111話 むき出しの独占欲
お寺カフェを楽しみ、散策に戻る2人。
周はミニ枯山水キットの入った袋を左手に。右手には澪桜の手を握っていた
「あ!何のお店かな!?」
「ちょっ……」
毎回毎回ふいに外される手。
そして行きたい方向に急に突っ走る澪桜。
楽しそうに横断歩道を渡った先のお土産屋さんに向かう彼女を後ろから小走りで追いかける。
すると通話しながら横切る男が目に入る
こちら側からは澪桜しか通ってない。
あからさまに振り返り舐め回すように目で追いかける若い男性。
澪桜にずっと視線を送りながら会話を続ける
「うん……いや、今めっちゃ綺麗な子いたんだよ。ナンパ?はは、どうしようかな……今から追いかけてっ!?」
周の殺気立った形相の意図に気付き足早に横断歩道を走り去って行った。
先程も寺を出る際、すれ違いざまに男の視線が澪桜を追いかけていたのに気付き睨みつけたばかりだ。
イラつきが抑えきれないまま直ぐに澪桜の入った店に行く
周が来たことに気付いた澪桜は手招きして楽しそうに商品を見せてくれる。だけどその内容に全く集中できないでいた。
本当に……無防備すぎて危ない。
目を離したらダメだ。
もしこれが彼女1人だったら……?
もちろん彼女は悪くない。
だがどうしても……先程の出来事に腹が立って仕方ない
純粋にデートを楽しみたいのに。
「……周さん?」
ハッとする周
澪桜の顔に心配そうな表情が浮かぶ
「……ごめん。何でもないよ」
淡い微笑みで優しくそっと髪に触れる
先程は我慢した。
だけどもう……無理だ。
店を出た後周は優しく、それでも簡単には外れないように少し力を込め指を絡めて手を繋ぐ。
澪桜が離れて行かないように。
先程のように反対側の店に行こうとする彼女。
だが俺の手は振り解けない。
「……私あの店行きたい」
「うん。一緒に行こうね?離れないで、危ないから。」
さわやかに微笑む周に澪桜は眉を下げながら視線を向ける
(過保護なんだから……)
フワッ
風に乗ってあのスモーキーなチェリーが漂う
いつものアンバーが温もりを与えより大人な香りへと昇華して。
少し歩みが遅くなる澪桜に気付き首を傾げる
「どうしたの?具合でも悪くなった?」
心配になって思わず顔を伺う
「……この匂い。BALの時の……香水?」
ドキッ
気付いてくれた事が嬉しくて
覚えていてくれたことが嬉しくて
道の端っこで足が止まる
「……うん。よく分かったね……覚えててくれたんだ」
「いい匂いだったからね。周さんから漂うアンバーに良く合ってる。」
「この香水、思い切って買って良かったな。人生初香水なんだよコレ」
「そうなんだ?……とても良い香りだよ。センスがいいね。」
繋いだ手に少し力を込めて振る。
周の顔を見上げながら照れたように呟いた
「あの時からもしかしたら、私は君に恋してたのかもしれないね。だから今、あの時のこと思い出してこんなにキュンってするのかな。」
「っ……」
なんで俺なんかにそんな可愛い事言ってくれるの。
思わず手を強く握り返した
華奢くて柔らかい澪桜の手の感触が余計に切ない。
こんなにも愛おしい存在がいるんだろうか。
失いたくない。
誰にも触れさせたくない。
周の中の独占欲が顔を出す
「澪桜さん。俺今から重たいこと言うけど……いい?」
「んんん?どうしたんだい?急に」
真剣に、まっすぐに伝える
切実な思いを込めて
「もう、絶対に俺から離れないで。一人で何処かに行こうとしたらダメだよ?」
「ええええ!?何で!?」
「何ででも。さっきも男にナンパされかけてたし、寺でも男にガン見されてた。」
「いやいや、それは無い!」
「ほらね。君はもう少し危機管理能力を高めるべきだ。付き合う前から言ってるでしょ?……自意識過小過ぎるんだよ」
「自意識過小!?初めて聞いたわ!!」
「いいかい?リードみたいで嫌かもしれないから、無理に手を繋がなくてもいいよ。けど、いきなり行きたい方向に走るんじゃなくて俺にも意思表示して。一緒に走るから」
「っ……わっかりましたぁぁ」
物凄い不服そうだ。
なんだそのしゃくれ顔は。
ため息混じりにもう一度説得する。
「今までは何も無かったかもしれない。でもずっとそうとは限らないんだよ。澪桜さん自身が気を付けないと俺も100%は守ってあげられないんだから。自衛、しっかり気をつけて。いい?君は自意識過剰くらいが丁度いい。」
「ふぁい。」
「……指輪、予約しておいて良かった。これはもう明日必ず手に入れないとね。」
「……そう言えば」
「ん?」
「……佐野くん、最近様子が変わったんだよ。それも気を付けないとダメ?」
ピクっと反応する周
佐野というのはあの佐野だよな。
一気に殺気立つ
「……詳しく話聞かせてごらん?」
再びゆっくりと歩き出しながら優しく問う。
だけど逃げ場などない空気。
「それがね、最近私の事『澪桜先輩』って言うんだよ。何度も注意してるんだけどね、異性の先輩を下の名前で呼ぶなって。沙也加ちゃんも呼んでるんだから問題ないって聞いてくれないんだ。」
「はあ!?ダメだよそんなの許したら」
「分かってるよ、引き続きちゃんと注意していくつもり。それに彼、最近距離感が近いんだ。昼ごはん一緒に食べたがるし……あ、もちろん断ってるよ?……でもまぁ、これって気の───」
「気の所為じゃない。絶対に澪桜さんに気がある」
食い気味に否定した。
あれだけ言ってもまだダメか。
「何でそこ言い切るの。違うかもしれないじゃないか」
「男が好意もない先輩の下の名前を呼んだり、プライベートの時間共有しようとしたり、パーソナルスペースに踏み込んだりなんかしないんだよ。ったく、男って生き物が分かって無さすぎるよ澪桜さん」
「そんな事言われても……もう、怒らないでよ」
「怒ってないよ。状況に呆れてるの。……やっぱり俺澪桜さんの会社に転職しようかな。そしたら思い切り守れる」
「……え?周さんと同じ職場……」
一瞬嬉しくなった澪桜は、少しだけ想像する。
周に言い寄る美人な女性社員達に対して、ヤキモチを妬き、美人達のナイスバディさに心が折れる未来しか想像できなかった。
「……ね?いい案でしょう?」
「絶対に嫌だ。死んでも嫌だ」
想像でヤキモチを妬いてしまった自分に腹が立って
繋いだ手を振り回す
「何で!?働く周さんが見られるよ!?それにね───」
理由が分からない周は必死に自分と働いたら色んないい事があるよとプレゼンしまくるのだった。
夕暮れの中
趣のある建物を散策する2人のズレた会話はこうしてずっと続いた




