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社会不適合者の恋愛論  作者: 澄泉
第2章
116/119

115話 猛毒の貴公子

長い!すみません!

書きたい事あり過ぎて縮められませんでした!!




無機質で美しいフロア

何故かザワつくオフィス内

周はいつも通りパソコンで淡々と仕事をこなす。


外注の確認、新しいシステムの運用、契約の精査

12あった新しいプロジェクトの方向性を決め何処に誰を担当させるかも、どのタイミングでどうやって会議を組むかも、取引先の会社との打ち合わせの段取りも頭の中である程度決まっていく。


今日は先週とはうって変わって周はとても調子が良かった。

片手にコーヒーを持ち、一度画面から離れる。

一息つく為に口をつけた。


するとそこに1人の社員が近付いてきた。

パソコンに向かう周の右正面に立つ。

液晶ディスプレイの後ろ側から彼女の頭だけが見えたので視線を向ける

すると向かって右側から恐る恐る近づいてきた


「……マネージャー、資料仕上がりました。遅くなってしまいすみません。明日の会議までに間に合いますでしょうかっ」


新人の女性社員がビクつきながら資料を渡す。

右手に持つ書類に周は視線を落とす


「……。」


本来は先週の金曜日までに仕上げないといけなかった参考資料。

少し思うところはあったが彼女はまだ入って2ヶ月、この資料制作は少し難しい内容だった為、仕方ないと言葉を飲み込んだ。


もちろん周は既に先週の内に自分で資料作成し把握済み。そうでないと会議に差し支えるから。

まぁいい、新入社員の仕事がどの程度出来ているのか進捗を確認する為だと思い直し資料を受け取る。

心の中で静かに呟いた。


……次はもう無いけどね。

まずせめて社会人として遅れた理由はちゃんと言わないと。

まぁ、俺が納得出来る理由なんて無いだろうけど。

難しいとはいえ周りに確認すれば、3時間で出来る内容のものに5日も猶予を与えてたんだから。


顔には一切出さず、怖がる彼女の方に視線を向け

優しくて甘い声色で返した。


俺は苦言は言わない。

自分で気付いて次に活かしなさい。



「ありがとうございました。大丈夫、すぐ内容を確認して覚えますから。業務に戻って頂いて結構ですよ。」



サラッと流れる柔らかな前髪から覗いた瞳が、彼女を捉える

なんと彼が人と目を合わせたまま、穏やかな表情で心から笑っていた。

部署内では前代未聞の由々しき事態だった


その理由はただ一つ。


先週の金曜日から、澪桜さんと付き合えることになったから!

土日祝も平日夜も、何も気にせず一緒にいられるようになったし、電話もLINUも、し放題!!!


澪桜さんの写真だって遠慮なく公認で撮れる♥


結婚指輪と婚約指輪もオーダーした!

届くまでは時間がかかるが…それまではこの指輪がある、澪桜さんと離れてても...これのお陰で繋がってる気がする。


澪桜さんは……もう俺のもの、誰にも渡さない。


ふふ。虫除けもこれで完璧だろう。


周はこの日とても機嫌が良かった。

頭の中は澪桜一色。


だから多少の部下の職務怠慢も、この日だけは多めに見てやろうと思ったのだった。


あと数時間でまた澪桜に会える。

左手の薬指に……視線を落とす。


(あぁ、澪桜さん。愛してる……早く会いたい。だから今日も頑張るからね。)


今此処には居ないはずの澪桜を思い、薄く微笑み色素の薄い頬に紅が差す

妖艶な表情を浮かべた


その顔を……先程のミスをした社員、佐々木が目撃する。


ドキッ!!


慌てて会釈し、デスクに戻る

「やばっ……なにあれ。なにあれ!!!」


半ばパニックになっている。

胸を抑えデスクに突っ伏した。


「ん?どうした??」

隣に座る30代半ばの主婦が声をかける。


「めっちゃ色っぽい顔で"ありがとう"って言われましたっ!!!

しかもかなり締切過ぎてしまってたのに!忘れてただけの私の事全く怒りもせず労ってくれて……あれってもしかして」


ドキドキする胸を抑え、ある可能性を口にしようとした

だがすかさず否定される


「あー。やめとけやめとけ。ちがう。それは有り得ないから。」


ブンブンと手を横に振る主婦

そこに別の社員が椅子を滑らせやって来た


「なぁに??面白い話??」


ゴージャスな雰囲気の緩やかなウェーブヘアの女性


「ああ、この子がね……またやられたらしい。」

「あぁー。佐々木さんもやられたか。」


2人はうんうんと頷く

馬鹿にされているように感じた佐々木は顔を赤くして言い返す


「なっ……なんですか!?だって本当に……マネージャー私に優しいんですよ!」


私の感は、間違ってないはず!


「まあ...たしかにね。今日はやばいくらい酷い。」


主婦は言う


「ええ。それは私も思ったわ。過去一酷いと思うもの。……今日だけでどれ程の被害者が出ることかしら……」


「あんなに色気振りまいて...あの人はどっかの国の、秘密裏に作られた人造兵器か何かかな!

しかもあれが無自覚だからタチが悪いんだよね。マネージャーって。」


主婦はため息をつきながら言う。

それに柔らかなウェーブヘアを揺らしながら同調する女性社員。


「そうなのよねぇ。この部署にマネージャーとして就任した1年間でどれだけの社員が散っていったのかしらねぇ。」


遠い目で言うその言葉に佐々木は思わず食いついてしまった。


「え……そんなにですか!?いや、たしかに……素敵ですが……そんなに!?

流石に1度くらいは、社内恋愛をされた事とか───」


先程の視線が、声が、自分に好意があるからだと信じたくて、可能性を示唆した。

だってあんな目線、好きな相手にしかしないはず。

佐々木はそう願った。


「「ないないないない!!!有り得ない!」」


口を揃えて綺麗にハモる。呆れたように笑いながら。


「マネージャーの通り名まだ知らないの?」


「とっ……通り名ですか?そんなモノあるんですか?」


ゴクッと唾を飲んだ……

2人はニヤニヤしながら佐々木を見つめる


「猛毒の貴公子だよ。」


物凄い厨二病感。


「え!?何ですかそれ!」

ギョッとする


「もしくはサイコ菩薩」


「さ...サイコ菩薩!?」


それはもう、菩薩様じゃない。


どちらにしろ……

絶対関わってはダメなやつ。

それだけは伝わってきた。


「ちなみに、1年間でうちの部署内で撃沈したやつ、推定15人。インターンや、新入社員、転属してったやつも含めだけど。

マネージャーがこの会社に入社してからの累計……他の部署まで入れたら……100はくだらないんじゃない?」


「ひゃっ!?!?」


大きい声が出てしまい、デスクの周と目が合う。

変わらず優しい色気のある笑顔。

髪をかきあげる仕草すら絵になる。


ゆっくりと席を立ち

優雅な足取りで近づいてきて、佐々木達3人に話しかけた

甘く……低い独特な声色

微かにアンバーを漂わせながら


「皆さん楽しく業務をこなしているようで何よりです。..きっと成果も期待出来る事でしょう。……僕は良くできる部下を持って本当に幸せ者だ。」

ふふ……と口角を少し上げる艶めいた唇。

踵を返し颯爽と戻っていく───


主婦とベテラン女性社員は顔面蒼白で息を飲んだ

だが1人だけ反応が違う。


「……はぁ……やっぱり好き。素敵すぎる……」

ほうっと惚ける佐々木


それを見て主婦ともう1人の女性社員は目を合わせびっくりして佐々木に言う

「「いやいや!なんで!?怒られたのに!!」」


「え!?」

佐々木は理解できず2人を見る


「これだから乙女全開の新人は……」

はあ、とため息をつく主婦


「いい加減目を覚ましなさいな。」

爪を見ながら椅子を滑らせ、デスクに戻る社員。


「今のはね、『お前ら話してる暇があるなら成果出せ。出さなかったら評価さげるからな。』って言ったんだよ。

だから佐々木さんも、さっさと業務に戻りなさい。

じゃないと本当に評価下げられるよ?

好意があるなら、尚更仕事に精を出さないと...見限られたくなければね。」


主婦に説教された。


「あと、間違っても告白したり、誘ったりしない事ね。多分物凄く傷付くから。マネージャー、断り方残酷らしいのよね。」


先輩女性社員からは警告されてしまった。


「そうそう。触れるなキケン。観賞用なんだよ、アレは。それがうちの部署での暗黙のルール」


主婦も頷きながら作業に戻る


あの美しくて穏やかなマネージャーがそんな?

未だ信じられないが、2人の雰囲気に嘘は感じられない。


佐々木はこの日初めて周特有の、微笑の嫌味という洗礼を受け混乱した


「……頭の中整理できない」


芽生えてしまった感情は”猛毒”に侵され、もう既に彼女の心を侵食し始めていた───


76話で出てきた女性社員が佐々木さんです。

あの時頼まれた参考資料作成を

翌週月曜日まで忘れてた。

という、お話。

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