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社会不適合者の恋愛論  作者: 澄泉


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58話 正月ウエスタンと澪桜の懺悔




うまうまとチーズ饅頭を食べる2人

こんな時間に何と背徳な事か


「……うまー。」

「……うまー。」


二人で同じことを言いながらコーヒーを飲む


「……これ、病みつきだ。……マジで俺、太りそう」


「いつも食べてたお昼のスイーツパンよりマシだよ」


そう言いながらもうひとつ摘む澪桜。


食べる姿を肘をついて眺める結城

(ああ、一口が小さい。必死に食べてて可愛い……でもそれより今は……)


おもむろに口を開く


「ところでさ、さっきの話……続きは?」


やはり気になる

澪桜の過去。

元彼の事。


結城の知らない澪桜

和やかにお茶をしているあいだも

少しザワついたままだった。



「?……さっきの話?……ああ、1週間付き合った話かい?」


「……話してくれるって言ってたでしょ?」


少し……責めるような言い方になる

すると澪桜は少し顔色を曇らせた


「……私に幻滅しないなら。」


結城は動きが止まる

……幻滅?

なんでそんな顔するの?



「し……しませんよ。幻滅なんて」


焦って視線を外し前髪をかきあげた。



「じゃあ、話そうかな。忘れられない元彼の話。」


"忘れられない"

そんなにその男が君の心の中にいるの?

なにがあったの?


気持ちが抑えられなくなる


「……早く聞かせて。」


イラつきが声に出てしまった。


「どこから聞きたい?」


「……もちろん出会いから。」


もう

後戻りできない。

きっと傷つく。

分かっているのに。


「……彼は取引先の人だった。何度かうちの会社に来ていてね。契約の見直しとか、打ち合わせとかで。営業担当と一緒に顔を合わせていたんだよ。私は企画提案と補佐としてね。

それで5~6回目の打ち合わせの後声をかけられてね。


『前から気になっていました。連絡先を教えてください』てね。それで連絡先くらいならとLINUを交換した」


淡々と話す澪桜。

結城に聞かれた事実を感情も無く。


それがまた……痛い。

膝に乗せた手に……力が入り爪が食い込む


「それで……告白されたの?」

自分でもびっくりするほど冷たくなる声

嫉妬が……俺の心を埋め尽くす


「……そうだね。LINUで言われたよ。普通を知らないからそんなものかと思った。

……付き合ってもいいけど、その前に私は条件を付けたんだ」


「……条件?」


「そう。これが確約されなければお断りしますとね。

1つ目、私は貴方を好きではない。好きになるまで待てるか。

2つ目、誰とも付き合ったことがないから、触れるのは私が好きになってからにして欲しい。

……このふたつを条件にした。

そしたら私のペースに合わせるって了承したよ。……彼はね」


「……それで?」


低くなる声。

誰に向けるでも無い怒りが込み上げる。


「そして交際がスタートした。……年末にね。声をかけられたのは仕事納めだったからね。

そして初デートは大晦日になった。近所の神社にね……現地集合だよ。」



「そうなんだ……」


静かに相槌をうつ

荒れ狂う心を隠しながら


「それで初詣が終わった後、歩いて帰ろうとしたら『帰りは車で送るよ。夜道は危ないから』と言われて送って貰えるのは有難いと感謝したんだよ。近所と言っても歩いて15分くらいかかる所だったからね。

そしたらね、途中でドライブがしたいと言い出した。

全然関係ない道に逸れて行って私は不穏に思った。

案の定……ホテル街に入ろうとしたんだ。」


ザワっ

結城の手の甲に血管が浮き出る


「信号停止の時に慌てて車を降りようとした。

そしたら笑いながら『冗談だよ。清純ぶってるのかと思った。マジでバージンなんだ、ウケる』って言われた。正直恥ずかしいと思ったよ。

そして、男の人の車に乗るのが怖くなったのはそれが原因だね。」



「何で!?そんな最低なやつと付き合ったの!?その場で別れてやれば良かったじゃないか!何でタクシーで帰らなかったんだ!!!」


結城は怒りで我慢できなくなり声が大きくなってしまった

澪桜はびっくりした顔をして結城を見る


「どうしてそんな怒るんだい?」


「だって……酷いじゃないか……何なんだよ告白しておいて……安達さんのこと好きなんじゃないのか!?」


俺なら……絶対君を傷付けたりしないのに。

ぶん殴りたいよ君に代わって。


「……大丈夫、大して傷付いてないよ。相手の事を好きでも何でもなかったし。まあ、好意も無いのに付き合った天罰かな?とは思った。

真面目そうな人だから安全とも限らないって事も学んだよ」


「安達さん、何でそんなあっけらかんと話すの!?」


「いや、これで話が終わりじゃないからだよ?

確かに酷い事言われたよ。トラウマも出来た。

でも彼の気持ちも分からんでもない。25歳でバージンなんて信じられないと思われるのも事実なのかもしれない。

それに……私だって大概だよ。」


「……大概?」


「そう。その日の彼氏の服装に……ツボってしまったんだから。」


「え?……どんな服装だったの?」


ツボる程の服装って……?

想像つかない。


「……キャメル色のテンガロンハットを被り、真緑のブロックチェックのネルシャツを着て、アウターにベージュのダウンベスト、そして腰にはチャンピオンベルトのようなターコイズの入ったゴテゴテのベルト。

コーデュロイの色鮮やかなボルドーのスキニー、そして極めつけがオレンジ色のウエスタンブーツだった。……かな?」



「は?……え?……ちょ……ちょっと待って?」


理解が追いつかない。

色彩が……というかファッションセンスの様子がおかしい

そんな格好して外歩けるやついるの?

さっきまでの黒い感情がどこか彼方に吹っ飛ぶ


澪桜遠い目をしていた


大概って……まぁツボるよそりゃ。

ある意味納得した

だって、変だもん


考えれば考えるほどおかしくて……真面目に聞きたいのに腹は立つのに……顔が引き攣る


「私は呆然としたよ。大晦日におよそお正月とは思えない格好で夜なのにサングラスを付けて現れた彼氏。

神様より注目を集める彼。

機微の分からない私でも分かるほど、とても褒めて欲しそうな様子なのに、一切の語彙が出てこない私。むしろ心の中で爆笑していたしね。」


想像しただけで結城は笑いそうになる

大晦日に現れた色のセンス皆無のウエスタンな男

しかも夜にサングラス。太陽皆無。

そいつが颯爽と寄ってくる

一人クリスマス仕様で。

もう、我慢できない。


「ぶっぶふーーーーー!!!なにそれ!?ありえないよ!!そんなやついないよぉぉぉ!!!」


耐え切れず腹を抱えて爆笑した


「いやいや!本当なんだよ!!!嘘じゃない!そしてやっぱり笑うよねぇ!?あはははははははは!!!」


澪桜も釣られて笑い始めた


「一人……クリスマスじゃん!!終わったばっかじゃん!お正月に……神社でウエスタンて!!そりゃ目立つよ!!!サングラス!サンがいないよ!!!!」


結城はツッコミまくる


「言っちゃダメだ!そんな……言っちゃダメだよ!!ひひひ

……それで私は褒め言葉を必死に考えてこう言ったよ『カラフルだね』って。」


「安達さん!!それ褒めてないから!!!」


更にツッコむ。



「だって!それ以外の語彙なんて見つからない!未だに思い出すけど……やはりこの語彙以外出てこない!!

彼は誇らしげにこう答えてくれたよ。

『俺はね、前は無彩色しか着なかったんだ。でもこないだ服を買った時に綺麗な店員さんに、色味を使うとオシャレになりますよって言われてね。だから目覚めたんだよ。色に。君ももう少し色を使った方がいいよ』

って。

それで理解した。

なるほど、無彩色+差し色に1色を使うという店員のアドバイスを、全てカラフルにしたらオシャレと意味を履き違えたんだなって。」


「……的確な推論すぎる」


「……その後彼とどう詣でたのか、お賽銭入れたのかすら記憶が無い。ファッションセンスが衝撃的すぎて。思い出してこうやって笑ってる私も……大概性格悪いよ……ごめん、元彼よ。あはははははははは!」


結城は笑みを消した

元彼を庇うようなセリフに腹が立ち言い返す



「ずっと笑ってるけど……酷い事されるかも知れなかったんだよ?何で許せるの。トラウマまで植え付けられたんだよ!?」



「……そのトラウマも消えたよ。結城さんが消してくれたからね。君の車なら怖くない。」



結城は……呼吸を忘れる

俺が……君の心を救った?

どうしよう……嬉しい。


澪桜の言動一つ一つに振り回されてるのに

止められない自分が辛い


「ね?愚かだったでしょう?好きでもないのに付き合ったりしてさ。」


過去の自分に呆れるように澪桜は言う


「そういえばどうしてそんな事したの?」


「24の時に唯一の友達だった子が……親友が結婚してね。

式の彼女は息を飲むほど綺麗で、憧れた。私も幸せを望んでみたくなったんだ。

……人を好きになったことすらないのに。

それでたまたま告白されて、じゃあ……試すか……みたいな感じだね。」


「そっか。それで……」


俺が……出会ってすぐに自ら動いていたら……

俺が……その時そばに居たら……

安達さんはそんな傷負わなくて済んだ



「人の好意を利用して、好きになれるか試しに付き合うなんて事するからああなったんだよ。反省してるし、元彼に対しても申し訳なく思ってるよ。」



「……だから、友達からにしたんだ。その後は」


胸が痛い。

そんな理由で男友達だって作って欲しくなかった。

結局それでも君は……傷付いたんだろ?


俺が居れば男友達なんて作らなくて済んだはず

俺は他の女にシフトなんかしない。



「……そう。でも結果として同じことだったよ。最低なことをしたね。愚かだと自分でも思うよ」


「そこまで思わなくて良くない?好きになれるか努力しようとして貰えるだけ相手としては嬉しかったと思うよ。まあ、最初の彼氏は最低だけどね」


「だからそれを言うなら私もだって。彼の服装を笑い話にしちゃったからね。」


眉を下げながら

へへへっと笑う澪桜無邪気な顔が……堪らなくて

結城は頬杖を付いて首を傾げた。


「俺が女ならそんな変な服装してきた時点で『ダッセ!』て言って帰ってるよ。……安達さんは最低なんかじゃないよ。……少なくとも俺はそう思うけどな。」



「ダッセは酷いよ!!あははははははは!!

……ね?っ……ひひっ……幻滅したかい?」



「親友舐めるなよ?……この程度で幻滅なんかする訳ないでしょ」


不敵に笑いイタズラに返した


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