第4話 まあそうやって調子こいてられるのも今のうちよ
「おいおい、正気かよ嬢ちゃん。オレたち、プラチナランクの冒険者なんだぜ?」
男の1人がニヤニヤ笑いを浮かべたまま肩を竦める。自分が勝つと信じて疑わないようだ。全く、身の程を弁えなさい。
「プラチナだろうとアイアンだろうと、雑魚には変わりないね」
「調子乗るのも大概にしろよ? そもそも正式な決闘は冒険者同士じゃないと成立しねぇんだよ。田舎娘が出しゃばるなよ」
「私も一応冒険者なんだけどね……」
そう言って、私は首から下げていた鉄製のタグを見せてやる。魔法学校卒業時に、王宮魔導師の試験に合格しなかったら冒険者にでもなろうと思って、保険で冒険者資格を取っておいたのだ。とはいっても、冒険者としては何も成果を上げていないので、ランクは最下位のアイアンランクだけれど。
しかし、私のタグの色を見た男たちは腹を抱えて爆笑し始めた。
「アイアンランクのひよっこがプラチナランクに勝てるわけないだろ! バカなのか?」
「まあそうやって調子こいてられるのも今のうちよ」
「んだと? いいだろう。先輩冒険者としてみっちり教育してやらんとなぁ!」
男たちが乗ってくると、店主のヘレナが頷いた。
「分かったわ。じゃあ立会人はあたしが務めるわね」
は? なに言ってるのこの店主さんは? もしかして決闘をご存知でない?
「あのぅ、一応冒険者ギルド本部の規定で、決闘の立会人はミスリルランク以上の冒険者しか務められないことになっているんですけどぉ……」
「大丈夫よ。あたし、オリハルコンランクだから」
「ぶぁっ!?」
ヘレナがその豊満な胸元から取り出した黄金色のタグを見て私は驚愕してしまった。プラチナランクの男たちも目を丸くして驚いている。無理もない。冒険者のランクは下からアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの順になるのだが、ほとんどの冒険者はミスリルランク以下。ミスリルランクでももはやエリートで、オリハルコンやアダマンタイトなんて数える程しかいないし、そいつらはもうドラゴンを1人で倒せるくらいにバカ強いって話だ。冒険者についてはほんとに少しかじっただけだから、あまり詳しくはないのだけど。
でもなるほど、さっきのオーガのような怪力も、ヘレナがオリハルコンランクの冒険者だからというのなら頷ける。
「店の近くだと迷惑になるから、広場に移動しましょうか」
私たちの反応なぞどこ吹く風といった様子で、ヘレナは店の扉を指さす。私と2人の男は黙ってそれに従った。店の中の他の客もこれは見ものだぞとばかりにぞろぞろとついてくる。そればかりではない。メイドのリサちゃんは心配そうに、毒舌厨二病のコルネリアは「またバカが何かやらかしましたわよ……」みたいな表情をして同行してきた。あんたたち店は大丈夫なのかよ。
王都中心街の広場は人通りも多いのだが、決闘の場所を確保するには十分なスペースがある。むしろ周りに建物がないので遠慮なく魔法が使えるのはいいことだった。そんなわけだから、広場はしょっちゅう決闘の舞台になるらしい。……まあ、私の場合はこれが冒険者としての人生初決闘なのだが。
私と男たちが向かい合うと、それを囲むように店の客や、その他の野次馬が集まってきた。
「……賑やかになってきたわね」
「ビビってんのか嬢ちゃん? 今謝れば許してやらんこともないぜ?」
「まさかぁ?」
「ふん、まあいい。で、オレたちのどっちとやるんだ?」
「面倒だから2人でかかってきていいわよ」
男たちを挑発すると、さっきまで余裕ぶってた2人は頭に血が上ってしまったようだ。
「小娘が舐めやがって! 現実の厳しさを思い知らせてやる!」
「はいはい、期待してますねー?」
ヘレナの隣でコルネリアが「バカですの? あっ、バカでしたわね」と呟いた。この厨二銀髪が、後でおしおきしてやろう。コルネリアの隣ではリサちゃんが祈るようなポーズでこちらをうかがっている。自分のせいで決闘になってしまったと責任を感じているのだろうが、リサちゃんは全く悪くない。悪いのは全部あの男たちだ。
「では、これより決闘を執り行います。立会人はあたし、オリハルコンランク冒険者のヘレナ・リッツェルが務めます。……双方、名を名乗り宣誓をしてください」
ヘレナは右手を上げながら口上を述べる。さすが、オリハルコンランクだけあってしっかりと儀礼に則った口上だった。私はヘレナに倣って右手を上げると、宣誓する。
「私、アイアンランク冒険者のアニータ・シュネーベルはこの不埒な男たちに、私とリサちゃんに対する謝罪を求めて決闘を挑みます」
「オレ、プラチナランク冒険者のゲルト・マーフィーと」
「同じくプラチナランク冒険者のトルステン・グリームはその申し出を受け入れ、代わりにオレたちが勝ったらリサとアニータ両名の身柄を要求します」
すると、男たちも同じように宣誓をした。勝手に決闘の対価として要求されてしまったリサちゃんは気が気でない様子だったが、大丈夫。男たちがリサちゃんを手に入れることはない。──なぜなら私は魔法学校を首席で卒業した天才魔導師だから!
「合図より前の攻撃は慎むこと。規定により定められた禁呪は使用しないこと。その他規定に従って正々堂々と決闘を行ってください。なお、勝敗はどちらかが意識を失うか、降参の意思を示した場合のみ決するものとします。勝者及び敗者には立会人が速やかに必要な医療行為を行うことを申し添えます」
ヘレナが注意事項を告げる。これも儀礼上必要なことで、名乗りが終わったからといってすぐさま攻撃するのは反則となる。冒険者同士の諍いはだいたい決闘で解決しているのだから、それなりに厳格なルールが求められるのだ。
「双方、武器を構えて」
ヘレナの声で、男のうちの1人──ゲルトが腰のロングソードを抜いて正面に構えた。その隣では、相棒のトルステンが鞘に収まったままの剣の柄を握ってこちらを睨みつける。なるほど居合か。これは少し厄介かもしれない。
対する私は、昨日杖を失ってしまっているので、素手でファイティングポーズをとってみた。まあ、こいつらを相手にするなら上級魔法なんて必要ないだろうから杖がなくても問題ないだろう。
「……雑魚が。すぐに終わらせてやる」
「それはこっちのセリフよ」
私とゲルトが言葉を交わすと、野次馬たちから割れんばかりの声援が送られた。
「それでは──始めっ!」




