47話 結城の不安
「はあああああああああ。」
盛大なため息
今日は野菜たっぷりのミネストローネとスパイシーチキンとバゲット。
グツグツ煮込みながら澪桜はおっさんみたいな色気の無いため息をつく
隣で楽しそうに洗い物をしていた結城が心配そうに聞く
「……どうしたんですか?なにかまた会社で嫌な事言われたんですか??」
「ん?……いや違うんだよ……」
ひとさじだけ小皿に移し結城に渡す
「……美味しい!」
凄い眩しい笑顔で喜んだ。
「よしよし。……あ、そうそう、今週の金曜日は一緒に帰れないし晩御飯一緒に食べれないんだよ。だからごめんね。」
ピクっと肩を反応させる結城
一瞬にして笑顔は消え
静かに澪桜の方を向いて聞く
「……何か……誰かとご予定ですか?」
「はああああああ。……歓迎会なんだって、うちの部署の。結城さんのとこはそんなの無さそうで羨ましいよ。……本当今時ありえないよねぇ」
げんなりする澪桜。
最後の仕上げに乾燥バジルをファサファサする。
「……歓迎会。強制参加ですか?
うちの会社は……確かにそうゆうのはありませんね。コンプライアンス的にアウトですから。」
ジュゥゥゥ
同時に焼いていたスパイシーチキンをひっくり返す
「……だよねぇ。羨ましいよそういう今時の考えの会社ってさ。山本さんが間に入ってなるべく減らしてくれてたんだけど……今回ばかりは無理みたいでさー。ああ……無駄金だ。」
嘆く澪桜
結城は少し考えた後言う
「……信じられませんね。
行きたくない人に強制参加なんて。……欠席って無理なんですか?お金も勿体ないですよ。」
(というか行って欲しくない。酔っ払いの男共が安達さんに懸想するかもと思うと気が気じゃない!)
どうにかこうにか行かない方向にしたい結城
会話で誘導しようと目論む
「あたしだって行きたくないよ……とほほ。」
澪桜の本音だろう。
だか今回ばかりは本当に強制参加なのだろう。
会話誘導失敗。
ギリっと奥歯を鳴らす
「……佐野くんも来るんですか?前に言ってた……中田って人も?……男性社員も多いんですか?安達さんの部署は」
嫉妬と澪桜を心配する気持ちが溢れ返ってしまい思わず質問攻めにしてしまう
(俺も……安達さんと同じ部署なら……守れるのに。傍にいられるのに……!!)
歯痒くてスポンジを握る手に力が入る
焼けたスパイシーチキンをバットに移しながら
澪桜は話す
「……佐野くん?そうだよ。佐野くん達新入社員の歓迎会だからね。……ぶぶっ……彼も嫌がってたよ。ったくなんの為の歓迎会なんだか。
中田さんは……知らない。でも私も行くくらいだから来るんじゃない?
男性社員は……まぁ半分ちょい多めくらいかな。うちの課は」
「……金曜日……何処でするか決まったら教えてください。迎えに行くから。
……2時間とかですよね?普通飲み会とかって。飲み放題とか付いてるコース使うだろうから。」
盛り付け用の皿を準備した後
スマホを開きスケジュールを入れる結城
「いいよぉ……実際何時になるか分からないからねぇ。延長でもされたら結城さんに迷惑が───」
「迷惑なんかじゃない。……安達さんが心配だから。……お願い」
食い気味に頼む
(不安で不安で気が狂いそうだ。
もし酔った男に安達さんがホテルなんかに連れて行かれたら……
きっと俺はそいつを潰す。)
独占欲
嫉妬
不安
ただの"親友"なのに
俺はもう後戻り出来ない所まで来ている。
ただの飲み会。
たった数時間の空白
当たり前に傍にられる日々に慣れてしまったせいで
迎えに来なくていいと言う
彼女の気遣いすら不安に変わる
「……じゃあお願いしようかな。二次会とかはちゃんと断るよ。……ごめんね迷惑かけてしまって。」
しばらく考えたあと申し訳なさそうに微笑んだ
「全然いいよ。むしろ……ありがとう。俺のワガママ聞いてくれて。」
優しく抱きしめるように微笑む。
澪桜は目を丸くし結城を見つめた
「……結城さんが……同じ職場だったら良かったのにね。」
結城は目を見開く
(……俺と……同じこと考えてた?)
「そしたら一緒に悩めるのにねぇ。行きたくねーって。ふふふ。山本さんと結城さんのコンビ、職場で見るの面白そうだ。
結城さん真面目だからめっちゃ怒るんだろうねー山本さんに」
クックッと笑って盛り付ける
結城の方を向くと
とても……切なそうな顔をしていた
澪桜はよく分からなくて首を傾げる
「……?結城さん?」
ハッとする結城
「ごめん、なんでもない。……安達さんとこの職場だったら俺は山本に暴言ばっか吐いてますよ。どうせアイツ、適当に仕事してるんでしょ?」
イタズラな顔をして見せる
それを見て安心した
「あはははは!ご明察!」
ニヒヒ!と笑いながら出来たご飯をちゃぶ台に持っていく
結城も手馴れた手つきでカトラリーを出し飲み物を入れる
「ま、有り得ない話だけどね!結城さんは超エリート街道まっしぐらだもんね!」
……線を引かれた気がした。
「……俺はそんなキャリアなんか興味無いですよ。言うほど。」
「そうなのかい?でも凄いことだよ!?その歳で大企業の管理職なんて!並大抵の努力じゃなれないよ!?……仕事、大切なんでしょう?」
「……そうだけどっ……本当に俺が大切なのはっ……」
喉が詰まった。
───君だ。
言いたい
ダメだ
言えない。
……言えるわけない。
「……仕事より自由な時間ですよ。」
目線を逸らして言い訳した。
「分かるよー!その気持ち。ふふふ!価値観が凄く似ているね。それなのに仕事も出来るなんて凄いよ!尊敬してる」
ニコニコと揺れる君。
仕草も表情も何もかもが愛おしい。
こんな醜い嫉妬の塊のような俺に向ける
純粋な笑顔。
罪悪感が押し寄せるがそれ以上に……
こんな君を見られるのは俺だけだという
独占欲と優越感が俺を満たす
分かってる。親友なんてただの嘘だ。
でも俺はその嘘に必死にしがみつく。
君が与えてくれた椅子から落ちる訳にはいかないから。
ずっと君の傍にいる為に。
恋人なんてそんな事は望まない。
だから
神様どうか……
俺から……彼女を奪わないで。
彼女なしじゃもう……生きていけないんだ。
澪桜には見えないように俯き唇を噛み締めた




