73話 ネオンブルー
「あ”ーーーー歌ったねぇ!!」
喉仏辺りをゴキゴキ鳴らしながら満足そうに言う澪桜
ご満悦そうな顔
「ケホッ……歌いすぎて喉痛い」
結城は今満身創痍
何故かというとあの後、歌ウマ認定をされた彼は、国内外の知ってるアーティスト全てを澪桜に聞かれ『この曲は知ってるかな?これは??』などと質問攻めにされ
リクエストされまくったから。
その度に『上手ーい!!』と持ち上げられるから
嬉しくなって結城もその気になってしまう
そんな無限地獄に陥っていたのだった。
でもその中でも僥倖だったのは澪桜の曲の趣味。
間口が広そうだとは思っていたが予想を遥かに上回り
振り幅は350°ほどありそうな程広く結城の好きなアーティストもほぼ全部網羅していた。
歳も近いというのもあり懐かしい曲の話で盛り上がった。
車では遠慮して曲を流さなかったのだが、それももう心配なさそうだ。
(むしろ車の中で熱唱しそうだな安達さん。そしたらたくさん彼女の歌声が聴ける。)
そう思いながら会計に向かう結城
隣で自分が支払いをする!と息を巻く澪桜に優しく目を落とす
帰る前にもう一つだけ……寄りたい場所が出来てしまったのだ。
会計の順番と同時に結城はカードを出す
「なっ!!!」
澪桜が何か言いたげに結城を見上げる
それをイタズラな顔で勝ち誇って言う
「残念、俺のが早かった〜」
結城の少年のような言い方に毒気を抜かれた。
そして少しずつ少しずつ……
澪桜が朝から感じていた不安が溶け
安心に繋がっていく
支払いを終わらせ外に向かう
背伸びをする結城に澪桜は提案した
「今日……何食べたい?」
びっくりした顔をして結城が振り向く
「……お邪魔してもいいの?」
「何言ってるの?当たり前じゃないか。さぁ!帰ろ」
満面の笑みで答える
結城は澪桜に頼み事をした
さっきとは違い
自分でも不思議なくらい
気軽に……
「じゃあ、帰る前にちょっと寄りたいとこあるんだ。お世話になってる人にプレゼント買いたくて。寄ってもいい?」
そしていつものように澪桜の為に助手席のドアを開ける
無意識に。
「ん?いいよ!その間に何食べたいか考えておいて?今日買い出ししたばかりだから冷蔵庫は万端だよ!」
澪桜も当たり前のように乗り込んだ
「そうだなぁ……カレー食べたいなぁ」
「何カレー!?」
「……?カレーはカレーでしょうよ」
何言ってんのと言わんばかりの結城
澪桜は首を振る
「ちーがーうーよー。マッサマンとかイエローとかダルとかバターチキンとか薬膳スープとか色々あるだろう!?」
「……固形ルー使わないの?カレーも?」
「使うやつでもいいよ!?」
「待って……情報量多すぎるからちゃんと考えるよマジで。」
2人はいつの間にか
いつもの2人に戻っていた。
関係は……変わってしまった。
もう、親友には戻れない。
でも離れた訳じゃない。
ただ必然と……変化していくだけ。
2人の知らないところで。
───
「到着したよ。」
結城はにこやかに澪桜の方を向く
「ここかい?私はここで待ってる?」
「んー……ついて来てくれたら嬉しいな。俺じゃ分からないから選ぶの手伝って欲しい。」
そう言って車を降りてエスコートする。
いつもやっていたように。
「……私なんかがオシャンティーな結城さんに助言なんてできるかな」
「出来るよ。君の得意分野なはずだから。」
結城は優しく答えた
おずおずと外に出た
澪桜は……目を見開く
煌びやかに輝く白い店内
ガラスのショーケースに沢山の輝くアクセサリーが並ぶ
こじんまりとしたセレクトショップのジュエリー店
ブランド物ではなく
作家の一点物などを扱っていそうな
澪桜の好きそうなショップ───
少し複雑な気持ちになる
何故か……
(お世話になってる人って……もしかして女性?)
ザワっ……
首の後ろあたりに不快な感覚が広がる
今まで感じたことの無いような
黒い感情。
澪桜は戸惑った
こんな気持ちは初めてだった
「?……どうかした?」
甘く響く結城の声
「っ……なんでもないよ。行こうか」
そう言って澪桜は無理矢理笑い
店内に入っていく
(なんで私は……こんなに焦っているんだろう……結城さんに頼られて嬉しいはずなのに。)
「いらっしゃいませ。ごゆっくりご覧下さい」
若い女性の店員が声をかける
「すみません、少し見させて頂きますね。」
結城がいつも通り丁寧に対応した。
女性店員達が……固まる
頬を染めて
見ないふりもできた。
何時もなら気が付きもしない結城への視線。
でも今日の澪桜は何故か気付いてしまう。
(……モテるって……やっぱ本当だったんだな。
結城さんだもん……そりゃそうか。)
どうしようもなく惨めになった。
ここから逃げ出したくなるほどに。
黒い思考から逃れる為に声を出す
「お世話になってる人って女性だよね?幾つくらいの人?どんな石が好きかな。ネックレス?リング?」
仕切り直して
調査を始めた
「うん、女性だよ。
んー。歳は俺らと同じくらいかな?
細かな趣味は分からないんだよね。でも俺は青が似合う気がするんだ。仕事中も付けられる物がいいなって思ってる。」
店内をゆっくり見て回りながら結城は答えた
「……それじゃあ……ネックレスかな。石はサファイアか……タンザナイトか……アパタイトとかか……?」
そう呟きながら店内を巡る
アクセサリーショップにしては珍しく色んな鉱石を扱っていた。
複雑な気持ちを抱えながらも澪桜は次第に楽しくなってくる
(アレキサンドライト!?……こっちはピンクスピネル!!……うわぁぁぁぁ!すごい!透明度が高い!クラックが無い!!!)
キラキラと光るジュエリーを見つめ楽しそうにしていた
結城はさりげなく店員にカードを差し出す
普段使わない……黒いカード。
「支払い用に預かっておいて頂けますか?」
「か……かしこまりました。」
店員は一瞬顔色を変え対応した
カードを受け取るのを確認した後
また目線を澪桜に戻す
楽しそうに隅から隅まで見て回っていた。
するとピタッと……澪桜が止まる
結城はゆっくり彼女に近付いた
「……どう?良さそうなのあった?」
「……これ……パライバ……なんて綺麗なネオンブルー。発光してるみたいだね」
華奢なグリーンゴールドのチェーンに小さめの宝石がさりげなく主張する。
濃厚な色味の透明度の低い石。だがそのせいで余計に光っているように見える
「本当だ。綺麗だね……こんな宝石初めて見たよ」
後ろから優しく声をかけた
「……結城さん、これがいいよ。きっとその人も喜ぶよ?こんな美しいネオンブルーのパライバはなかなか市場に並ばないから。」
寂しそうに呟いた
結城は店員に合図する
すると鍵を持ってショーケースを開けてくれた
結城に手渡されたネックレス。
「安達さん。少しだけ髪の毛かきあげてくれる?」
「ん?どうしてだい?」
「……俺が日頃お世話になってる人に付けて欲しいから。……さっきそう言ったじゃん。」
イタズラに答えた
澪桜は振り返る
焦りや……不安が……結城の優しい瞳に捕らえられ消えていく
……意味が分かった───
「……え……?私に?」
「ほら、髪の毛かきあげて!……安達さんの鈍感!」
おちょくるようにわざと言った
甘い空気になり過ぎないように。
自分が抑えられるように……
「ムカつく!言い方ムカつく!!」
澪桜は悪態を付きながら髪を分ける
白く美しい項
触れないように結城はネックレスを付けてあげる
鏡を覗くと
そこには優しく光り輝くパライバトルマリン。
発光するように胸元を彩る
「うわぁぁぁぁ!発光してるみたいだぁぁぁ!」
一気にキラキラと目を輝かせはじめる澪桜
「凄く綺麗。やっぱり思った通りだ。安達さんは青が似合うね」
笑みを深め鏡越しに前に立つ澪桜と目を合わせる
さりげなくショーケースの中の金額部分を手で覆い隠したまま、後ろから澪桜に触れないまま包み込むように。
ちらっと左のショーケースあたりに目をやる
結城の手で……見えない
「……なぜ値段を隠す」
「……それはね、安達さんは知る必要がないからだよっ☆」
てへぺろっと返す
「金額確認しないと……到底プレゼントとして頂けませんけど!?」
「金額ぅ???ナンノコトカナ?オレニホンゴワカラナイ」
急にカタコトになる
「バリバリ日本人だろうがぁぁぁ!お前の体はほぼ米で出来てるだろうがぁぁぁ!」
「俺の身体の殆どはメロンパンで出来てるよ☆」
澪桜が会話に夢中になっている間に
店員に会計を促す
「……糖尿になるぞ。マジで」
「そうならないように最近は安達さんのご飯食べてるから大丈夫!」
店員が持ってきた領収にサインを入れ
カードを受け取った
それに気付く澪桜
「あー!!!!」
「はい。会計終わり。帰ろ?」
ニコニコと結城は店員からジュエリーケースと鑑定書の入ったショップの袋を受け取り店を出る
「もう!強引がすぎるよ!結城さん!!」
チャラっと首に光るジュエリー。
澪桜にすごく似合うネオンブルー。
車の前で助手席のドアを開け待つ結城
ゆっくり澪桜が近づく
「……誕生日おめでとう。安達さん」
「……11日だって。」
照れたように下を向いたまま呟いた
「うん。だからね、28年前の5月11日。生まれてきてくれてありがとう。その日に生まれてきてくれたおかげで俺は君に出会えた。
だからその感謝の気持ち。」
澪桜はゆっくり結城を見つめた
朗らかに微笑む結城はとても純朴で真っ直ぐで
輝いて見えた
彼がくれたパライバトルマリンのように。
「っ……大切に大切に保管するよ。特別な日に付けられるように。」
結城はキョトンとした
「え?毎日使ってよ。せっかく買ったんだし」
「パライバの硬度は7。水晶とかと同じレベル。毎日付けてたらクラックが起きて割れてしまうよ。
しかも紫外線に弱いから色が退色してしまう。
大切にするなら湿度と温度が一定の冷暗所に保管がベスト。」
ショックを受ける結城
「それ早く言ってよぉぉぉぉぉぉ!!!」
思いっきり仰け反った。
せっかくかっこよくキメたのに
俺って最後の最後でいつも台無し。




