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社会不適合者の恋愛論  作者: 澄泉
第1章
93/118

93話 限界

土曜日のあの件から5日目。


(安達さん……少し痩せた……?)

少しずつ儚くなっていく澪桜を心配に思う結城


だが……下手に言葉を出せないまま

いつものように送り届けた

「安達さん、それじゃあ、また明日」


「……今日も晩御飯食べて行かないのかい?」


「すみません。所用がありまして。」


「そうかい。それじゃあ……また明日」


静かに発進する車


それを見つめて


澪桜は目から光を失う

もう、足掻いてもダメなのだろう。



ずっと……会話をして貰えない。

車でも、LINUも、電話も。


こちらからしつこくは出来ない。

きっと迷惑だろうから。


受け取った……軽くなったお弁当箱。

食べてくれたことだけが唯一の……救い。


だけどそれももう、明日で終わりにしよう。

重い足取りでゆっくりと錆びた階段を上る


……明日はとびきり豪華なお弁当にしてあげよう。

最後に、美味しかったって思って貰えるように。

今まで本当にありがとうって私の気持ちが少しでも伝わるように。


玄関に入って……止まる


「……バカだなぁ……私は」


ポツリと呟いた。


食べたかどうかなんて分からない。

食べずに捨てられたのかもしれないじゃないか。


都合良く解釈して

未だに縋ろうとしている自分に嫌気がさす。


結城さんの優しさに

付け込もうとするな。

もう、これ以上期待するな。


何度も何度も、あの日を反芻する。

結城さんの立場になって

何が気に触ったのか

何が彼を傷付けたのか

精査し続けた。

ありとあらゆる角度から

シミュレートした。


だけど、結局何も分からない。

私は彼じゃない。

分かるわけなどなかった。


原因だけは理解できる

あの絵のせいだと。

彼に頼まれて描いたあの絵。

あれが彼を不快にした。理由は分からないが。

……描かなければ良かった。

あんなに傷付けるくらいなら。


普通の人ならきっと、こうなってない。

彼に寄り添い、共感出来るのだろうから。

仲直りはできなかったとしても、後悔なら出来たはず。


普通じゃない私は……後悔すら出来ない。



でもこれでよかったんだ。

彼は幸せになるべき人。

優しくて真っ直ぐで純粋な人。


女性嫌いなんて、勿体なさすぎる。

私ともあれだけ普通に話せるようになったんだ、きっと彼は素敵な出会いをする事だろう。


通過点になれただけでも光栄なことだから。

本当に誇りに思うよ。



ふわっ

体に残る優しい香りが澪桜を包む

アンバー……


シンクに手をついて金縛りのように動けなくなった


ねぇ、どうして……私を縛るの……。

忘れたいのに。

無かったことにしたいのに。


その香りが

残り香が

私を閉じ込める。


おもむろに

洗い物をする。

気を紛らわしたくて

だけど無理だった


結城の顔が

声が

微笑みが

仕草が

澪桜をまた動けなくする


その場に崩れ落ちる澪桜


ふと目に入る左足のアンクレット

結城さんと唯一ペアで買った物。

人生で初めてのお揃い。


胸元に手を当てる

固く華奢いチェーンに触れた

首には貴方がくれたダイヤモンドのネックレス。


パライバも……大切に保管してある


何もかもが私の大切な宝物。


なんで好きになってしまったんだろう。

なんで彼だったんだろう。


どうして釣り合う人を好きにならなかったんだろう。

あなたとの思い出が

ずっとループしてるんだ。

止めたいのに。

やめて欲しいのに。

脳が……それを許してくれない───



初めてのBALでの会話

焼き枝豆、シェアして食べたよね。美味しかった。


LINEでのやり取り

凄く楽しくて

1日200回くらいしたね。

肩が凝ったよ。


初めての電話。カエルの話……覚えているかい?


公園で二人で話した日。

スタパのチャイ、嬉しかった。

帰り際ブンブン手を振る無邪気な姿が可愛くて眩しくて

あの時、私は人生で初めて君に恋をした。


美術館、楽しかったね。日本庭園でセアカを潰した時、悲鳴をあげる君が面白かった。

君のお陰で、お気に入りの靴を履けるようになったんだよ。


箱根の日……


泊まる?って聞かれた時

頷きたかった。

でも君の善意を汚したくなかった。

だからね、気付かないフリをしたんだよ。

親友だなんて始めから思ってない私を知られたくなかったから。


君の隣で入った足湯、本当はずっとドキドキしてたんだよ。君の横顔が綺麗でずっと見惚れてた。


少しの期間だったのに。

思い出があり過ぎて

かけがえのない時間だった。

誰よりも大切で

君だけは失いたくなかった。


許されることなら……

君とずっと一緒にいたかった。


だけどもう、無理なんだね。

分かっていたんだ。

本当は。

でも、足掻いていたかった。

君に振り向いて欲しかった。


結城さん。

貴方には何もしてあげられなかったね

たくさん幸せをくれたのに。

こんな気持ちを教えてくれたのに。


だからせめて明日はお別れを言わせて。

心から君にお礼を言いたいんだ。

話もしたくないかもしれない。

だけど最後に1回だけ。

時間が欲しい。


結城の笑顔が脳裏に映し出される。

瞳を閉じて彼を想う。



──────さようなら、結城さん。大好きだよ。



勝手に好きになって本当にごめんね。

優しい君は……優しい君なら……私の最後のワガママを聞いてくれるかな。



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