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社会不適合者の恋愛論  作者: 澄泉
第1章
84/117

84話 分不相応

第1章完結まであと16話。

佳境に差し掛かってまいりました。


もし宜しければもう少しだけ、片思いの結城さんと澪桜さんにお付き合い頂けたら嬉しいです


※最終回が100話という訳ではございません



カチャカチャ

ぺぺたまを食べた後、いつもの通り結城が台所で洗い物をしていた。

その後ろ姿にチラッと視線を送る


「いつも悪いねぇ。洗ってもらっちゃって」


ちゃぶ台を拭く澪桜がババくさいセリフで結城に話しかけた


「こっちこそ、いつも作ってもらっちゃって悪いねぇ」


首だけ後ろを向き笑いながら結城は同じ口調で笑って返す


澪桜は少しだけその後ろ姿を眺めた

シンクより10cmほど長い股下

異様にスタイルのいい男性が前かがみになりながら食器を丁寧に洗う


見慣れた光景

だけどそれは決して当たり前……ではない。

彼の人生の中のほんの一瞬

瞬きほどの刹那


あっという間に通り過ぎて、きっと忘れ去られてしまうであろうこの時間

だからこそ私は噛み締めて大切にしていきたい、今この時を


もし彼が何もかもを忘れてしまっても私だけは───


目を瞑り澪桜は立ち上がる


「さて、コーヒーでも入れますかっ

結城さんはモカがいいよね?」


結城は好みまで覚えて貰えていた事が嬉しくて

明るい声で返す


「うん!」


「了解!じゃああたしも今日はモカにしようかな」


お徳用で購入した1杯ドリップのコーヒー。

マンデリンとモカの2種類。

2人の好みの物。


柔らかく香ばしい香りが部屋を包む


「んー!いい香り」


「それ、買って良かったよね。」


洗い物を終え結城が澪桜に近づく

触れそうで触れないギリギリの距離に───

結城を見上げ澪桜は柔らかく笑った


背後からフワッと香る……アンバー。


何故か胸に刺すような痛みが走った

少しだけ澪桜の顔が曇る


「ね!切らさないように無くなりかけたらまた買いに行こうね」

直ぐに表情を戻し取り繕った


それに気付かないまま

近い未来の約束を作るように結城は微笑みながら優しく言葉を紡ぐ


「そうだね。また行こう」


コーヒーを入れいつもの定位置に行く

ニコニコしながら澪桜の座椅子に座り、コーヒーを両手で持つ結城

変わらない穏やかな彼の表情に癒された


だけどそれと同時に……澪桜は思考する。


最近心にあるしこりが出来ていたせいで。

それは───”世論”


結城と行った箱根の日

心無い旅行客達の声が何度か耳に入った


「なんであの程度の人があんなイケメンと歩けるんだろうね!?ぷぷぷっ」


「わかる!不釣り合いだよね!一緒に歩いてて恥ずかしくないのかな!?」


「彼氏カッコイイのに彼女ビミョーww」


「彼氏B専なんじゃね!?ww」


……そんな風に嗤う声


それがあの日からずっと頭から離れない。

私たちは親友。

恋人ではない。

彼は私を異性として見ていないんだから


……だから何も気にしなくてもいい

そう思っていたのに。

世間はそれすら許してくれない。



聞きたくないのに

知りたくないのに

目に入れたくないのに。



耳を無意識に傾けてしまう

人の視線を目で追ってしまう。もう癖になって止められない。


クスクスと笑われている事に気付いて……心無い言葉が聞こえる度に傷付く

何度も何度も突き刺さる棘はいつしか私の心を摩耗させていった。


それから彼と一緒にいること自体に申し訳なさを感じるようになっていた。


自分なんかが親友でごめんと。

もっと相応しい人なら結城さんの価値を下げる真似をしなくて済んだのに。

私がもし、綺麗だったなら……。



スーパーに買い出しに行ったあの日


本当は……

「好きな人が出来たら……教えて欲しい。祝福するから。」


貴方にそう、伝えたかった。

でもきっと結城さんはその話をしたら怒るから、約束して貰えない。頷いて貰えない。


だから私は友達をやめたくなったら教えて欲しい

そう伝えた


それでもやっぱり怒られた。

……私はただ、覚悟がしたいだけなのに。

貴方を失う覚悟をしたいだけ。


結城さん、君はね、幸せになれる素養がたくさんある人。

優しくて真面目で、面白くて賢くて大人で……少し抜けてて。

どこまでも純粋で真っ白な、誰よりも輝ける人。

───私とは違う。


私のような分不相応な凡人は

親友ですらきっと烏滸がましい。

貴方の隣には相応しくないのだから。


だから結城さんには幸せな人生を歩んでほしい。

素敵な人と。君に相応しい人と。


その通過点として私を消費して貰えた事を誇りに思う

友達になれた事を一生の宝にするよ。


結城さんの女嫌いは克服されている事だろう。だって、こんなに仲良くなれたんだから。

君はきっともう、大丈夫。


だからね、結城さん……もう少しだけ私に夢を見させて欲しい───


「安達さん?飲まないの?」


結城が不安そうに聞いた


いずれ終わりを迎えるのであろうこの関係を

澪桜は1秒ずつ噛み締めるように大切に思う


また1人になる未来を覚悟して


「……忘れたのかい?猫舌だから待ってるんだよ。その時を」


目を瞑りそう自分に言い聞かせるように呟いた



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― 新着の感想 ―
相手を大事に思うからこそ、自己否定に走ってしまっている…この感覚、身に覚えがあって胸が締め付けられます 想っている相手(結城さん)が本当に必要なのは澪桜さんなのに… >「……忘れたのかい?猫舌だから…
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