第21話 一網打尽にしてやる!
コルネリアは周囲から襲いかかってくる敵を、身体ごと鎌を回転させるようにしてまとめて斬り飛ばすと、そのまま前方に素早く斬りこんで敵を蹂躙していく。
コルネリアの戦い方を初めて見たけれど、まるで嵐のようだ。次々と敵の数を減らせていくのはもちろんのこと、敵の位置を把握しているかのような正確な動きには目を見張るものがあった。
この分なら、本当に問題なく脱出できるかもしれない。そんなことを考えていると馬車の後方から馬に乗った一団が迫ってきていることに気づいた。恐らく私たちをつけていた奴らだろう。だが、こちらは真っ赤な衣装の王国軍ではなく、統一感がない。──傭兵のようだった。
「一網打尽にしてやる!」
私は馬車の屋根の上に這い上がると、魔法を唱えた。
「食らえっ! ──【ファイヤーボール】」
無数の火の玉が私の周りに出現する。それを迫り来る傭兵たちに撃ち込んでいく。炎弾が直撃した者は吹き飛ばされ、地面に転げ落ちていった。
敵が怯んだ隙に、リサちゃんが馬車を加速させる。コルネリアが切り崩した王国軍のど真ん中を馬車は突き進んでいった。
包囲を完全に抜けると、最後に馬車の後方にコルネリアが飛び乗ってきて、そのまま敵を振り切ることに成功したのだった。
☆
しばらく馬車を走らせた私たちは、川のほとりで馬を休ませていた。先程の戦闘で護衛対象のローラやシュナイダー、アベルの信頼度が増したようで、3人には何度も感謝された。
「これ、追加報酬よ」
ローラは私とコルネリアの手に金貨を握らせてきた。やはり貴族はやることが違う。太っ腹だ。私が感動している横で、コルネリアは少し不満そうな顔をしていた。
「あなたに施して貰うのはなんだか癪ですわね……」
「あら、いらないなら別にいいのよ?」
「いりますわよ!? それとこれとは別ですわ!」
お金が欲しくて護衛を引き受けたわけではないけれど、こうやって報酬として渡されると気分が良くなるものだ。私はもらったばかりの金貨を手の上で遊ばせる。
「……でも、こんなにたくさんもらってもいいのかな? まだ王国軍と揉めそうだし……」
私が心配そうにしているのを見ると、コルネリアは大きくため息をつく。
「あの程度の連中、何度でも返り討ちにしてやればいいんですわよ。……まったく、らしくないですわね」
「あーいや、私が心配してるのはローラたちの懐事情で……」
「ご心配なく。お金なら掃いて捨てるほどありますので」
ローラは懐から大きな巾着袋のようなものを取り出してジャラジャラと振って見せた。更に左手で大きな宝石のあしらわれたネックレスのようなものを何本も取り出して見せる。
「うわぉ……すごい。さすきぞ」
「さすきぞ?」
「さすが貴族」
私は思わず変な声を出してしまった。しかしそれを聞いたコルネリアは呆れたような視線を送ってくる。どうも、コルネリアとは価値観が合わないらしい。彼女はさらに何か言おうとしていたが、その時水を汲みに行っていたリサちゃんが戻ってきた。
「みなさーん、そろそろ日が落ちるので、今日はここで野営しましょう!」
そう言って木で出来たコップを差し出してくる。私はありがたくそれを頂戴した。
程なくして、私たち6人は焚き火を囲んで夕食を摂っていた。
「それにしても、まさか本当に逃げ切れるなんて思いませんでした」
シュナイダー伯爵はそう言うと、空に浮かぶ星を眺めた。そして、そのまま私の隣にいるコルネリアに声をかける。
「コルネリア嬢の戦いぶりを拝見していましたが、実に見事でしたよ。舞うように華やかで、力強く。まるで芸術のようでした」
「まあ、ありがとうございますわ。貴族ってお世辞がお上手ですのね」
コルネリアの皮肉に私は眉をひそめたが、シュナイダー伯爵は気分を害している様子はなかった。
「いえ、決してお世辞ではありませんよ。あなたの美しい衣装はまるで月の光のようだった。この世のものとは思えないほど──女神のようだと思ったんですよ」
その言葉を聞いて、コルネリアは一瞬固まると頬を染める。私には彼女の心境の変化がよく分からなかった。シュナイダー伯爵のことは好きではないと言っていたけれど……。
「なんですの? 口説いているつもりですか? ……そんなっ! ゴホッゴホッ」
気持ちを落ち着かせようとしたのか、飲み物を口に含んだコルネリアは盛大にむせた。
普段のミステリアスな態度からは考えられないほど間抜けな姿に、私は彼女を指さしながら大爆笑してやることにする。
「あははははっ! バーカバーカ!」
「こ、こらっ! 笑うんじゃありませんの! あなたの方がバカですわよ!」
私は笑いすぎて涙が出て来た。シュナイダーが少し困った顔をしている。リサちゃんやローラ、アベルくんも、楽しげにその様子を見ていた。
「ちょっと落ち着きなさいな。もう……」
「あーおもしろかった」
ひとしきり笑った後、ふとリサちゃんがこんなことを言い出した。
「このままいけば明日にはヴラディ領に入れそうです」
「そう、よかったわ」
ローラが安堵の表情を浮かべるが、リサちゃんの顔は何故か晴れない。
「ただ、一つ気になる点が。──追っ手に傭兵が紛れ込んでいたことです」
リサちゃんの言葉にシュナイダー伯爵は眉根を寄せると腕を組んだ。
「王宮が傭兵を雇っているとなると……これは厄介ですね」
シュナイダーの独り言を聞いたコルネリアは不機嫌そうな顔をする。
「あら、あなた。何か知っているんですの?」
「あぁ、いえ、少し思っただけですよ。……いかんせん、憶測の域を出ませんから」
「話していただかないと、あなた方を守りきれませんわよ?」
「そうですね……わかりました。では、今から話すことはくれぐれも他言無用でお願いします」
「心得ましたわ」
シュナイダー伯爵は焚き火の炎を見つめながら静かに語りだした。
「最近王都の中で、どうやら魔王が復活したらしいという噂がありまして……」
そう言って私たちの反応をうかがうシュナイダー伯爵。だが、私たちはそれが噂ではなさそうだということを知っていたので、特に反応は示さなかった。代わりにローラが100点満点な反応を見せてくれた。
立ち上がり、両目を見開いてシュナイダー伯爵を見つめる。
「な、なんですって!? そ、それは本当なの!?」
「……護衛の皆さんはあまり驚かないのですね」
「ええ、わたくしたちのギルドもその事で調査をしておりますので」
すました顔でコルネリアが答えると、シュナイダー伯爵は意外そうな顔をしてこちらを見た。私が頷くと、彼は感心したような様子を見せた。
「さすがはSSランクギルドの皆さん。耳が早いですね」
「でも、そのことと王宮が傭兵を雇っていることはどう関係があるのでしょうか?」
リサちゃんが問いかける。シュナイダー伯爵は顎に手を当ててしばらく考えたあと、おもむろに口を開いた。
「私の考えでは、女王は焦っているのかと」
「……というと?」
「魔王に対抗するには、国をひとつにまとめる必要がある。──クーデターを起こして国を乗っ取ったばかりの女王には国内にも不満を持つ勢力は多いので、それを力づくで制圧するつもりでしょうね」
「なるほど、そういうことでしたか!」
アベルくんはポンッと手を叩くと、急に立ち上がる。シュナイダー伯爵が驚いたような顔をして彼を見るが気にしていないようだった。
「ようやく合点がいきました! 一見暴君のように見えた女王陛下の行いも、全ては魔王に対抗するべく国内をまとめるためだったのですね! ──とはいえ、やはり暴力は良くないと思いますけど」
「はははっ、アベル殿は本当に正義感が強い人ですね。……ですが、今の我が国の状況を考えると致し方ないのかもしれません」
シュナイダー伯爵の言葉を聞いて、私は少し疑問を感じた。この人は一体何者なのだろう? 一介の伯爵が王家や噂話について詳しすぎる気がしたのだ。
「……ところでシュナイダーさんはどうしてそのような情報をご存知なのですか? まさか、あなたは……」




