82話 ハンケチーフとヲトメ
すみません……今回長くなっちゃいました。
バブリー中田を書きたいが為にっっっ。
今日は金曜日。
明日は結城と買い出しに行く日
日課となりつつある土曜日の予定。
澪桜はパソコンでデータ入力をしながらチラッと佐野の様子を見た
最近彼は空回り中。
やる気は人一倍出てきたようなのだが、どうも数字とパソコン入力に弱いらしい。
ここの部署としてはかなり致命的。
だが会話は得意なようで、人心掌握術は伸びそうな人材だった。
正直営業部の方が向いていそうな感じがする。
その隣の……中田さん。
私を嫌っている女性。
今日は一段と……なんというか、原色な彼女。そこはかとなくバブリーな印象だなぁ……
しかし、最近前にも増して顔が舞台メイク……
間違えた、気合いの入ったメイクについ目がいってしまう。
フワッと中田さんが髪を靡かせる。
彼女の方から強めのバラとジャスミンの香りが立ち込めてきた。香水がキツくて若干最近頭が痛い。
今もまた……鏡で入念にチェックしているようだ。
そんなことにばかり力を入れないで、正直仕事に気合いを入れて欲しい
こないだみたいなトラブルで、また陰口を言われるのは正直辛いから。
大きく甲高い声。
耳を劈く
そのせいで嫌でも話し声が聞こえる
「そうなの!こないだ落としたハンカチ拾ってもらっちゃって!『すみません、落としましたよ』だって!ドラマみたいじゃない?!」
「わあ!素敵すぎる!映画見たい!」
「でしょ!?この間また見かけたの。エントランスの前で!!ああ、超ステキ……きっとこれは運命だよね!」
「絶対そうだよ!!じゃなかったらそんなしょっちゅう会わないよ!!」
「そうよね……あんな綺麗な人生まれて初めて見たんだもん♥」
ポーっとする中田
澪桜は呆れる
マジでいい加減仕事しろよと。
同じことを考えていた山本が痺れを切らし中田達に注意しに行く
「手ェ動かせ手ェ。話しながらでも手ェ動かせるだろ?。それが嫌ならオペレーターにでもなれ。」
「……すみません」
ブスっとしながら作業にもどる
コソコソまだ話をする
きっと山本の悪口だろう
澪桜はその間もずっと仕事に勤しんでいた。新しい案件も3つ抱えている
手を止めてる暇など無い
カラカラと椅子を転がし松井が近づく
「今どきハンカチ拾って貰ったくらいで恋に落ちるとか……いつの時代だよって感じ。ダサっ!ザコっ!」
平常運転に戻っている松井
澪桜は少しホッとしながら答える
「こらこら、失礼だよ。沙也加ちゃんも仕事しなさい」
印刷しながら澪桜は笑って言う
「はぁい。……でもちょっとだけ、仕事関係ない事言っていいですか?」
ポソッと甘えるように言う松井に澪桜は眉を下げた
「手を動かしながら……少しだけならね」
嬉しそうにコクコクと頷いて松井は続ける
「実はあの後、結城さんに言われたことずっと反芻してて。ちゃんと胸に響きはしたんですが……具体的に何をどうしたらいいのか……全く分からないままなんです…。迷宮入りですよ」
「ああ、その事ね。あの後結城さん言ってたよ?沙也加ちゃんは魅力的で可愛い女性だって。だから心配しなくても大丈夫って。女嫌いなのに忖度なしに褒めてたから本心だと思うよ?」
澪桜は出したデータをコピーし分けていく
その言葉が信じられない松井は驚いた
「えええええ?結城さんに言われても全然嬉しくないし、説得力無い。むしろ嫌味に聞こえるのは私だけですか?
それに忖度なしって言ったら澪桜先輩、いつもべた褒めされてるんじゃないですか?」
「……いや……わかる気はするよ。でも本当に褒めてた、あれはお世辞では無いと思う。
……私に対してはあれだよ、友達としての優しさというか情とかで言ってるんだよ彼はね。じゃないと私なんかが褒められる訳ないよ。慈悲だよ慈悲。」
眉を下げて首を振る。澪桜は本気でそう思っているようだった。
「慈悲て。………それ絶対違うと思いますけどね。
まぁ、エールを送って貰えたってことで……このまま自分磨きと人を見る目を養う方向に頑張れば大丈夫だと思うようにします。とりあえず。」
あまり嬉しくなさそうに口を尖らせ松井はため息をついた
「いいじゃないか忖度なしに褒められて。私なんか……タラちゃんだよ。」
フッと虚しい笑いを返した
分けた資料をファイルに差し込んでいった。
「え?なんですか?それ。」
首を傾げた松井
「分からん。全く分からん。私のどこがタラちゃんなんだ。」
ずっと疑問のままの澪桜だった。
結城の苦し紛れの黒歴史
彼の知らないところで静かに拡散されていた。
18:15
ユリシス
エントランス前
いつもの場所に立って待つ
早く来ないかな〜
そんなことを考えながら
するとケバケバしい女性と目が合う
ギョッとする結城
思わず視線を逸らした。
だってなんか民芸品のお土産みたいな顔で
笑ってしまいそうになったから
失礼なこと思ってごめんなさい……
結城は1人罪悪感に駆られる
「この間はありがとうございました♥」
視線を外したのに……話しかけられてしまった。
そしてこの人……匂いがキツイ。
ブワッと濃い女物の香水が鼻についた。
思わず鼻を袖で覆う
ん?この間?
なんの事??
思い当たる節がなく考えていると
「ハンカチ……助かりました♥」
……ああ。あれか
やっと思い出した結城
そして仕方なく視線を逸らしたまま社交辞令を言う
「お気になさらず。」
それだけ。
女性はなおも食い下がる
「本当にありがとうございました!あの、いつもこちらに来られてるのですか??うちの会社にご用事か何か?」
そして結城の車、靴、スーツ、腕時計、そして……顔に目を向けている事に気づく
(はぁ……その目線、凄く下品ですよお嬢さん。)
ため息をつく。
するとその女性に背後から数人の女性が話しかけた
「”中田”さん!もしかして……その方がさっき言ってた!?」
「お疲れ様、そうなのよぉ!!ハンカチを拾って下さった方」
結城の視線が……一気に変わる
(……中田……?)
まさか……あの中田か?
人違いかどうか、自分の考えを確定させるため自然に詰める
優しく穏やかなままの声色で
「大した事はしていませんよ。たまたま拾っただけですし。……でもこれは運命なのかもしれない。」
薄く微笑む
ドキッとした中田が話を繋いだ
(………運命!?)
「わっ……私もそう思いますわ!!ええ!!!」
そのまま会話を続ける結城
「……私、実は御社と少しだけご縁がありましてね。
貴女方とも、もしかしたらこれから仕事でお会いする事もあるかも知れませんね。」
「そっそうなんですか!?」
「えぇ……もし差し支えなければ、どちらの部署の方か、お伺いしても?これも何かのご縁ですしまたお会い出来るかもしれないから。
私はクレストリンク新規開発事業部の結城周と申します。
あ、ご迷惑でしたら、どうか気になさらないでください」
わざと逃げ道を残し情報を聞き出そうとする結城
さりげなく名刺を渡した
それに気付かず中田はパァっと顔を輝かせ嬉しそうに口を開く
「迷惑だなんてそんな!……私共は営業企画部という部署に在籍しております。申し遅れましたが、私の名前は中田京子と申します。部署に中田は私しか居ませんから直接オファー頂ければすぐ対応致します!く……クレストリンクの方だったんですね!?凄い……大手企業……。」
張り切って答え名刺交換をする。下心見え見えの顔のまま、それが悪手だとは知らずに……
貰った名刺を眺め確信した
(……お前が……中田京子。)
一瞬で結城の空気が殺気を帯びる
「……中田さんと仰るのですね。……しかし非常に残念だ、営業企画部でしたら私と仕事でのご縁は無いかもしれませんね。」
「……そうですか。それはとても残念です……」
悲しそうにする中田に言葉を続ける
「あ、でもね、個人的に懇意にして頂いてる方は営業企画部に1人だけいるんですよ。……偶然ね」
冷たい目線のまま
優しい口調で
「そうなんですか??うちの部署にお知り合いがいるんですね。どなたかしら」
あわよくば結城と仲良くなりたい
あけすけて見える言動
静かに笑みを深める
先程とはまるで違う悪魔のように残忍な微笑みで呟く
中田は結城に射抜かれるような視線を向けられ
一瞬背筋が凍る───
「『篠山部長の愛人で、山本係長にも手を出したヤリ〇ン』」
その男性の口から出た言葉とは思えない程の下品なセリフ
だか……どこか聞き覚えがある
結城を囲んでいた女性達もビクッと反応し、顔面蒼白で固まる
それを確認し更に続けた
「そんなレッテルを貼られてしまった女性ですよ。
……貴女に。ご存知ですよね?」
一気に血の気が引く中田
固まったまま動けない周りの女性達と目が合う
以前給湯室で触れ回った事が嘘だとバレてしまうと、焦った中田は言い訳をする
「あ……安達さんの事ですか!?それは皆が言ってた事です!私だけじゃありません!火のない所に煙は立たないって言うからきっとそうだと……」
ハッと鼻で笑う結城は冷たく言葉を紡ぐ
「……私から言わせれば……よっぽど貴女の方がそのレッテルに相応しいのではと思ってしまうのですが。……だって……ねぇ?……おっと失礼不躾でしたね。」
下から上まで舐めるように見たあと
クックックッと嘲笑うように肩を揺らし目線を逸らした
派手な花柄のガッツリ胸元の開いた谷間を強調させるカットソー、ウエストマークした太めのベルト。
そしてタイトでかなり短めのスカート、黒の透け感の強めなストッキング。ギラギラのハイヒール。
およそオフィスで着てくる服装とは思えない服。
"ダサい"結城の態度がそう物語っているのが分かった
顔をみるみる真っ赤にしていく中田
羞恥に塗れた醜い顔で
彼女を囲む女性達
確信は無い
だが安達さんの名前を出した時のあの反応と気まずそうな顔
それだけで十分だ。
結城はその周りも…絶対に許さない。
「まぁ、噂話を人前で嘲笑する人間も……品性疑いますよね。」
酷く冷たい……
軽蔑の目を向けた
ヒッと声を出しそうになる
女性達
「大変貴重なお時間を、本当にありがとうございました。
……あ、それとこれはあくまで忠告なのですが、念の為。
次安達さんに何かをしたら……
あなた達の誇りである営業企画部で働けなくなる覚悟はなさった方が懸命ですよ?
知ってます?あなた達のした事っていくらでも民事で訴訟出来るって。訴えられたら事ですよね?……会社から。」
恐ろしく残酷に……それでいて優雅な微笑みを浮かべる結城
凍てつく空気に堪らず中田は頭を下げる
「っっ!!!……しっ……失礼します……!!」
即座に立ち去ろうとする中田に結城は声をかけた
「ああ、そうそう……余計なお世話かもしれないけど中田さん。目は口ほどに物を言うと言いますからね。……気を付けた方がいい。クックックッ」
蔑み軽蔑する視線を向けたまま前髪をかきあげる
意味がわかった中田は更に顔を赤く紅潮させ
生きた心地もしないまま必死に走り去る
取り巻きの彼女達も一緒に逃げて行った。
(……ふん。カス共め……あそこまで釘を刺せば安達さんに害を及ぼすことはもうないだろう。……まぁ、中田だけは後で地獄を見る事になるだろうけどな。)
フー
とため息をつき
エントランスに目を向ける
松井と……澪桜が出てきた。
安達さんだ!!!
ああ、今日も……物凄く可愛いな……俺の女神
先程までの
どす黒かった気持ちが一気に消え
ポワポワと結城に花が咲く
「お疲れ様です。安達さん」
とびっきりの笑顔で言った
「お疲れ様、結城さん」
微笑む澪桜
そこに要らぬ声が遮る
「ぐあああああ!甘すぎる!!」
ジロっと睨む結城
先日松井に気持ち悪いって言われたことを
まだ根に持っていた
「松井さん……君は早く帰ればいい。お疲れ様。」
シッシッと手を振る
うん。率直に辛辣
「私と澪桜先輩がラブラブだから妬いてるんですか?残念でした!結城さんに入り込む隙はありません!」
ギューーーっと澪桜をハグする松井
それを見てギョッとした
「何してるんですか!?安達さんがっ嫌がってますから!!……離れてください早く!!」
ひっぺがそうとするが……離れない
澪桜はヘラヘラしたまま立ち尽くす
「沙也加ちゃぁん苦しいよ」
「澪桜先輩っ!好きっ♥」
「触るな!安達さんに!!!」
必死に剥がそうとする
が、剥がれないし、下手に触れられない。
結城の気持ちを知った上で
面白がっている松井。
それが分かるから余計に腹立つ
「てか結城さん、なんなんですか?アレ」
ニヤッと笑って言う松井
更に結城で遊ぼうとする
「な……何がですか??」
澪桜を自分の方にやり防御体制に入る
「……澪桜先輩はタラちゃんじゃないですよ。ぶはっ!!」
「!!!!!!」
安達さーーーーーーーん!!!なんで言うのぉぉぉぉ!?!?
心の中で絶叫し真っ赤な顔で澪桜を見ると
「……☆」
変なウインクで親指を立てている。
「……最悪……最悪だぁ」
1人撃沈した。




