第14話 うわぁぁい! おしゃけ、おしゃけ〜!
リサちゃんはキョロキョロと周囲を見回すと、私の姿を見つけて心配そうな顔で駆け寄ってくる。
「アニータさん! お怪我はありませんか?」
「ええ大丈夫。ちょっと頭を打っただけだから」
「よかったです……」
ほっとした様子を見せたリサちゃんだったが、すぐに腰に手を当てながらお説教モードに入った。
「もう、アニータさんは無茶しすぎです! 私たちチームなんですからもっと頼ってください!」
ちっこいリサちゃんがプンプン怒っているのはなんだか可愛くて撫でたくなったが、我慢して叱られることにした。
「ごめんね、リサちゃん。次からは気をつけるよ。リサちゃんは私の相棒だからね」
「ならいいのですけど……、約束ですよ? もし破ったりしたら針千本飲んでもらいますからね!」
「わかった。指切りね」
「はい!」
私が差し出した小指にリサちゃんの華奢な手が触れる。この手がさっきオーガを仕留めた手だなんて、にわかには信じられない。
私がリサちゃんの手を握っていると、レティシアがやってきた。
「無事か、アニータ。あの突進、結構危なかったみたいだが」
「なんとかね。2人とも強いんだね。びっくりしちゃった」
私が素直にそう言うと、レティシアとリサちゃんは顔を見合わせてニヤリと笑みを浮かべた。
「そりゃあ、わたしたちは鍛えているからな!」
「それに、アニータさんのおかげでもあります。道中の魔物をアニータさんが片付けてくれたから、リサとレティシアさんが体力を温存できたんです」
「へぇ~、そういうことか。じゃあ、次はずっとリサちゃんとレティシアに守ってもらおうかな」
私が冗談めかすように言うと、2人が笑い声を上げる。私も釣られて笑顔になった。
ふと、レティシアが真剣な顔に戻るとこんなことを口にした。
「あの主、オーガにしては強すぎた。……まだなにかありそうだな」
私とリサちゃんはハッとして顔色を変える。
「魔法攻撃も物理攻撃も受けつけないオーガなんて聞いたことないよ」
「もしかしたら、世界レベルでとんでもないことが起こりつつあるのかもしれません」
「例えば……?」
「魔王の復活とか」
「「魔王!?」」
リサちゃんの言葉に私とレティシアは驚愕の声を上げた。魔王といえば、何千年も前に勇者と呼ばれる伝説の冒険者によって滅ぼされた凶悪な存在で、その脅威は今も人々に語り継がれている。私は慌ててリサちゃんの肩を掴んだ。
「それホントなの!? 本当に魔王が……」
「あくまで可能性の話ですよ。じゃないと、突然進化した魔物たちが現れた説明がつかないんです。それにあのどす黒い魔素は……」
考え込むように黙り込んだリサちゃんだったが、すぐに顔を上げて私を見つめた。
「とにかく、この洞窟の主は倒せたんですから、店長のヘレナさんに報告しましょう。魔王のことは私たちではどうにもできないので、王宮に報せる方がいいでしょう」
「うーん、王宮ねぇ……」
私は王宮魔導師として王宮に勤めていたことがあるからわかるけれど、あそこは一庶民の意見を聞き入れてくれるような場所じゃない。いくらSSランクギルドとはいえ、貴族でもない私たちなんて、門前払いされるのが関の山だ。
「……場合によっては私たち冒険者でなんとかしないといけなくなるかも」
「アニータさん」
「うん、まあ言ってみるだけ言ってみるか。他にもこの洞窟の主みたいなヤバい魔物がいるかもしれないから調査も必要だしね」
私が決意すると、リサちゃんがホッとしたように微笑んだ。そんな彼女を安心させるべく頭を撫でてやると、彼女は目を閉じてされるがままになっている。戦闘の時はめちゃくちゃ強いのに、こういう時は猫みたいで可愛い子だ。
「早く戻るぞ。洞窟の周りの魔物がどうなったかも気になる」
レティシアの言葉に頷いた私たちは足早に帰路についたのだった。
☆
洞窟の主を倒した途端に、洞窟の周囲の魔物たちは我に返って山奥へ逃げ去ってしまったらしく、跡形もなくいなくなっていた。
村に戻った私たち3人。洞窟の主を倒したことを村長に報告すると、村人たちは歓喜し、総出で私たちをもてなしてくれた。
「ふへへ……もうたべられましぇん……」
「飲みすぎよリサちゃん。そもそも未成年者がお酒飲んだらダメでしょうが」
リサちゃんはさっきからテーブルに突っ伏してこんな状態だ。取り上げても取り上げても、どこからか酒を持ってきて飲み続け、完全に酔いつぶれている。
「アニータしゃん……ワインをもう一杯……」
「だーめ、これ以上飲んだら吐くわよ?」
「えぇーっ、けちぃ……アニータしゃんの、けちぃ~!」
頬を膨らませながら私の肩をぽかぽか叩いてくるリサちゃんを、私はなんとか引き剥がすと抱き抱えて酒場をあとにした。私に抱っこされたリサちゃんは、すぐに寝息を立て始めた。まったく子どもみたいだ。めちゃくちゃ酒の匂いがする子どもなんていないだろうけど。
レティシアの借りていた家まで戻ってきた私は、レティシアのベッドの上にリサちゃんを放り投げると毛布をかけてやる。
「はいはい、酔っぱらいはおとなしくおねんねしなさいね」
「う~、まだ飲むんだ~、リサはまだやれます~」
そう言うとリサちゃんは手を伸ばしてくる。
「疲れてるでしょ、寝なさいよ」
「やぁーだぁ……、リサは……ヒック、リサは……おしゃけのみたいれす!」
「まったく、しょうがないわねぇ……」
私は水筒に水をくんできてリサちゃんに手渡した。
「これでも飲んで落ち着きなさい」
「うわぁぁい! おしゃけ、おしゃけ~!」
リサちゃんは嬉々としてそれを一気にあおった。私は呆れたようにため息をつくと、彼女を見つめた。しばらくすると、眠気に耐えきれなかったのか彼女はそのまま糸の切れた人形のようにベッドに沈み、そのまま深い眠りに落ちていった。
「ふぅ、これでやっと眠れるわ」
私が安堵していると、レティシアが戻ってきた。彼女は自分のベッドですやすやと眠るリサちゃんを見て苦笑する。
「世話の焼ける奴だ」
「全くね。……あ、そうだレティシア、あんた今日どこで寝る? もしあれなら──」
「気にしないでくれ。わたしは別にどこでも大丈夫だからな。なんなら床で寝てもいい」
「なんか悪いわね……」
「アニータは悪くはない。わたしは野営の経験も豊富だから、むしろベッドじゃないほうがよく眠れるんだ」
「そういうものなの……」
私の言葉に頷くと、レティシアは微笑む。
「それにしても、リサはいい相棒を持ったようだな」
私を見つめながら、レティシアはそんなことを言ってきた。確かに、最初ヘレナからリサちゃんがパートナーだと言われた時は不安があったけれど、彼女は新入りの私の意見もちゃんと聞いてくれるし、強いし、なにより可愛い。
「……まあね。リサちゃんとは長い付き合いになりそう」
私が照れ笑いしながらそう返すと、レティシアも優しく微笑んだ。
「きっとこの先も色々と苦労させられると思うが……。アニータ、これからよろしく頼む」
「こちらこそ」
私たちは互いに握手を交わすと笑いあった。




