30話 助手席
「さぁどうぞお乗り下さい……お嬢様」
そう言って深々と頭を下げクルマの助手席を開ける執事……もとい結城。
なんかやけに様になっててムカつく。
「……なるほど、そうやって女性を誑かしてるんだね……」
白い目で見る澪桜
「んなっ!! そんなわけないでしょ!? 酷いっ心外だ!!」
がーーーん
とショックを受ける結城
そらしょうがない。
だって無駄に様になってるんだもん。
カッコつけようと思った方向性を間違えた。
さっきの仕返しだとばかりに澪桜は笑って返す
「ぷっ!! ごめんウソウソ、冗談だよ。……それではお言葉に甘えて……失礼します」
ゆっくりと助手席に乗り込む
ふっかぁ……
体がゆっくり沈む
余りの乗り心地の良さに体が固まってしまった
運転席に乗り込む結城
澪桜の異変に気づく
「……? ど……どうしました?」
ガバッと結城の方を向きキラキラした目で言う
「このシート!! すごい!!! フカフカしてる!!
後部座席と全然ちがう!!! なにこれ! お高級!!」
語彙力がゲシュタルト崩壊してる。
一瞬キョトンとして
結城は笑う
「ぶはっ! ……そりゃよかった、お気にしたようでなにより。じゃあ、これからはそこが安達さんの定位置ね!」
そう言ってシートベルトをしてあげた。
肌に触れずそっと優しく。
フワッと優しいアンバーが香る
「っ……ありがとう」
つい、かしこまってしまった澪桜
(あれ? なんで緊張してるんだろう)
よく分からない気持ちに戸惑う。
結城は気付かず勢いよく言う
「さあ! 出発だ!! 美術館〜!!」
楽しみだと言わんばかりに飛びっきりの笑顔で言った
それに釣られて澪桜も嬉しくなり片手を上げて言う
先程の緊張はやはり気のせいだね。
そう思いながら
「おーーー! 出発だー!! フェルメール〜!!」
子供みたいにはしゃぐ二人。
行先は美術館。
そんなテンションで行くところじゃない。
───
朝9時47分
駐車場に到着した。
結城の運転技術は高く、全く揺れなくて快適な時間を過ごした。
「運転お疲れ様。ごめんね、私運転出来ないから……というか代われたとしてもこんな高級車運転するの恐れ多くて多分無理だけど」
結城にお礼を言う。
「あはは、そんなの気にしないでくださいよ。行きたいとこあったらどこでも連れて行きますよ? 俺、運転好きだし」
平然と言う。
本当は……ただ、これから先も助手席にいて欲しいだけ。
「凄いねぇフットワーク軽くて尊敬するよ。じゃあ、またどこか一緒に行きたいねぇ。まだ美術館も行ってないけど」
テクテクと美術館に向かって歩きながら澪桜は言った
人一人分開けて結城が歩幅を合わせ
澪桜が危なくないようにさりげなく道路側を歩く
「良いですね! また計画してどこかに行こう。少し遠出がいいかなぁ? 安達さんはどんなところが好きですか?」
「そうだねぇ……足湯が好き。足湯しながら温泉卵食べるの好き」
思いのほか渋い趣味ぶっ込んでくる澪桜
「渋っ! でもいいかも。足湯……癒されそう」
「楽しいよ、色んな温泉の足湯に浸かってね、色んな温泉卵食べ比べするんだ……味が違うんだよ!! すごくない!?」
「え!? そうなの!? すごい!!……でもそんな温泉たまごばっか食べたくない」
元も子もないことを言う結城。
「ええええええ!? 食べようよ! 食べないと後悔するよ!?」
「しない自信がすごい」
がーーーーん!
とショックを受ける澪桜。
なんかすごく既視感がある光景
さっきの真逆。
思わず吹き出して結城は言った。
「ぷっはははは! ウソウソ、ちゃんと一緒に食べるから。足湯しながら」
「ぐぬぅ! 素直じゃない! ……じゃあ今度は足湯行こうね!」
ケタケタ笑いながら歩いて行く。
そんなアホな会話をしていたらあっという間に美術館に到着した。
時刻は今9助手席56分
「すごい! ほぼ開館時刻ピッタリだね!」
パチパチと手を叩いて喜ぶ澪桜
「これで心置き無くゆっくり鑑賞できますね! フェルメール!」
彼女に目を落とし深く微笑んだ
待ちに待った澪桜との美術館デート。
結城は高鳴る心臓に手を当てて深呼吸した。
間もなく開館。




