71話 3:52の恋人
狭い2人用のカラオケルーム
L時のソファにギチギチにはめ込まれてるテーブル
結城と澪桜は並んで大きなスクリーンの前に座った
触れそうなほど近い澪桜に
緊張してしまう
「っ……せ……狭いですね」
視線が泳ぐ
「……二人でカラオケってなったらこんなもんだよ」
そう言ってタッチパネルを手に取った
膝が当たる
ビクッと跳ねる結城
「すっ……すみません」
顔が真っ赤になる
(やばいやばい!!こんな……狭いなんて思わなかった)
普段カラオケなんて縁のない結城はパニックになった
「気にしなくていいのに。結城さん足長いし、狭いから仕方ないよ。また当たっても気にしないで?」
そう言ってマイクを渡す。
「私は声量があるからハウリングしないようにエコー切るけど、都度戻すから安心して。」
そう言って笑った
その無防備な笑顔に……いつもの笑顔にホッとする
「……いいですよ。ずっと切ってて。おれは気にしないから澪桜さんの歌いやすいようにして?」
「……そうかい?じゃあ遠慮なく」
そう言って設定を変える
「……でも俺どうしよう……下手なのに……緊張してきた……あだ……安達さんの耳が……腐る!!!」
バクバクと早くなっていく心臓
先程までの大人な余裕は皆無になっていく。
それと同時に……澪桜の知る周が少しずつ顔を出し始める
いつもの"親友"の彼が
それを見て澪桜は嬉しくて思わず揶揄う。
「私だって下手なんだ。気にしなくていいってば!あたしは結城さんの歌ってるとこが見たいだけ。レアだからね!!」
思わずいつもの調子で突っ込む
「モンスターみたいに言わないで!!SRじゃないから俺!!」
「SSRだね!」
思った通りに返ってくるツッコミに安心して
ケタケタ笑って返した
「思ってたよりレア度上だった!そりゃありがとよ!!!」
コツン───
澪桜は……わざと膝を当てた
「……良かった。何時もの結城さんだ。」
すごく嬉しそうな彼女の横顔に
意識を全て持っていかれる
なんの事か分からない結城は顔を赤くしながら視線を外した
「っ!!……なにそれ。」
「さて、どっちから歌う?」
優しい声
自然と戻る視線
澪桜がマイクを持ったまま頬杖を付き横目で聞く姿が目に映る
その無防備な色気に当てられ
喉が……鳴った
「あ……安達さんから。アリア……歌って?」
思わず甘えた声で言ってしまった
まだ俺と親友で居てくれているのか
確かめたくて
ふっと笑い澪桜が応えた
「いいよ。私なんかのなんちゃって英語でいいなら。」
そうだった。
君はあの曲がどんな歌か知らなかったんだった。
一呼吸置いて……
更に結城は続ける
「……ねぇ、歌詞って見なくて歌えますか?」
「……耳コピだからね。多分歌えるけど、どうして?」
安達さん、ごめんね……
どうか今だけは
こんな卑怯な俺を許して欲しい。
たった一度きりのわがままを聞いて欲しい。
「俺を見ながら……熱唱……して欲しい。……君の本気の歌声が聴いてみたくて。」
心臓がうるさくて
緊張しすぎて視点が合わなくなる。
指が……震える
澪桜は頷いた
「そんな事でいいなら、喜んで。
結城さん、よっぽどこの曲に思い入れがあるようだね?留学の頃を思い出すのかい?」
そう言いながらタッチパネルを操作した
「……思い入れ……こないだ出来たんです。」
ポツリと呟く
「ん?……それはどうゆう事?」
「すっ……好きになったってこと。この曲、こんなにいい曲だったんだなって。聴き流した事しかなかったから、ちゃんと聴いたのはこないだが初めてだったんですよ。」
慌てて誤魔化した。
完璧だった敬語がどんどん薄れてきてる、結城さんが戻ってきてる。
「……そっか。そう言うことって結構あるよね。」
思わず嬉しくてはにかんだ
「じゃあ、……歌うね!結城さんのリクエスト!結城さん見ながら。……ちょっと照れるけど」
そう言って曲を入れた。
結城は姿勢を但し隣に居る澪桜に体ごと向ける
澪桜も正面になるように周に向き直る
距離は……50cm。
伴奏が流れ始める
静かに……息を吸った
響き渡るガラス細工のような声
結城は目を細め
泣きそうな顔で……澪桜を見つめた
アリアの……澪桜の歌を噛み締めながら───
Your innocence makes me want to cry.
貴方の純粋さに涙が出そうになる
When I’m with you, I’m so happy it’s almost scary.
貴方といると私幸せ過ぎて怖くなるの
No matter how much I try to show my affection, it never feels enough.
愛しさを伝えても伝えてもまだ足りない
What are you thinking, as you just smile at me?
微笑んでるだけの貴方は今何を思う?
If only we could share this feeling forever
永遠に愛を分かち合えたら
If we could stay together forever
この先ずっと一緒にいられたら
It would feel wonderful
最高の気分よ
But I know it’s just a dream that never comes true.
でもきっとそれは決して叶わない永遠の幻
Please notice me, I’m begging you
気付いてお願い
You’re the only one I have
私には貴方しかいないの
You’re the only one
貴方だけなの
Turn around, look at me
振り向いて
Stay here by my side
そばに居て
Please don’t leave me
どうか行かないで
I need you right now
貴方が必要なの
たった……3分と52秒。
その間だけ。
君は俺の最愛の恋人。
俺を見て
俺に愛を囁き
俺を欲してくれる。
現実の俺と同じ気持ちで……追いかけてくれる。
どんなに嬉しい事だろう
どんなに幸せな事だろう。
君に見つめられて
こんな言葉を投げかけてもらえるなんて
その真っ直ぐで美しい瞳が
その透き通るような綺麗な声が
俺を必要としてくれる。
俺はこれ程に卑怯で愚かな人間だというのに───
申し訳なさと自責の念で
胸がいっぱいになる。
ありがとう、安達さん。
そして本当にごめん。
大好きだよ。
一生届かなくてもいいから。
気付かなくていいから。
たくさん傷付いても構わないから。
だから今だけは……この瞬間だけは……
俺のものでいて。




