60話 変化
土曜日朝9:50
黒く輝く滑らかなフォルムの美しいセダンの前にもたれ掛かるように立つ男性。
時折腕時計を見る
(……ちょっと早く来すぎたかな。)
ポケットからスマホを取り出し画面を開いた
……通知が1件
『今から出るよ』
澪桜からだった。
ソワソワする結城
風になびく髪を後ろに流す
塀の後ろから澪桜がひょこっと顔を出した
「おはようっ!今日楽しみだねぇー!」
ニコニコと寄ってくる
結城は笑みを深め応える
「おはよう。昨日はよく眠れた?
ごめんね、俺遅くまでお邪魔しちゃってて。起きるのきつくなかったですか?」
澪桜の心配をする。
昨晩は結局1時半までくっちゃべってたのだ。
「全然大丈夫だよ!寧ろ結城さんの方が大丈夫かい??あんま眠れてないんじゃない?運転してもらうのに申し訳ないよ」
心配が返ってくる。
結城は助手席のドアを開けながら流すように言う
「俺は帰って風呂入って速攻爆睡したよ。質のいい睡眠取れたから万全の状態です!
それに運転好きだから、全然問題ないですよ。
……心配してくれてありがとう」
澪桜が乗るのを確認しドアを閉める
運転席側に静かに乗り込み澪桜がシートベルトをしたかを確認した
「さて!行きますかっ」
エンジンをかける
「うおーーー!!箱根!初箱根だっ!!テンション上がるぅぅ」
ウキウキしながら両手をあげる澪桜
2人を乗せ車は静かに出発した
途中飲み物と軽食をスタパに寄って購入し2人はドライブを楽しむ
「……ねえ、買ったは良いものの……これいつ食べる気?どこか寄る?座れるとこに。」
紙袋の中の澪桜お気に入りの軽食。シナモンロール。
コールドブリューを飲みながら結城は返す
「?何言ってるの?普通に今食べたらいいじゃない!」
「いやいやいやいや!こんな高級車の中で食えるかぁ!!カスが落ちようもんなら土下座しなきゃ行けなくなるっ!!」
「……誰に土下座する気?笑
いいって、食べて。俺にもちょうだい?」
運転しながら長い腕を伸ばし袋から取る。
そして何の気なしに口に運ぶ
「ああ!!!」
「んーー。まだ温かくてうまーー。シナモン効いてる〜」
ボロボロカスが零れる。
が、全く気にしない結城
「ああああ!めっちゃ零れてる!汚い!!こら!
服!!汚れてる!!!」
アワアワする澪桜
口の端に付いたアイシングをペロッと舐め
イタズラに笑う
「ほら。安達さんも食べないの?俺貰うよ?」
澪桜は一生懸命結城の服に落ちたカスをコロコロで取っていた
結城と目が合い呆れたように笑う
「もう!……いいんだね?私もボロボロ零すよ??」
「いいよ別に。俺そんなの気にしないし。ほら早く食べて??冷めちゃうから!」
「もぐもぐ……本当だ……うまーー。」
「……うまー。」
ボロボロ零しながら2人は黙々と食べる
コーヒーと共に
───
楽しそうに車の中で景色を見ながら揺れる澪桜
「いやぁ〜本当に快適ですなぁ!この車内は!」
「出た。安達のおっさん」
ブハッと笑いながら変なあだ名を付ける
それにカチンと来た彼女が振り向く
「むむ!?安達のおっさんとはなんだ!うら若き乙女に向かって!!!この歩くポンコツがっ!!!」
「いや、なんだその通り名は!!!違うし!俺ポンコツ違うし!!」
「あーーー!!!人がせっかくこの車の乗り心地の良さに浸っていたと言うのに!邪魔するよ!!所有者が!!」
その言葉に気を良くした結城は髪をかき揚げながら
微笑んだ
「……そんな気に入ってくれてたんだ。そりゃ嬉しいね。」
「……うん。お父さんの乗ってた車とは全然違うね。あれは殺人マシーンだったからね。」
「さ……殺人マシーン!?なんで!?どんなの乗ってたのお父さん」
澪桜が手で形を作りながら説明する。
でも運転してるから見れない。
「……なんかね、こう……白い箱みたいな……バン?みたいなやつ。乗り込む位置の高い」
「ああ、ワンボックスね。」
「そうそうそれ!!でね、後ろに工場の工具とかなんやかんや乗せてるんだ!だからね、こう……少しの段差で……こう……揺れるんだよ!!!乗って3分で三半規管破壊だよ!!!」
真剣な顔をした澪桜が隣でダスダス揺れる
それがおかしくて爆笑してしまう
「ぶっはははははははははは!!!やめて!それ……やめて!!!!あははははははは!!揺れるから!車が揺れるから!!!」
「分かるかい!??凄いんだよ!!こう……ね?!……こうだ!!!この車と全然違うんだ!!!」
「分かった!!分かったから!!!!あはははははは!!!腹が痛い!!」
賑やかな車内。
しょーもない会話をしながらドライブを楽しむ2人
あっという間に都心から離れていく
どんどんと変わりゆく景色を眺めていた澪桜は
おもむろに結城の横顔を眺める
視線に気付き照れたように
一瞬目を合わせる
「……どうかした?」
「最近さ、結城さん敬語……あんまり使わなくなったよね!!今日なんかほとんど使ってない気がするよ」
ニコニコしながら澪桜が言った
「あ……そういえば……そうかな?」
思い返すように顎を摩る
「だいぶ私に慣れてきたのかな?
……不思議だよね、山本さんと話す時はフルスロットルなのに。」
「いや、アレはもう仕方ないでしょ。だって山本だし。」
ここには居ない山本にも辛辣。
「仲がいいんだねぇ。」
しみじみと言う
「そうだけど、そうじゃないよ。安達さんとも仲良いでしょ?けどなんて言うか……雑に扱いたくないんだよね。だからかな?」
───君が大切だから。
透けるニュアンス。
「あー!なるほど!山本さんだから雑でいいのか!なるほどわかる気がする」
納得する澪桜
こっちも辛辣。
「敬語……嫌だった?なるべく自然に話してるつもりだけど。」
少し不安になる。
確かに最近減った気がするけど
まだ言ってる気もする
意識してないからよく分からない
「全然嫌ではないよ?……でもまあ、敬語無くなっていくのはなんか……嬉しいね。
気を許してくれた感じがして。」
コーヒーを飲みながら澪桜は微笑んだ
「……そうかな。ずっと気を許してるつもりだけどな俺」
少し恥ずかしそうにした。
「……そうだね……それは確かに!こないだガム踏んでブチ切れてたもんね!ガムに!!!」
あはははは!と笑う澪桜
「いや!今のはそういう意味じゃないでしょ!?やめてよ!!残念な俺の話蒸し返すの!!!」
忘れて欲しいのに澪桜はしっかり覚えてる
「だって……『誰だこんなとこに吐き捨てたのは!?クソが!!紙に包んで捨てやがれぇぇぇ!!』って……ぶふっ!……はい私です!なんて名乗らないよ絶対……ブハッ!」
……しかも最悪だ。
事細かに覚えてる……。
「腹が立ったんだよぉぉぉ!!!やめてよぉぉ!またそれ山本とかに言うんでしょ!?」
「……言う。」
「そこは嘘でも言わないって言ってよ!!」
「……いや、言うでしょ。だって……新着だよ?」
ニヤッと笑う澪桜。
「俺のかっこ悪い話をトピックス化するなぁぁぁ!」
車の中で大騒ぎする2人。
楽しいドライブは続く。




