42話 傷と恥
就業時間が終わりを迎える頃
疎らになったオフィスの中で
2人は少し会話をしながら帰る支度をしたいた。
「……ふー……なんとかなったな。いや、やばかった……今回は」
山本がデスクで天を仰ぎながら腕を伸ばす
「はい。営業部の上野さんが機転を聞かせてくれて本当に良かったですね。」
澪桜が淡々と言う
「あんの……中田め!全然反省してやがらねぇ!!!お前に担当変わった途端、ネイルと顔ばっか触ってたぞずっと!!!仕事しろ!!!」
イラついたのか
煙草を吸いたそうに頭をわしわしする。
「……はい。見ました。
こればっかりは……人の仕事に対する意識を変えるのって1番難しいですからねぇ。」
「……あいつお前より年上だしな。……無理か」
「……そうなんですね。……それはちょっともう無理かもですね」
二人でため息を着く。
澪桜の精査能力と営業部の上野と山本が直ぐに動いたお陰で取引先とも事なきを得た。
ただ澪桜は心を痛めたままだった。
やはり、あれだけあからさまに嫌われると
気にしないようにしていても
痛いものは痛い。
理由も分からない。だから反省も後悔もしょうがない。
彼女との接点は同じ部署というだけだったから。
会話もほぼ交わしたことが無い。
それなのに……なんで私はこうも人を不快にするのだろう。
……辞めた方が人の為なのだろうか。
いや、これ以上考えるのはやめておこう。
落ちるだけだ
「では、私も帰ります。お疲れ様でした」
気持ちを切り返え、頭を下げる
「おう!周に宜しくな」
オフィスを出ようとした足を止め
澪桜はガバッと振り返る
物凄いがに股で。
「っ!!!……何故それを!?」
クックッと肩を揺らし笑う山本
「仲良さそうで何よりだよ。あいつ楽しそうに話してたぞお前のこと。」
本当は違う。
切なそうに話してた。
愛しくて堪らないというように。
だが山本は隠す。
「っ……筒抜けか……この二人はっ」
今更気付く澪桜。
どんどん赤くなっていく頬
「……弁当。死ぬほど喜んでたぞ」
ニヤッと笑ってとどめを刺す
「ぐあああああ!!!結城さんめぇぇぇぇぇ!!余計な事をペラペラとぉぉぉぉ!!!」
怒りの矛先が
結城に向いた
恥ずかしい!何故それをを嬉々として伝えるんだ!
食費出して貰って、ランチご馳走してもらって、映画まで連れてって貰ったから、帰りにお弁当箱をサプライズで購入しただけなのに。
結城さんの普段の昼食が血糖値爆弾だったから
お弁当作ってあげたくなっただけなのにっ!
結城さんめ!覚えてろよ!!絶対後で説教してやる!!!口が軽い男は嫌われるぞって!!!
ふんふんと息を巻いてエレベーターを降りる
エントランスを出ると
澪桜の会社のすぐ近くで車を停めて立って待つ結城の姿があった。
夕焼けを浴びて結城の色素の薄い髪が輝き
彼を淡く照らす。
仕事帰りの
スーツ姿の結城。
ほのかに風に乗ってアンバーが香る。
心が落ち着く……澪桜好みの優しい香り。
「お疲れ様です。……安達さん」
優しく微笑みかけた
先程までの怒りや恥ずかしさや悲しみも何もかも
その笑顔を見たら
低く柔らかな声を聞いたら……
……一瞬で溶けてしまった
ぐぅぅ!説教してやるんだ!!
と心の中で思いながらも
結城と視線が合っただけで何故か全てを許してしまう。
なんでなのか
自分の気持ちが
澪桜は分からない。
いや──────。
……分からなくていい。
深く考えなくていい。
大切な友達なんだ。彼は……
そう───誰よりも大切な友達だ。
一度深く目を閉じ
澪桜はそう自分に諭した。
「お疲れ様……結城さん。」
心から微笑んで返した。




