81話 タラちゃん
少しだけ改稿しました。
帰りの車の中
BGMに結城の好みの曲が流れる
うっすら鼻歌を歌う澪桜。
それを聴きながら
結城は心地良さそうに運転していた。
澪桜はチラッと結城を見つめる。
運転席で夜景に浮かび上がる整った輪郭
長いまつ毛
切れ長で幅広い二重
彫りの深い目元からスっと通った鼻筋
そして薄く形の良い唇。
優しい瞳が澪桜の視線に気づき一瞬捉えた。
「どうかした?」
「いやぁ……結城さんって大人の男の人だったんだなぁって」
しみじみと感心していた。
結城は眉を下げる。
「うん? ……かれこれ10年近く大人の男してきてますけど?」
訳が分からんという様子で、とりあえず男ですよとさりげなく強調する。
「……私が解決策を意見しようと思ってた。でも私は男性じゃない。男性の脳の仕組みはわからない。だから結城さんいてくれて良かった。私じゃあんな的確にアドバイス出来なかった。山本さんじゃ、思考の言語化は難しそうだしね」
先程の事を思い出していたのかと、理解した結城は運転に集中したまま軽く微笑む。
「ああ、そういうこと」
「うん。男の人ってあんなこと考えてるんだね」
感心したように澪桜は話す。
結城は軽く首を傾げながら返した。
「……俺が今まで生きてきて、色々人間を見てきた感想って感じだけどね。 だから実際の所は分からないよ。俺には理解できない価値観だしね。合コンなんか行ったことないし。周りの奴らの話を聞いてただけ、だからあくまで客観論。ただ、男はカッコつけたがる生き物って言うのは本当。……ダサいけどね」
「そんなもんなんだねぇ。変なの」
理解できないと首を傾げる。
結城は優しい声で返事をした。
「そうだね。男って生き物は馬鹿なんだよ」
一呼吸置いて、結城はポツリと呟いた。
「……松井さんの好きになったヤツ。本当に医者だったのかな」
「……え?」
「医者かどうかなんか実際分からないよね。技師かもしれない、看護師かもしれない……もしかしたら医療従事者じゃない可能性もある」
「それって……じゃあ……」
澪桜が可能性に気づく。
結城は頷き続けた。
「相手が逃げたのってさ、もしかしたら嘘がバレるのが怖かったからじゃないかなってね。松井さんを好きになって頑張って散財した。カッコつけたくて。でも……嘘をつき続けるのが辛くなった。だから深入りする前に逃げた。……その可能性もあるよね」
「それは……もしそれが真実だとしたら辛すぎる。なんで嘘なんか……」
澪桜は悲しそうに言う。
「……夢を見たんだよ。松井さんに相応しい自分の夢を。けど、結局そのせいで自分の首を絞めて傷付けた。……しかもそれに耐えられなかった。結局はただのヘタレクソ野郎だね。どちらにしろ」
辛辣なことを言う結城。
「言い方っ! ……でもなんでそれ言わなかったの? 沙也加ちゃんに。そしたら傷も少なく済んだかもしれないのに」
「もしかしたらその可能性もあったけど、今の松井さんには必要ないでしょ。しかもそれはifの話。確定でも無いのに夢を見せる訳にはいかないよ。さっき言った通りのただのクズだったかもしれないからね」
「……そっか。それもそうだ」
寂しそうに頷いた。
澪桜は窓を見ながら少し考える。
共感……してしまう。
ifの……男性に。
「……でももし、高嶺の花に恋したらそうなのかもね。自分には分不相応、なのに好きな気持ちが抑えられなくて。隣に立てるだけで光栄なのに。住む世界が違うのに、夢を見てしまう。一緒に歩んでいける未来を……悲しい人だね。結城さんの推理が当たっていたら」
信号停車で結城は目を見開き、澪桜を静かに見つめた。
自分の事を言ってるように……聞こえたせいで。
「っ……そうだね。悲しい男だ」
結城は言葉を喉に詰め、それ以外何も言えなくなった。
その様子に気づかない切なそうな澪桜の声が……響く。
「沙也加ちゃん、素敵な人と巡り会えるかなぁ」
窓を見つめる澪桜の横顔。
結城はつい、見入ってしまう。
愛しくて病まない……その横顔に。名残惜しそうに前を向く。彼女を送り届ける為に今は信号機に従った。
「大丈夫だよ。彼女は魅力的だし性格も可愛い子だから。男がほっとかないよ」
「おお。結城さんが女の子を褒めている。とても珍しい」
パチパチと手を叩く。
結城は澪桜と友達になってから他の女性を褒めたことは一度もなかった。例え芸能人ですら。……澪桜以外は。
結城は釘を刺す。
「……あくまで客観的に評価しただけ。俺の主観は一切ありません。それに向こうも俺になんか興味ないと思うけど、俺は松井さんにこれっぽっちも興味無いから」
これでもかとばかりにキッパリと否定する結城。
しかし澪桜はイタズラに返した。
「ほーーーーん?」
その返事のノリが気に入らない結城はムキになって言い返す。
俺は本気で言ってるのに!と言わんばかりに。
「何その返し! ムカつくんですけど! 言いたいことあるならハッキリ言ってよ!」
「実は……沙也加ちゃんみたいな可愛らしい子が好みなのかと」
「だから違うって言ってるでしょ!? 俺はっ
俺は安達さんがタっ………………タラちゃん」
不意に出た苦し紛れ。
一瞬二人の間に流れる静寂。
「……私は……タラちゃん」
澪桜の思考が止まる。
サ〇エさんが出てきて会話は強制終了した。




