たいくつなおひめさま
お姫様だからって理由だけで塔のてっぺんに閉じ込められて、あたしはとっても退屈しています。窓から眺めるお空の色は、今日も綺麗な水色でした。
おもちゃはたくさんあります。お父様やお母様があたしが退屈しないようにと、お人形さんをたくさん買ってくれたのです。たくさんのお人形さんに囲まれて、今日もあたしは、窓からお空を眺めていました。
「たいくつだなぁ。ねぇ、くまさん、たいくつだよね」
ベッドにおいてある一番大きなくまさんのお人形さんに、あたしは話しかけました。退屈になったとき、ひとりぼっちがさみしくなったとき、あたしはこうしてお人形さんに話しかけます。くまさんは答えてくれないけれど、退屈やさみしさは小さくなります。
くまさんが頷いたような気がして、あたしはちょっぴり満足しました。くまさんをポイッと投げ捨てて、あたしはベッドに転がりました。やっぱり退屈でした。
「いたいなぁ」
その時でした。誰もいないはずの部屋から声が聞こえてきたのです。びっくりして声のほうを振り向いてみると、お人形のくまさんが腰に手を当てて、あたしのほうを見ていました。
「わっ! くまさんがしゃべってる!」
驚く私の横を歩いて行ってベッドから飛び降りて、くまさんは窓際に立ちました。丸くて黒い瞳でこちらを見ながら、くまさんはあたしに言いました。
「たいくつかい?」
「うん。すっごくたいくつ!」
「それじゃあ、こっちにきてごらん」
くまさんが手招きをします。あたしはそれに導かれて、そのまま窓際に行きました。青い空に白い雲。もう見飽きた風景でした。
「たいくつは、きらいかい?」
しばらくしてくまさんが言いました。あたしは首を大きく大きく、縦に振りました。退屈はだいっきらいです。
「それじゃあ、ぼくにまかせてよ! おもしろいところにつれていってあげよう!」
「ホントに?」
「ああ、まかせて。それじゃあちょいとまほうをかけるから、めをつぶってよ」
あたしはくまさんに言われるまま、そっと目を閉じました。窓から入ってくる風が顔を叩いて、何となく気持ちがいいです。
「いち、にぃ、のぉ、さん!」
くまさんの声が聞こえたと思ったら、あたしの身体はふわりと浮きました。思わず目を開けるとあたしは空を飛んでいました。あの塔の窓から、地面に向けて飛んでいました。
久しぶりに、楽しい思いをしました。