98話 覚悟
「ごめ……っうっ……ごめん……許しっ……安達さ……」
街灯に照らされたその人は私に何度も何度も懺悔する
ポロポロと涙を零しながら
澪桜は現状を把握出来ず、唖然としていた。
(え?……私が捨てる?……結城さんを?
何……どうして……どうゆうこと?
なんで結城さんが謝るの……?)
泣き崩れる目の前の結城。
息を飲むほど綺麗で無防備なその泣き顔から、目が離せない。
私の好きになった人が
私の言動で……泣いている。
というか、泣かせてしまった。
良かれと思って取った行動のせいで
余計に傷付けてしまった。
なんて事をしてしまったんだ……
(ど……どうしよう……)
結城を追い詰めてしまった事に罪悪感を感じて胸が痛くなる澪桜
だが何と声をかけたらいいのか分からない。
人を泣かせたのなんて生まれて初めてだったから。
なぜかふと背後から視線を感じた
反射的にその気配する方向に振り返る
公園の前で立ち止まってこちらを見てる人と目が合った
結城さんが泣いている所を見られてしまった。
しかも……何人も。
ザワザワし始めていた
「!?」
まずい!!
これ以上結城さんが晒されるのは良くない!
かわいそすぎる!!
慌てて結城の手を掴み引っ張る
「結城さん!……こっちに!!」
「…………ぐずっ……はぃ」
力のない返事でとぼとぼと素直に付いてくる結城。
澪桜に手を引かれ、もう片方の手で目を擦っている
大きくて細い少し骨ばった結城の手。
思っていたより硬い。
……初めて手を繋いでしまった。
澪桜はひんやりとした結城の手の感触に意識が行ってしまい思わず頬を赤く染める
(こっ……こんな時に何を考えてる!?バカか私は!!!)
煩悩を振り払い
部屋に招いた。
「ほら、あがって。」
玄関に入った途端、結城は動きを止める
変わらないいつもの澪桜の部屋。
結城がずっと我慢してた、ずっと来たかった場所。
「……安達さん家の……匂い……」
ブワッ
結城はまた大粒の涙を流し始める
今度はしゃがみこんでしまった。
「ちょ……結城さん!?だ……大丈夫!?」
思わず背中を摩る
安達さんの暖かく華奢な掌が俺に触れてくれる。
最後にこの部屋に来たあの時と変わらない優しさ
どうしようもない後悔が押し寄せ、押しつぶされそうになった
「ごめん……本当にごめん。……安達さん……
っ俺はっ……なんて事を……」
ごめんごめんとまた謝りながら嗚咽にまみれる結城に
澪桜は優しく話しかけた
「……話してくれる?」
それを聞き
泣き腫らした顔を上げた。
今から話す俺の……自分勝手で醜い、穢れた本音を聞いた君は……どう思うのだろう。
でも、こんなに優しい君をこれ以上傷付ける事はできない。
例え嫌われたとしても……正直に話さないと。
結城は覚悟を決め、頷いた
「……っうん。全部話すよ……」
そう呟きゆっくり立ち上がり部屋に入った。
いつも結城のカップにコーヒーを入れてくれる澪桜。
その光景が今日で最後かもしれないなんて
受け入れられない結城は
目に焼き付けるように澪桜を見つめた
「……はい。とりあえず、飲んでから落ち着こう?」
結城好みの薄めのコーヒー。
背中に触れながら優しく手渡ししてくれる。
暖かくて嬉しくて……胸がいっぱいになる
ゆっくり一口飲んだ。
仄かな甘みと芳ばしい豆の香りが広がる
すると驚くほど気持ちが落ち着いていった。
静かに深呼吸をして澪桜を見つめる
「……すみません。取り乱してしまって」
ゆっくりを頭を下げた
「私の方こそ、余計に傷付けてしまったね。……酷い事ばかりしてしまって本当にごめんなさい。」
澪桜は更に深々と頭を下げる
「安達さんは悪くない!悪いのは……全部俺だから……」
そう言って食い気味に否定した
良かった……今日はちゃんと話してくれる。会話をしてくれる。……敬語も崩れてる。
……安堵する澪桜
結城は静かに息を吐き
口を開いた
「俺の自分勝手なこの行動のせいで……貴女を傷付けてしまって本当にごめんなさい。
包み隠さず何もかも全て今から話すけど……安達さんにとって嫌な話かもしれない。不快かもしれない。……それでも聞いてくれる?」
真剣なそれでいて、とても切なそうな顔をして聞いた
コクッと頷き返事をした。
まっすぐに結城を見つめたまま。
「……うん。全部聞かせて欲しい。」




