【短編版】恋する乙女の物語〜オカルト少女と甘い過ごし方〜
ある日の夜道。時刻は午後8時頃。
夜食のスイーツの買い出しに行きつけのコンビニに足を運んでいたましろは、コンビニの自動ドアを出たところでスーツ姿の茶髪の女性を見かけた。
女性は駐車場に停めた車に寄りかかり、タバコを咥えて火を探している様子。どうやら、ライターがないようだ。
「夜遅くまで、お勤めご苦労様です」
通りがかりにましろは呟く。スペルカードを一瞬顕にし、女性のタバコに火を付けた。
「ふふ……」
ましろはいたずらな含み笑いをする。女性は一瞬何が起きたかわからず驚いたが、暫くすると車の中へと戻って、駐車場を後にした。
「ふふふ……、見たわよ」
スタスタと歩き、コンビニを後にするましろを他所に、街路樹の陰に隠れてましろの後ろ姿を遠目から目で追う小柄な人物がいることに、ましろは気付かない。小柄な人物はスマホを構えて動画を撮影しているようだった。
「……行方不明者が出る怪奇現象が起きないか見張ってたら、とんでもないものが見れちゃったわ……」
◇◇◇
「おや?今日は鵜久森くんじゃなくて、ましろくんが珍しくシフトに入ってるのかい」
「もー。アーバンさん、自分でシフトを作っておきながら忘れないでくださいよー」
「ああ。すまんすまん」
黒いズボンにロングエプロン、白いブラウスに身を包んだましろが、お盆を片手にアーバンのど忘れに呆れていた。
本日のアーバン・レジェンドの夕方のホールのシフトはましろが担当している。
「今日の夜のまかないスイーツは何かなぁ」
「まだ5時になったばかりなのに、気が早いねぇましろくんは」
チリンチリン、と扉に付けられたベルが鳴った。
「……こ、こんにちは……」
おずおずと扉を開けたのは、腰まで伸ばした長い黒髪の小柄な少女。前髪で少し顔を隠している。ましろの気のせいか、少し顔色が赤いような。
「いらっしゃいませ。空いてる席へどうぞ」
御伽高校の制服を着ているが、同学年や3年生には見えない。年下の少女だろうか。今は接客中の為、ましろは敬語で接する。
「ご注文は如何しましょうか?」
小柄な黒髪の少女は窓際のカウンター席に座った。ましろはオーダーシートとペンを取り出し、少女が注文するのを待っている。
「……あの……、あのっ……、」
「?」
俯きかげんの少女の表情がわからず、ましろは少し身を屈める。少女の顔はまるで茹蛸のように真っ赤だった。今にも泣きそうである。
「あ、あのっ……!お、御伽高校っ!2年A組の月影ましろ先輩、ですよね……?」
いきなり学年まで言われ、ましろは珍しく目を見開いた。
「そ、そうだけど、キミは……」
「おっ、御伽高校1年C組っ!も、諸星すみれと言います……!」
もじもじと喋る彼女の制服の袖のあちこちから、シルクのレースが見えている。これが彼女の制服の着こなし方のようだ。1年と言えば、林檎と同じく今年入学してきた新入生である。
「あ、あの……、こっ、これを」
「?」
諸星すみれは鞄からスマホを取り出し、昨日の夜8時頃にコンビニに居たましろが映っている動画を見せてきた。
「!?……よ、よく出来た合成動画だねぇ……」
「ち、違いますっ!合成とかAI動画じゃなくて!」
(マズい、スペルカードを使った時に撮られてる)
「ましろ先輩は、魔法使いなんですか!?」
「な、なんのことかなぁ……」
魔法使い、という言葉に反応し、他の客がちらほらとこちらに視線を向けたが、聞き間違いか何かの漫画かアニメの話しかと思い、すぐに戻る。
「この動画、アップロードしてほしくなければ……!おか、おか」
「おか?」
「オカルト研究会に入ってください!!」
「……へ?」
◇◇◇
『ーーで。ましろが街中でスペルカードを使ったところを、知らない女の子に動画に撮られていたと』
夜中の緊急収集。食堂にみんなを呼び出したましろは、話の内容を言うなりテーブルに突っ伏した。
「とほほ……。面目無い」
「まぁ、今までありそうでなかった話だねぇ」
食器を洗いながら、アーバンが言う。
『今回はまだ目撃者が1人で済んでいるみたいだから良いものの……。今後、騒ぎになったら物語領域外でスペルカードを使うのを禁止にした方がいいのか、本部で審議が問われるかもね』
「ええ!?それは困るって!ポーションクッキー作れなくなっちゃうじゃん!」
『綺羅々のポーションクッキーは役立ってるから、僕らとしてもそれは避けたいところだけど』
「ごめんよ、本当に。最近気が緩んでたのか、息をするように言霊を使っていた節があってーーー」
「ましろくんは今回の罰として、夜のまかないのおやつは当分抜きで」
「そんなぁ……」
テーブルの上でましろががくりと肩を落とし、頭を抱えた。
『とにかく、ましろは……というよりはみんなもだけど、今後、言霊の使い方に気を付けることだね。僕らは物語に絡んだ記憶なら回収出来るけど、普通の一般人を記憶喪失にすることは出来ないんだから』
「わ、わかってますわぁよそのくらい」
フォークロアパークに泊まった夜、夜景を見るためにスペルカードを使用したことを思い出した来夢は上擦った声を上げた。ましろは無言でじーっと来夢を見つめる。
「僕は物語の展開領域外でスペルカードを使うことなんて滅多にないからなぁ」
「私も、日常でマスケット銃なんていつ使うのかって感じで……」
スペルカードを日常使いしない、鵜久森と林檎はうんうんと頷く。
「で、どーすんのましろ?入るの、オカルト研究会ってやつに」
綺羅々に聞かれ、ましろはううんと唸る。
「……嫌だけど、今回ばかりは仕方ないかなぁって。まぁ適当に入って、あとは幽霊部員としてやり過ごせばいいし」
「脅しをかけてくるような子が、幽霊部員で満足するのでしょうか……?」
「やっぱりダメ?」
林檎のもっともな疑問にましろはかくりと首を下げた。
「部活をするってなると、やっぱり僕らみたいに学校に通って授業をちゃんと受けないと駄目だよ」
「そんなぁ」
「いいじゃん。ましろはこのまま自主学習でいると、出席日数足りるか怪しいんだし」
鵜久森と綺羅々がましろにお説教がちになる。
「オカルト研究会……。少し興味がありますわ。明日、私も同行してもよろしくて?」
「ええ……?来夢も入るのオカルト研究会」
「それは色々見てから決めることでしょう?」
親切にしたことが、まさかこんなことになろうとは。
ましろは当分の間スペルカードを無闇に使わないように心がけることを誓った。
◇◇◇
ちゃんと学校に通って授業に出るなんて、何日振りだろうか。
「ーーお!月影じゃーん。お久」
「ーーん、ああ。おはよう」
顔と名前が一致しないクラスメイトに話しかけられ、ましろは無難に挨拶する。地毛とはいえプラチナブロンドは目立つ。こちらが覚えていなくても、相手からしてみれば覚えやすい。他にも数人のクラスメイトから挨拶された。
キンコンカンコン。時間は過ぎ去り、あっという間に学校の鐘の音は10回目を鳴らす。
「ーー本当に久しぶりだな月影。急に出てきたと思えば部活に入部希望とは……。何かあったのか?」
職員室でオカルト研究会入部希望の書類を書いている最中、担任の男性教師に尋ねられた。ましろはちょっと心変わりしたんです、とだけ告げて、入部希望書を手渡し職員室を後にした。
◆◆◆
「ーーよ、ようこそ!オカルト研究会へ……」
ましろの隣に居た来夢の存在を認識すると、諸星すみれの声が萎んでいく。
「ーーせ、先輩。誰、その人……」
「来夢のこと?見学希望者、だってさ」
「ええ。望月来夢といいます。ましろさんとは同学年です。よろしくお願いします、諸星すみれさん」
「……よろしく、お願いします……」
ニコリと軽く微笑む来夢に対し、諸星すみれは前髪で顔を隠した。
「なんだい?今日は随分と賑やかじゃないか。オカルト研究会にあるまじき光景だね」
分厚い本をパラパラと捲り、ぽん、と閉じる。分厚いレンズのメガネをかけた男子生徒が部室内で本を読んでいた。
「聞いていれば見学希望だってーー?好きな本のジャンルを聞いてもいいですか?!僕が好きなジャンルはホラー、ミステリから始まりファンタジー、異世界転生まで幅広く」
「クトゥルフって知ってるかな?」
「クトゥルフ!!ええ知っていますとも!!全巻あらすじ暗記しておりますのでAIの力を借りずに僕になんでもお聞きください!!クトゥルフがお好きなんですか!?」
「いや、ただ知っているか聞いてみただけだよ」
「うるさい瓶底メガネは引っ込んでなさい……!」
諸星すみれは、怒りでわなわなと拳を震わせる。
「因みに僕の名前は杉裏聡っていいます!!1年A組の生徒です!!」
「誰も聞いてないわよあんたのことなんか……!!」
「あはは。元気だねー。オカルト研究会って聞いてたから、もっと暗めで陰湿な雰囲気かと思ってたよ」
「暗めで……、陰湿……!」
ましろの言葉にショックを受けた諸星すみれが言葉を失う。慌ててましろがカバーする。
「ああっ!違う違う。諸星さんのことじゃないからね!!」
「ましろさん、相変わらず空気が読めませんこと」
じとーっと来夢はましろを呆れた目で見つめた。
「……あんたが本ばかり読んで、勧誘活動しないから、あたしが連れてきたの……。ましろ先輩を部員として」
「ほんとですかーーー!?脅しでもなく?」
「脅し……!?じゃ、ないわ……たぶん….きっとそう……」
「脅し……そうかもね」
「ましろ先輩……!!」
諸星すみれは手にしているスマホを両手でギュッと握り締める。杉裏聡がメガネを指でくいっと上げた。
「昼休みに見せてきたあの例のAI加工動画でかい?先輩たち、この女の妄言に付き合ってくれるなんて、優しいなぁ……」
「ち、違うって言ってるでしょ!!AI加工動画じゃない……!!何回も言わせないで」
(どうやらこの子にも動画を見せたみたいだけど、相手にされてないみたいだね)
(ひとまず安心ですわ。よかったですわねましろさん?)
諸星すみれと杉裏聡が言い合いを繰り広げている最中、ましろと来夢は互いに耳打ちする。
「ーーねぇ。オカルト研究会って他に何かしてるの?本を読んでオカルトを調べるだけ?」
話しを逸らす為に、ましろは丁度疑問に思っていたことを口にする。諸星すみれははっと我にかえり、手元をもじもじさせた。
「えと。……たまに、街で行方不明になった人が出た場所とかの、偵察に行きます……。ほ、殆ど明るい内にですけど……、この前はたまたま夜遅くで……」
「女の子が夜1人で出歩くなんて危険だよ?」
「はい……。今後はないようにします……」
ましろに言われ、すみれはしゅんと頭を下げる。
「ほ、他には……、おまじないとか、得意で」
「おまじない、ですか」
「タロットカードとか、でもいいですけど、最近はキューピッドさんにハマってて」
「キューピッドさん?」
「簡単にいうと、こっくりさんの別バージョンですわ」
「こっくりさんって、紙に10円玉を置いて動かすアレ?」
ましろが聞くと、すみれはスマホを鞄にしまい、糸を垂らした紫色のガラス玉の振り子を取り出し、掌に乗せた。
「ネット通販で買った、アメジスト色のガラス玉……。10円玉でやるよりオシャレだから、これで占ってます……」
「へぇ。綺麗だね」
「ではさっそく、ましろさんを占って差し上げれば?」
「ええ!?ボク、占いとかそういうのはあんまり信じないタイプだからちょっと……」
ましろに引かれて、すみれは再びしゅんと頭を下げた。
「ーーええと、今日はこのくらいにしておこうかな。来夢は明日も来る?」
「明日からテスト期間に入りますから、私はパスですわ」
「わあ。ってことは、ボクもテスト期間に入るってこと」
「ましろさんはテスト勉強なんてやらない派なんだから、お付き合いして差し上げればよろしいのではなくって?」
「お、お付き合い……!?」
すみれは来夢の言葉に瞳を輝かせた。今日のラッキーカラーはパープル。まるでアメジストのガラス玉の効果が現れたようだった。
「ーーじゃあ、また明日ね。諸星さん」
「お邪魔しましたわ」
廊下に出た2人を、すみれは見送る。
「ーーーまさか君が、真面目に部員を探してたなんてね」
僕は廃部になっても受け入れるつもりだったんだけど、と杉裏聡は呟いた。
◆◆◆
「ーーましろ先輩っ!い、一緒にお弁当、食べませんか……?」
「へ?」
次の日の昼休み。購買の菓子パンを買って、軽く昼ごはんにしようと教室を出た矢先、ましろは諸星すみれに呼び止められた。
「お、お弁当っ!先輩の分も作ったんです!!」
ずいっとましろの分のお弁当箱を差し出すすみれ。ありがとう、と言い、ましろはお弁当箱を受け取った。
「ここじゃあアレだし、今日は晴れてるから屋上にでも行こっか」
「……はい!」
◆◆◆
(お弁当かあ……。感想どうしよう……)
甘いもの以外の味覚が無いことを伝えるべきか。ましろは迷うが、諸星すみれの笑顔を見た途端、その考えは引っ込めた。
「ーーどうですか、お味のほうは」
「……うん。美味しいよ」
ありきたりの言葉しか思いつかない。味のことよりも見た目に関して言った方が良さそうか。
「肉と野菜をバランスよく入れて作ってるね」
「ええ!偏った食事は身体に毒なので!」
ほぼ毎日偏った食事でごめんなさいとましろは心の中で謝った。
「ましろさん、ここにいらしたんですの?」
「来夢」
お弁当を丁度食べ終えた頃、来夢が屋上の扉を開いて上がってくる。手にはバスケット。
「食後のデザート、如何かしら?」
「デザート?」
ましろが手渡されたバスケットの布を捲ると、こんがり甘い匂いがするマフィンが出てきた。
「わぁ……。ありがとう、来夢。……うん。昔と違って粉っぽくない。腕を上げたね」
「一言余計なお世話ですわよ!」
「あ、あの……」
美味しいとマフィンを食べるましろを、複雑な表情で見つめるすみれ。何か聞きたいことがあるようだ。
「昔って、一体……」
「ああ。ボクと来夢は幼なじみなんだ」
「幼なじみ……!?」
「今は一つ屋根の下で一緒に住んでてね」
「一緒に住んで……!?」
「おっと、大丈夫?」
クラクラとめまいを起こして倒れるすみれをましろがキャッチする。ましろと幼なじみで一つ屋根の下に住んでいるなんて羨ましい&妬ましい。
「ましろ先輩!!」
「うわっと?!何?」
「こ、今週の日曜日……空いてますか!?わ、私と一緒に出掛けてほしいです!!」
顔を真っ赤にし、スカートの裾をギュッと握りしめ、思い切って言い放つすみれ。ましろは一瞬困った表情を浮かべるが、何かを思いついた表情に変わる。
「それじゃあ、1日付き合ったらあの動画は削除してくれるかな?」
「……!!せ、先輩が、そういうのなら……」
「決まりだね」
強引にも動画を消す方向にありつけて、ましろは安堵する。
「マフィン食べる?美味しいよ」
「それ、私が作りましたのよ」
「……いただきます」
ましろに勧められたものを食べないわけにはいかない。諸星すみれは望月来夢に嫉妬しながらも、手作りマフィンを口にした。
◇◇◇
日曜日。ましろは約束通り早起きをし、ラフな私服に着替えてアーバン・レジェンドを出た。
「ええと、待ち合わせは御伽公園でよかったよね」
待つこと10分程。所謂ゴシックロリータ服に身を包んだ諸星すみれがやってきた。
「お、お待たせしてしまい、すみませんでした……!」
「いや、ボクが待ち合わせ時間より10分早かっただけだよ。気にしないで。さぁ、行こうか」
「ぁ……!?」
ましろに手を握られ、すみれは小さく息を呑む。
『ましろ、昔より女の子のことをよくわかっている気がするなぁ』
「ましろさん、手を握るなんてこと、軽々しくする性格だったかしら!?」
ましろの後を付け狙うは、動きやすい服装に束ねた髪を帽子に入れ、サングラスをかけた来夢。ましろに置いて行かれたラプスも同行している。来夢は双眼鏡を握り締め、ましろたちの足取りを追った。
アクセサリー屋に寄り、見るだけで店を出る。服屋に寄って、一着買って店を出る。ぬいぐるみ屋に寄り、うさぎのぬいぐるみを買って店を出る。アイスクリーム屋に寄り、5段アイスを注文して、施設内にあるベンチで一休みする。
(はぁ……。バイト代がこんなに早くすっからかんになるなんて……)
心の中で思いつつ、ましろは1番上の段にあるチョコミントアイスクリームを食べる。キッチンカーの中の店員さんが、まだ驚いた表情をこちらに向けていた。
「あの、先輩……」
「ん?何?」
アイスクリームを食べるのに忙しいましろは、生半可な返事をする。
「私……、行ってみたい場所が、あるんです……」
◇◇◇
「気を付けてお乗りくださーい」
諸星すみれの行ってみたい場所。それは小さな遊園地に聳え立つ観覧車だった。
「わぁ……。夕日が綺麗だね」
「え、ええ……。本当に……」
時刻は5時半過ぎ。ゆっくりと高度を上げていく観覧車の中で、ましろとすみれは揃って外の景色に心を奪われた。
「ねぇ、動画撮ろうよ」
「!?ええっ?」
ましろに言われ、すみれは慌ててスマホのロックを外し、録画操作をする。
「あはは。隠し撮りよりこうした思い出を残した動画の方が、ずうっと良いよ」
海に溶け込む夕日を背景に、暫く肩を寄せながら動画を撮影した。
撮り終わった後、すみれは例の動画を削除する。
「……ご、ごめんなさい、ましろ先輩」
すみれは顔を真っ赤にし、俯きながら、手を弄る。
「脅すなんて卑怯な真似をして、ごめんなさい……」
「すみれちゃん……」
「は、はいぃ……」
反省と共に込み上げてくる涙と、ましろが下の名前で呼んでくれた喜びとが綯交ぜになり、すみれは顔を更に沸騰させた。
「ま、ましろ先輩が魔法使いかどうかは、聞かないほうが、いいんですよね……?」
「うん。そうだね。聞かないほうが助かるよ」
「そ、それはもう、肯定しているのと、同じでは……」
「さぁ。それはどうかな?」
ましろは肩を竦め、すみれと向き合う。
「ず、ズルいです、ましろ先輩……」
「あはは。みんなによく言われるよ」
「……私は、その、「みんな」の中に入れないんですね……」
「……うん。ごめんね」
自分だけじゃない。ましろを魔法使いだと知る人間が他にもいることを悟り、諸星すみれは肩を落とした。
「事情があるから、オカルト研究会も幽霊部員になると思う」
「そう、ですか……」
「でも、たまには顔を出すからね。ちょっと気になっていることもあるし」
「そうしてもらえると、嬉しい、です……」
ガコン、と自動で扉が開き、2人だけの短い時間が終わりを告げる。
「ふふ……、今日は楽しかったねぇ」
物語が絡むと思いきや特にまだ反応もなく、ましろは久々に羽根を休めることが出来、観覧車から降りた途端、満足げな笑みを浮かべた。
「そう思って頂けたのなら、私もう、嬉しいですっ!!」
勇気を振り絞って、諸星すみれはましろの服の裾を掴んだ。ましろはそれに気付いて、すみれの小さな手を握る。
「ぇ!?」
「あはは。帰ろっか。送っていくよ」
「な、なんということですの……。物語が現れることもなく、ただデートするだけで終わってしまうなんて!?」
『ま、たまにはこういう終わり方でも良いんじゃないのかい?君たち人間にしてみれば』
来夢の帽子の上に乗りながら、ラプスは残念そうにため息を溢した。
◇◇◇
「ーーというわけで、動画の件はなんとかなったよ。お騒がせしました」
お詫びに、とましろは食堂に集まってくれたみんなに手作りの苺のシフォンケーキを配る。普段は食べ専のましろが作る側に回るのは珍しいことだった。
「んーー。ましろくん、美味しいよこのケーキ」
「お褒めに預かり光栄です」
パクパク食べる鵜久森にお礼を言うましろ。
来夢はシフォンケーキを一口食べると、ましろをじっと見つめる。
「?どうしたの、来夢」
「別に。私よりお菓子作りの腕が良いからって、嫉妬していませんことよ」
「そうなんだ。あはは……」
でも、作るのは時間がかかるし、どうもお菓子作りは苦手なんだよねー、とましろは愚痴を溢す。
「オカルト研究会のほうも、幽霊部員でなんとか済みそうだし」
『ましろが普段している怪しい場所への巡回とか、オカルト研究会の活動と丸かぶりじゃないか。今までよく彼らと出くわさなかったね』
「そうなんだよね。すみれちゃんには釘を刺したけど、大丈夫かなあ」
『まだ設立して1ヶ月も経ってないんだろう?今後、物語に関わる可能性も踏まえて行動しないとね』
「あれ?ラプス、それって遠回しにボクに当分学校通えって言ってる?」
『うん』
「ましろさんが幽霊部員でいられるのは、まだ先の話のようですわね。まぁ、私もお付き合いしてもよろしくてよ」
オカルト研究会の部員届けにサインをした用紙を見せ、来夢は澄まし顔をする。
「とほほ……。一難去ってまた一難か」
「ちょっと!それってどういう意味ですの!?」
カツカツとブーツを鳴らしてましろに歩み寄った来夢は、その胸ぐらを掴んでゆらゆらと揺らす。いつもの日常風景。
ましろは揺られながら深いため息を吐いた。




