69話 変わってしまった二人
「うーん!美味美味!!」
モグモグと食べる澪桜
それを見つめながら結城は口角を上げる
美しい所作で口元にフォークを運ぶ
「……良かった。1回安達さんを連れて来たかったんですよねここ。」
クラシックのピアノが優雅に流れる店内
ゆったりと過ぎる時間
贅沢な午後の一時を凝縮したような雰囲気
ここだけ異世界のように感じる澪桜
「……にしてもここゴージャスだねぇ。お昼のランチなのにディナー食べに来たみたいだよ。
私こんなフランス料理のコース食べたの初めて。」
そう言いながらも器用に使いこなすフォークとナイフ
澪桜の綺麗な食事作法にうっとりする
「予約無しで入れて良かった。俺も此処に来たのは初めてですよ。部下達がオススメだってよく言ってたのは聞いてたんですがね」
そう言ってホタテを口に運んだ
「……ほほう?……親密な……部下かい??」
ニヤッとイタズラに笑って返した
「っ!!!違いますよ!男性社員です!!!女性が圧倒的に多い職場ですが……男性社員だっているんですよ!」
焦った様子で弁解する
「ほーん?」
半信半疑だ
「っ……それにその親密ってなんですか!?安達さん以外に親密な人なんて居ませんから!!俺は!!」
フンッとそっぽ向いて反抗した
「いやいや、人聞きの悪い言い方はやめてよ!!何その親密って!?親友なだけじゃないか!!」
「親しく濃密な……親友でしょ?☆」
フォークを置いて首を傾げた。
ウインクしながら。
「なんだその卑猥な言い方は!!!」
いつの間にか……2人の掛け合いは普段のものになっていく
少し安心した澪桜は外の景色を見た
店内に射し込む柔らかな午後の日差しがガラスのような瞳に反射する
その横顔がとても幻想的で
思わず呼吸を忘れる
「綺麗だね。日頃の喧騒が嘘のようだよ」
小さな唇から紡がれる言葉が
甘く結城の脳に直接響く
「……本当に……綺麗だ」
まっすぐ澪桜だけを見つめて言う
視線を感じた澪桜と目が合う
心臓が……跳ねる
「……ね?いい席だよ本当に」
また景色に戻る澪桜の視線
結城の気持ちは……届かない。
それでも伝えられた。
面と向かって。
それがとても嬉しい
"愛してる"
それは絶対に言えない。……一生。
だけど君が世界で1番綺麗だって
伝えるくらいは許されるよね。
そう願う結城
「……そうですね。」
この時間を永遠のものにするように
結城は長いまつ毛を揺らし呟いた
客観的に見ればとても甘い恋人の二人
会話も……温度も。
だけど本当は
亀裂が入ってしまった歪な親友という関係。
いつ崩れてもおかしくない危うい二人
澪桜はふと結城に視線を戻し眺めてみた
フォルムの美しい長い指が優雅に動き
フォークとナイフを操る
口元に運ぶ所作、一つ一つが洗練されていて素晴らしい
静かに味わって食べる姿が絵画のようだった
見られていることに気づいた結城は
澪桜に視線を送りゆっくり大切そうに微笑む
「また……二人で来ましょうね。」
優しく甘い
包み込むような声で囁いた
胸が苦しくなる。
何故、彼は初めの頃に戻ってしまったんだろう
後悔が……急に押し寄せた
また泣きそうになる
急いで下を向いて料理を食べるふりをした。
呼吸を整えてから精一杯笑う
「うん……そうだね。また来たいね、ここの料理凄く美味しいから。」
澪桜の儚く美しい表情
結城は目を開いた。
息を飲むほど美しくて
……何度も何度も君に一目惚れする俺をどうか許して。
「また何時でもお連れしますよ。今度はちゃんと予約して。」
サラリと靡く髪
その隙間から切なげな瞳を覗かせた
愛しさを全面に出しながら言葉を紡ぐ
そんな大人な色気を醸し出す結城の表情を見て
何故かまた、胸が締め付けられた。
会話はある程度戻れた。
ノリも前のように振る舞える。
結城さんも合わせてくれる
でも、一歩引いた大人の対応のまま。
距離は縮まない……
確実に変わってしまった。
もう、前の私たちではない。
……私のせいで。
自分勝手だとはわかってる……だけど
どうか……
無邪気に笑ってた結城さんに、もう一度また会えますように
……昨日までの親友の結城さんに。
目を瞑って
フォークを置いた




