107話 恋人としての意識
周にLINUを送った後
澪桜は鏡を見ながら少しソワソワしていた
き……今日は人生で初めてのデート。
いや、正確には何度目かのデートなんだけど、実質恋人としては初めてで……って、我ながらややこしいな。
ふいに自分の服に目線をやる。
白のボートネックカットソーに黒いクロスストラップのサロペットスカート。そして色鮮やかな深緑のカーディガン。
これ……変?
普通?
可愛いって思ってもらえるだろうか……??
……ん?
ふと思考し止まる
「周さんの思う可愛いって……どんなの?」
昨日何度か可愛いと言ってくれた。
でもなんか、服装とかでは無かった気がする
仕草とか、言動とか?なのか?
そこらへんの下手なAIより優しいからなぁ。
…………男の人の……いや、周さんの趣味がわからん。
ポコン
スマホが鳴った
「着いたよ」
時計を見ると10:40
かなりすっ飛ばして来たみたいだね。
周さんも楽しみなんだと思うと胸が少しくすぐったい。
まあ、あたしセンスないから一人で選んだ所で同じことだね。
周さん服好きみたいだから、今度服買いに行くの付いてきてもらおう。
本人に聞けば確実だしね。
一人納得した澪桜は鞄を持ち外に出る
いつもの周とのお出かけ。
違うのは友達から恋人になった事、ただそれだけ。
それなのにこの高揚感とふわふわ浮いているような感覚はなんだろう。
初めて感じる爽やかな甘酸っぱい気持ち。
不思議と心地よい。
いつもの角を曲がると黒い車の前に周が立っていた
ブンブン嬉しそうに手を振っている
「澪桜さーん!おはよー!!」
キュンっ!
思わず胸が踊る
あの時のまま変わらない周が、優しく包み込むような朗らかな笑顔を向けてくれる。
(なんか……いつもよりカッコよく見える……)
朝日に反射し鏡面のように滑らかな輝きを放つ黒い車
その前にシンプルで清潔感のある服装の線の細い色白な男性。
絵になり過ぎる。
ドキドキしながら返した
「おっ……おはよう周さん。」
澪桜を見つめたままじーっと止まったまま動けなくなった周は、みるみる顔が赤くなっていく。
(やばい!!反則級に可愛過ぎる!!……こんな可愛い人が今日から俺の……彼女……)
「??」
ん?どうしたんだろう周さん。
顔が紅潮してる??
「みっ……澪桜さん……」
「ん?なんだい??……まさか……変!?」
不安から変な体制で自分を見返す澪桜
動きが朝からおっさん。
「いやそうじゃなくて……うっ……美しすぎる。どうしよう俺今日やっぱり、鎌倉行きたくない」
「ええ!?何故に!?」
まじまじと澪桜を眺め
周は溜息をつく
「……澪桜さんが綺麗過ぎて他の奴らに見られたくない。閉じ込めてしまいたい……しないけど。」
少しだけ本気混じりのトーンにどうしたらいいか分からない。とりあえずつっこんでみる。
「っ!///……きっ君は一体どこからその語彙が出てくるんだい?お褒めの言葉として有難くもらっとくけど、鎌倉行きたいから勘弁して。」
照れる澪桜を見て同じ気持ちだと嬉しくなる
ドキドキしているのは俺だけじゃないと必死に言い聞かせた。
(落ち着け俺。初めての彼氏としてのエスコート。完璧にこなさなければ……少しくらい甘い事言ってもいいか……?)
昨日の事を反省し、様子を見ながら言葉を紡ぐ
「ただの比喩ですので、もちろんちゃんとお連れ致しますよ……俺の、俺だけのMUSE。さあどうぞ」
「み……ミューズ!?」
「そう。澪桜さんは女神様だからね」
「またそんな恥ずかしい事を……」
「何故?本当の事だよ。……お手を拝借しても?」
嫌では無さそうな澪桜の様子に内心浮かれる周。
甘い声でそう囁きながら助手席を開け、壊れ物に触れるように優しく手を引く。
相変わらずの完璧なエスコート。
というか前よりやり過ぎレベルのエスコートだよ。
どこの貴族だお前は。
……これで彼女がいた事がないと言うんだから意味がわからない。
ふわっ
一人心の中で呆れ返っていると不意に近づいた周から
微かにスモーキーな甘い匂いがした
いつぞや感じた匂い。
これは確か……
「足元気を付けてね」
至近距離で感じる体温と香り。そして甘い微笑み
その仕草に包容力と色気を感じ、強制的に思考が止まった。
思わず目線を外す
「っ……ありがとう。」
今日は私一人で意識しっぱなしだ。
周さんは余裕そうなのに……
どこまでも大人な周、彼氏だと認識したせいかそれがまた心臓に悪い。
運転席に座りゆっくりと澪桜に視線を向けた
「……俺は君に夢中だよ。本当に綺麗だ」
絹のような髪に触れながら、愛しさを纏った低い声でサラリと言う。
必死で澪桜も思った事を返した
「あっ……周さんも……その……今日もとてもカッコイイ……よ……」
意表をつかれた周はみるみる赤くなり口元を手で隠しながら目を逸らし消え入りそうな声で呟いた
「っ///////!?!?……あっ……ありがと……」
その様子を見つめ少し安堵した
良かった……ドキドキしているのは私だけではないらしい。案外、周さんも同じ気持ちなんだね。
澪桜がほっこりしているとぎこちなく周が口を開く
「とっ……とりあえず出発しますか」
アクセルを踏み込もうとした瞬間、音がする
ブー、ブー、
一定の振動音、スマホのバイブレーションだ。
音の先を辿ると澪桜のカバンからしてるようだった
「……澪桜さん、電話鳴ってる」
「んん?……本当だ。誰からだろう」
鞄の中からスマホを取り出す
(休みの日に電話をかけてくるやつ……誰だ?
嫉妬してばかりの男はかっこ悪いとコラムで見た……けど……ぐっ気になる……)
周は着信が誰からなのか気になってしまっているのを必死で隠した
画面に目を落とした澪桜は図らずもあっけらかんと正解を言う
「……あ、お母さんだ。」
「おかっ……お母さん!?!?」
安心したのもつかの間
一気に焦る周
そう、あの日の無様な姿を晒してしまったトラウマのせいで。
近いうちにご挨拶をと思っていたが毎回不意をつかれる周。シミュレーションが足りてない。
(こっ……今度こそちゃんと良い印象を……。今日から彼氏なんだから!!!ヘマは許されない!!……でも何から話せば!?)
「出まーーーーす!」
「ちょっ……ちょっと待って!!お願いだから心の準備させて!?」
「スピーカーで、出まーーーーーーす」
「何で毎回スピーカーなの!?普通の通話で良くない!?ねぇ!?」
それでもなし緊張するのに澪桜にまで会話と緊張が毎回ダダ漏れ。恥の上塗りとはこの事だと思った




