何もしていないのに、対策会議が始まった
今日は、巣が気持ちよかった。
外は少し寒いが、 巣の中はひんやりしていて、ちょうどいい。
白い体を丸めて、 集めた金の山の上に寝転がる。
――ひんやり。
「……きもちいいな」
背中に当たる金貨は冷たく、 しばらくすると、じんわりぬるくなる。
それが、なんだか楽しい。
手で金をすくって、 上から落としてみる。
しゃらら、と 綺麗な音がした。
「おお……」
光が反射して、少しまぶしい。
体を動かすたび、 金色が白いウロコの上を流れる。
「金ピカの中にいると……」
自分まで、 金ピカになったみたいだった。
「なくならないと、いいなぁ」
ただ、それだけを思いながら、 ドラゴンは金を積んだり、崩したりして遊んでいた。
――――
その頃。
王都の地下、分厚い石壁に囲まれた会議室。
空気は、重かった。
「……報告を」
低い声が、場を促す。
立ち上がった報告官の手は、 わずかに震えていた。
「白いドラゴンは、依然として巣に留まっています」
「周囲の金属資源の流通量が……急激に低下しました」
ざわり、と 会議室が揺れる。
「やはりか」
「奴は、理解しているのだな……“経済”を」
「金を集めているのではない」
「金を、止めているのだ」
「国家の血流を断つ気だ……!」
誰かが、唾を飲み込んだ。
「しかし……攻撃の兆候は?」
「ありません」
「巣から動かず、ただ……」
報告官は、言葉を選ぶように一瞬止まり、
「……座っているだけです」
沈黙。
それは、最悪の報告だった。
「返答は?」
「こちらの呼びかけに、何か反応は?」
「……ありません」
再び、沈黙。
次の瞬間。
「不満だ」
「献上が足りないのだろう」
「いや、これは要求だ」
「沈黙は、交渉のカードだ」
「攻撃ではない」
「これは――高度な圧力外交だ」
誰も、 「遊んでいるだけかもしれない」 とは言わなかった。
言えるはずが、なかった。
「では……どうする?」
しばらくの逡巡の後、 一人が、重く口を開いた。
「……配慮、だ」
「配慮?」
「我々は、恐れてなどいない」
「自主的に、敬意を示すのだ」
「金銀財宝」
「宝石」
「希少な食料」
「“返せ”ではない」
「“お納めください”だ」
会議室に、 静かな納得が広がっていく。
「距離は?」
「……近づくのは、危険です」
「数キロ離れた地点に、置きましょう」
「よし」
「それが最大限の誠意だ」
こうして。
世界で最も豪華な“配慮”が、 誰にも知られぬまま決定された。
――――
一方、その頃。
巣の中。
ドラゴンは、 金の山のてっぺんで寝転がっていた。
「……あったかくなってきた」
さっきまで冷たかった金が、 体温で少しぬるい。
それが、心地いい。
遠くの空に、 小さな影が見えた気がしたが、
「……?」
首を傾げて、すぐに忘れる。
立ち上がると、 白い体に、金の光が反射した。
きらきら、と。
「……なんだか、きれいだな」
でも。
巣の外に、 新しい金は、ない。
「うーん……」
少し考えて。
「……近くに置いてくれたら、楽なのになぁ」
ただそれだけを思いながら、 ドラゴンは再び金の山に倒れ込んだ。
――――
遠く。
献上物の前で、 人間たちは、息を潜めていた。
「……動かない」
「返事がない」
「不満か……」
「やはり、足りなかったのか……!」
誰も知らない。
白いドラゴンが、 ただ――
「取りに行くのが、ちょっと面倒だな」
そう思っているだけだということを。
――――
今日もまた。
何もしていないドラゴンのせいで、 世界は、勝手に追い詰められていく。




