、これからは君だけを愛すると約束するから。誓うからどうかその子を・・・。


 私が産んだのは、ユーリニア様とシーラ妃の間に生まれた双子の片割れでもあるご息女様とそっくりで、紅い瞳が綺麗な女の子だった。


 娘は私と離れたくないと必死に抗議していたのに、私は彼に捨てられるのが怖くて、娘を売り渡してしまった。それで彼から愛して貰えるのならと。

 けれど、現実はそんなに甘いモノではなかった。


 彼との間に生まれた娘の代わりに私のもとに来たのは、年々彼と知らない女に面差しが似て来る男の子。


 成長する男の子を見る度に、心が切り裂かれて行くような気がした。


 私は娘を忘れる為、そして男の子の存在になれる為に、侯爵と少しの間別れていたのだが、日々成長していく男の子に耐え切れずに、ある嵐の夜、彼の屋敷へと駆けて行った。


 夜もかなり遅く、寝ていても良い頃だったのに、彼は私が扉を強く二、三度叩くと直に迎え出てくれた。


 私は彼のそんな行動を訝しく思ったが、それは間もなく解明された。

 何故なら彼の屋敷には里帰りという名目で、彼の元婚約者が滞在していたから。


 そこで私は悟った。


 ああ、私はこの目の前にいる女がこの世に生きている限り、幸せにはなれないのだと。


 その証拠に、今、私の娘は死に侵されている。

 でも。


(どうか私を置いて行かないで。私を独りにしないで・・・っ)


 冷たくて熱い小さな手を握りながら、私は娘が目覚めるまで存在すら疑わしい異国の神に願い続けた。


 

  

超・短文ですが、更新です。

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