85話 クロッキーとスケッチ
前回前置きで何をとち狂ったのか、数字間違えて1章完結まで13話と書いてしまってましたが、正しくは16話でした。(今回この85話アップしたのであと15話ですね)
すみません、お詫びして訂正させていただきますm(*_ _)m
「……そうだ、昨日忘れてた」
そう言って立ち上がる澪桜
コーヒーを飲みながら結城は目線で追いかける
「……ああ、家計簿?」
金曜日の日課の家計簿。
澪桜がルーズリーフを手に戻ってくる
ちゃぶ台に財布に入れてあるレシートを出し丁寧に書き始めた
「……偉いよね。俺そう言うの苦手。」
澪桜が字を書いているのを眺めながら頬杖をついて呟く
「私も苦手。本当はルーティン的な物全て不得意。
……なんだけど節約してたからこれだけはね。
最近は結城さんが食費持ってくれてるから有難い事にあんま意味ないんだけど。
まぁ、その分2人の趣向品と娯楽費に今は消費してる。君のおかげだよ」
「いやいや、俺はしてもらってる分返してるだけだよ。……そう言えば、なんで節約してたの?」
「しがない中小企業のいちOLの給料なんて雀の涙ほどですからね。」
サラサラと書き進めていく。
整った読みやすく綺麗な字
結城は家計簿を付ける澪桜を見るのが好きだった。
「じゃあ、これからは家計簿すら付けなくてよくなるくらい……俺が会計係になるよ。光熱費とかも全部ねっ!こう見えて結構稼いでますから!」
エッヘン!と胸を叩いて見せた
ぷはっと笑う澪桜
「……友達に養ってもらうってどんな状況だよ」
「ええー?駄目ー??いいアイデアだと思ったのに。家計簿付けなくて良くなるよ?」
怒られた犬のように小さくなる。本当にいいアイデアだと思っていたらしい
澪桜は静かに首を振る
「いいの。人に頼りすぎたら、私はきっと駄目になる。地に足をつけて生きて行けなくなるからね。」
最後のレシートを書き終え背伸びをした
それを見つめながら
結城は……悲しそうに唇を噛む
(もっと頼ってよ……駄目になってよ。俺無しじゃ生きて行けなくなる程。)
そしてさりげなく
偶然を装い……小指の先で澪桜に触れた。
柔らかい指先
きれいな桜色の爪
澪桜が気付かない程度に。
激しく鳴り響く心臓
もっと……触れたい。
「さて!終わりー!」
パタン!とルーズリーフを閉じる
歩いて戸棚に戻そうとする澪桜
バラララっ!!!
ハマリが悪かったのかルーズリーフが少しバラけて無地の紙が数枚落ちた
「あららら。やらかした」
そう言って拾う
「あーあ。何やってんの」
結城も手伝って一緒に拾う
「このルーズリーフ、高校の時に買ったやつだからもうダメになってるのかもねぇ。買い替えどきかな」
すると結城が……何故か固まっていた。
1枚の紙を持ったまま。
「結城さん?それ、返して?ルーズリーフに挟むから」
手を伸ばす澪桜。
結城は顔を真っ赤にしてプルプルしながら澪桜に目線を向けた
「……なに……これ。」
手に持つ一枚の紙。
まっさらなはずの……ん?……黒い……絵。
「あああああああああああ!!!しまったぁぁぁぁぁ!!絵のファイルに挟むの忘れてたぁぁぁぁ!!!」
澪桜は慌てて結城から紙を取り上げようとしたけど
結城は立ち上がったせいで手が届かない
「何じゃこらぁぁぁぁぁあ」
結城が紙を掲げ仰け反る
「それはね!あれだよ!私の趣味だから!返せ!!」
「これ写真じゃ……ない!?これ絵なの!?まさか安達さんが描いたの!?」
澪桜の手が届かないように上に掲げたまま聞く
必死に奪おうとしながら答えた
「そうだよっ!前に言ったでしょ!?趣味なんだよぉぉ」
「これ……あのBALの時のやつじゃぁん!!
いやぁぁぁ!恥ずかしいぃぃぃ俺変な顔してるじゃん!!!なんでこんな詳細に描けるの!?やめてよぉぉ」
結城から見たらすごく変な顔だったらしい。ものすごく恥ずかしそうにした。……正直意外な反応。
無防備な横顔。
確かに自分の横顔なんてそうそう見ないもんだよね。
それよりその評価、私にとってはかなり心外だ!
「失敬な!!!すごくいいアングルじゃないか!!芸術的だよかなり!!!久しぶりに良く描けたんだ!褒められこそすれ貶される言われない!!!」
「何で勝手に描いておいて逆ギレするの!?
肖像権の心外です!!もうこれは没収します!!」
結城の顔を勝手に描いたのは澪桜。
当事者からこう言われたらぐうの音も出ない
「うおおおおおお!!私の……最高傑作がああぁぁぁ」
澪桜、敗北。
四つん這いになり頭を垂れる。
完全に負け犬の体制
立ったまま見下ろす結城
ちょっと……いたたまれなくなる。
(というか、俺の顔描いてくれるなんて……
一回目は無視されたのに
BALの日は……良い印象残せたてたんだ。)
嬉しくて顔が綻んでしまった
まだオヨヨオヨヨと変な声で嘆いている可愛い澪桜に
キュンとしながら
コホンっと咳払いをした。
するとゆっくり顔をあげる澪桜
上目遣いが……可愛すぎる。
「……じ……じゃあ、あれです。今から俺を描いてくれたら……没収は無しにしてもいい……かも。」
ぱあああああああ!っと一気に明るくなった
「本当かい!?本当!?」
ガシッと結城の腕を掴み体を揺する
硬直してしまう男。
「本当!……本当だからっやめ……」
真っ赤になり掴まれた腕に集中する意識
手が勝手に動きそうになる
(ヤバい!!抱き締めたい!!!!)
男の……欲が剥き出しになる
そんなことはお構いなしの澪桜はパッと手を離し
急いでスケッチブックを持ってくる
B4の大きいサイズ。
そしてシャーペンと消しゴム。
クルクルと器用に人差し指から薬指へとシャーペンを移動させる。
「ふっふっふっ。それじゃあせっかくだから、ちょいと本気で描いてあげようか。」
「え……?これより写真みたいに描けるの?」
「それは写真みたいには描けてはいない。むしろ柔らかい雰囲気にする為にわざとサッと描いたからね。
私にとってはスケッチに近い……クロッキーと言ったところかな?」
「……?クロッキー??」
「ごめん、気にしなくていいよ。これは軽くスケッチしたんだよって意味。」
謙遜……ではない。
彼女の顔を見てすぐ分かった。
よく分からない専門用語。
でも……澪桜には凄い才能がある
それだけは何故か……伝わる
だってこれ……この絵
ただの絵じゃない。
似顔絵でも無い。
映像で見た事のある……俺の横顔そのものだから。
純粋に澪桜の絵が欲しいと思ってしまった。
「安達さん……描いたら俺に譲ってくれる?」
澪桜はスケッチブックを開き
使い古した0.3のシャーペンをカチカチしながら返す
柔らかく綺麗な笑顔で
「もちろん。私なんかの絵で良ければ喜んで」
ドキッとする
澪桜の視線。
何故か……愛を感じてしまった。
そんなはずないのに
どうしてしまったんだ、俺は
勘違いが……暴走しそうだ。
黙って……手を握りしめる
「結城さん、ここに座ってくれる?」
部屋の奥、掃き出しの大きな窓の前を指定する
窓を開けているので白く薄い半透明のカーテンがそよそよと風に揺れている。
柔らかく顔を掠めて心地いい。
西向きの窓は昼下がりになると光を満遍なく浴びて明るい。
光を受けて揺れるカーテンがすごく綺麗だった。
その前に座椅子を置いた。
いつも結城が来た時に座ってもらう澪桜の座椅子。
ちゃぶ台は澪桜の前に移動した。
向き合う二人
結城はどうしたらいいかわからなくて正座して座った
サラサラと揺れる色素の薄い髪と
長いまつ毛が光を直接浴び輝くように透ける
柔らかく澪桜にむけて微笑んだ
「……これでいい?」
澪桜は一瞬止まる
そしていそいそと描く準備を始める
「……うん。……じゃあ、とりあえずポーズとか気にしないで自然体で話してて?」
キョトンとする結城。
「……え?動いていいの??」
「いいよ、”その時”が来たら描き始めるから。」
澪桜の言っている意味がわからなくて首を傾げた
ふふっと笑って説明した
「私はその瞬間を切り取ることが出来る。1度覚えた情景は忘れない。ただ、色彩は付けられない。脳内にモノクロの画像として保存される。そんな感じ。
だから動いてても話してても問題ない訳さ。」
「なるほど……よく分からないけど……何となく分かった。」
曖昧な返事にぷはっと笑い
澪桜は言った
「さて、始めますか」




